黄の国の歩き方
「この国の女王様は謎解きがお好きで、監獄に入った犯罪者たちに、よく謎かけをしていらっしゃるの」
踊り子の女の子は、そう話を切り出した。
通常の服役期間は5日。見事に謎を解くことが出来れば服役期間は1日短くなり、出来なければ1日延びる。
捕まった犯罪者に対しての措置は各国の王が決めていると、オランジュの王フォイーユモルトは言っていたけど、ジョーヌではそれが、謎解きになっているようだ。
「オランジュの『バトルアリーナ』5連勝よりは、簡単そうですね」
「分からないぞ。謎かけをする側がひねくれた人間なら、ややこしい問題を作ったりもするからな」
そうなんだろうか。オスカーの言葉にノゾムは首をかしげたが、そういえばノゾム自身、ゲーム内の謎解きにはだいぶ苦労した記憶がある。
箱を動かして道を作ったり、仕掛けを作動させて道を作ったり。
あーでもない、こうでもないと、めちゃくちゃ時間をかけてやっていたから、それも父親に笑われたっけ。
「ある時女王様は、服役した犯罪者3人の頭に後ろから帽子をかぶせて、こう言ったの。
『あなたたちに赤か白の帽子をかぶせたわ。帽子を外さず、互いに相談し合わず、自分の帽子の色を当てられるかしら?』
すると不思議なことに、真っ先に帽子の色を当てられた人がいたのよ。その人はどうして自分の帽子の色が分かったのかしら? 私、この謎の答えが気になって気になって、仕方がないの」
あなたたちには分かるかしら? 踊り子の女の子は、そう言ってノゾムたちを見据えた。
「なるほど。この謎を解けば、俺たちの質問に正しい答えをくれるわけか」
「面倒くさいわね……」
面白そうに笑みを深めるジャックの隣で、ナナミは顔をしかめる。
「まあ、お金を払うよりマシだけど……」
「はいはい! 帽子のツバの色を見て分かった!」
「それだと他の2人だって分かるはずだろ……」
元気よく手を挙げて答えるラルドに、オスカーがツッコミを入れる。そのツッコミはもっともだ。きっとツバのない帽子を使ったに違いない。
ノゾムは「うーん」と考え込んだ。
「鏡を隠し持っていたとか……?」
「いや」
オスカーが首を振る。
「おそらく『他の2人の帽子の色が同じだったから』だろう」
帽子の色は赤か白のどちらか。
視界に入る他2人の犯罪者の帽子がどちらも赤だったとしたら、自分は白。白だったとしたら、自分は赤ということになる。
「他の2人が動けなかったのは、視界に入る帽子の色が赤と白の両方だったからだ」
「なるほど」
「そういうことだったのね!」
踊り子の女の子は目をキラキラと輝かせた。
「あなた、天才ね!?」
「いやそんなことは……それより図書館の場所を」
「ああ、そうだったわね。それではルールに従って答えさせていただきます」
女の子は静かに息を吐き、口を開く。
「『迷宮図書館』はここから北、大地の裂け目を越えた先、大山脈の麓にある『ムタルド』という古代遺跡の街の中にあるわ」
「ムタルド……。大地の裂け目というのは?」
「その名のとおり、大地に大きく走った裂け目があるの。落ちたら大変よ。でも吊り橋があるから、越えるのは簡単よ。すごく揺れるけどね」
すごく揺れるのか。それは怖い。
ちなみに『ムタルド』というのも例に漏れず色の名前である。
フランス語でマスタード色のことだ。
「今度こそ正しい情報のはずだよな?」
「たぶんな。これすら嘘なら、広大な砂漠をシラミ潰しに探すしかない」
「うわあ……」
それは勘弁である。
その後はジャックとオスカーが【踊り子】を習得。オスカーまでというのが意外だったけど、「役に立つかもしれないからな」とオスカーは言っていた。
たとえ役に立っても、みんなの前で踊りを披露するのは恥ずかしいとノゾムは思う。ナナミもそう思ったようで、ジャックに誘われるのを断固拒否していた。
それから露天商を見て回ったけど……地図はやっぱり売っていなかった。
「この剣と薬草の合計額は2050ゴールド。剣と薬草の価格の差は、ピッタリ2000ゴールド。さてさて、薬草の値段はいくらかな?」
店主が出した問題に答えて教えてもらったのは、『この国には地図がない』ということだった。
行きたい場所があるなら、人に尋ねるか、オスカーが言っていたように砂漠をシラミ潰しに探すしかないらしい。
「めんどくさい国だな〜」
「ラットくんは謎解きが苦手みたいだしな」
「ラルドだよ。だってあれ、絶対に50ゴールドだって思うじゃん!!」
ちなみに露天商の店主が出した問題の答えは「25ゴールド」である。
50ゴールドでは剣の値段が2000ゴールドになってしまうので、差額が1950ゴールドになってしまう。直感で答えてしまうと間違いやすい引っかけ問題だ。
こういった謎かけをひとつひとつ解きながら進まないといけないなんて……確かに面倒くさい国である。