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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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大地の裂け目

 ヒッポスベックに乗って、砂漠を北へと移動する。

 途中に途中にあるオアシスで休憩を挟みながら、ひたすら北へと向かっていると、やがて巨大な『裂け目』が見えてきた。


「おおー! すっげー!」


 『大地の裂け目』


 その名のとおり、地面がぱっくりと割れている。谷底は深くて底が見えない。これは確かに落ちたら大変だ。


 対岸までの距離もけっこうあるけど、大きな吊り橋がある。


 踊り子の女の子が言っていたとおりだ。


「ここを、通るんですか?」


 深い谷底からはめっちゃ風が吹いている。つまり、吊り橋はかなり揺れている。繋ぎ目の部分からも、ギシギシと嫌な音が聞こえてくる。


 ルージュからオランジュへ渡るときにも吊り橋は渡ったけど、橋の長さも、揺れの大きさも、あのときの比ではない。


「いいじゃねぇか、スリル満点で。ナナミ、怖いなら兄ちゃんが手を繋いでやろうか?」

「いらないわよ」

「真顔で言うなよ……冗談だよ……」

「おーいノゾム、めっちゃ揺れるぞこれ! 楽しいぞ!」


 吊り橋の上でぴょんぴょん跳ねるラルド。

 吊り橋はさらに、揺れる、揺れる。


「壊れたらどうするんだよ!!」


 ノゾムは顔面蒼白で叫んだ。腰はもちろん引けている。ノゾムの頭の中は、恐怖でいっぱいだ。


「大丈夫だ。ゲームの中の橋なんだから、そう簡単に壊れるものか。下を見ずに渡るんだ。なに、ものの数分で終わる」

「オスカーさん……」


 淡々と告げるオスカーに、ノゾムは眉尻を垂らした。


「なんで、こっちを見ないんですか?」

「…………」


 的確なアドバイスをくれたオスカーだが、その黒曜石のような瞳はノゾムのほうを向いていない。吊り橋も見ていない。『大地の裂け目』さえ、彼は視界に入れないようにしている。


「はっはーん。オリバーさてはお前、吊り橋が怖いんだろ!」


 にんまりといたずらっ子のように笑いながら、ラルドは指摘してはならないことを指摘した。


「……オスカーだし、別に怖くはない」

「なんならオレが、『レビテーション』で向こう側まで送ってやろうか?」

「えっ」

「途中でMPが切れて真っ逆さまになるかもだけど」

「このやろおおおおおおっ!!」


 期待させるようなことを言いやがってええええええっ! と叫ぶオスカーの顔は、真っ青だ。目尻には涙も溜まっている。


 やはり吊り橋が怖かったらしい。オスカーには失礼だが、ノゾムは仲間が出来て嬉しかった。


 ケラケラと笑うラルドの横腹に、ナナミがグーパンを入れる。「子供か!」って、うん、本当にそのとおりだと思う。


「まあ、こんだけリアルじゃあ、仕方ねぇよなぁ。手を繋いでやろうか、オスカーくん?」

「結構だ」


 ジャックの提案をピシャリと跳ね除けて、オスカーは真っ青な顔をしたまま、恐る恐ると吊り橋に足をかけた。


 手足は微妙に震えているけど、その足が止まることはない。


 勇敢な人である。


「…………」

「余計なことはするなよ」

「へいっ!」


 キラキラとした目で見つめてくるラルドに釘を刺すことを忘れずに、オスカーはゆっくりと吊り橋を渡り、向こう岸へとたどり着いた。


「よし。ノゾムくんはどうだ? 行けるか?」

「……。ワイヤーを出すので、持って貰っていいですか?」

「よし来た」

「ヒッポスベックたちは渡れそうにねぇな〜」


 オスカーに続いて渡り終えたラルドが言う。そういえばそうだ。ヒッポスベックたちの体格では、吊り橋を渡ることは難しい。


 何しろ吊り橋の幅は、人が2人、どうにか交差できる程度のもの。


 ヒッポスベックたちの体は、大きすぎる。


「アイテムボックスに入れたらいいじゃないか」

「…………」

「なんでそんな目で見んの!? アイテムボックスの何が悪いの!?」


 中は意外と快適かもしれないじゃないか! と、ジャック。


 それは確かにそうかもしれない。が、道具を収納するアイテムボックスにテイムモンスターを入れるというのが、なんとも言い難い気分にさせる。


「橋を渡る間だけでも入れとけばいいじゃないか!」

「う〜ん……」


 それは確かにそのとおりである。ヒッポスベックたちを、吊り橋の入口に放置しておくわけにもいかないし。


「ルージュの家に置いておけば……」

「それじゃあ、ここからムタルドまで歩いて行くのか? 距離も分からないのに?」

「う〜〜〜ん……」


 それを選ぶには、ヒッポスベックの旅は快適すぎた。


「迷宮図書館に行ったあと、またこの吊り橋を渡るかどうかも分からないんだぞ。……まあ、図書館の次にどこに行くかってのは、決まってないけど……」

「あ、私カジノに行きたい」

「ナナミがカジノ? やめとけよ、ボロ負けする未来しか見えないぞ」

「なんでよ!?」


 ジャックの言葉にナナミは憤慨する。

 ナナミがカジノに行きたがっていたとは、初耳だ。


 ここまでの道中で、お金がいろいろと必要だったからだろうか。


「よっぽど運が悪くなければ、10万ゴールドくらいサクッと稼げるわよ!」

「10万? 目標が低すぎないか? とにかくやめとけって。お前はその『よっぽど運が悪い』やつなんだから」

「そんなことないわよ!」


 いや、そんなことはあるだろう。


 ノゾムも人のことは言えないが、ナナミの運の悪さは筋金入りだと思う。


 しかし、ここに戻ってこないかもしれないというなら、なおさらヒッポスベックたちを置いていくことは出来そうにない。


 ノゾムはしぶしぶ、左腕のリングをヒッポスベックたちに近付け、アイテムボックスに収納した。


「アン!」

「……ロウも入るの? でも……まあ、橋から落ちたら大変だもんね」


 ロウは尻尾をふりふりしながら、自らアイテムボックスに入っていった。


 ロウが入りたがるということは……ジャックの言うとおり、中は意外と快適なのかもしれない。

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