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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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謎解き開始

 舞いの内容にはツッコミどころが満載だったけど、効果は絶大だった。


 オスカーのファイヤーボールは格段に威力が上がったし、グラシオの息吹もパワーアップしたし、復活したジャックが『ブースト』を併用して『居合い斬り』を放てば、巨大ミミズはあっという間に地に伏した。


 おかげでナナミの矢を無駄にすることもなくなった。また作ってもらう予定だけど、作る手間を考えるとできるだけ無駄にはしたくない。


 木を削って矢尻と矢柄を作り、矢羽根を取り付ける。口で言うと簡単に聞こえるが、なかなか手間のかかる作業なのだ。


 巨大ミミズを退治したあと、改めて洞窟の中を手分けして調べた。

 やはりどこにも、図書館へ通じていそうな道はない。


「戻るしかないか」


 ジャックがため息混じりに言った。マジか。ここまで来たのに、振り出しに戻るのか。

 手がかりがない以上、戻る以外に選択肢はないけど、もうすぐたどり着けると思っていただけに、ガッカリだ。


「でも、戻ったところで、また嘘の情報を掴まされるんじゃないかしら?」

「それなんだよなー。そもそもどうして嘘をついたのか、理由が分からなければ対策も取れない」


 あの踊り子の女の子は、悪い人間には見えなかった。

 露天商の主人も、ヒッポスベックを貸し出していた男性も。


 そもそも彼らに嘘をついて得があるわけもない。嘘をついたのには、必ず理由があるはずだ。


「……与えよ、さすれば与えられん……」

「え?」

「ここに来る途中にあった石版に書かれていた言葉だ。これってつまり、ギブ&テイクということだよな?」


 オスカーの言葉にノゾムたちは目をしばたいた。石版というと、スフィンクスのなぞなぞが書かれていた、あの石版だ。


 石版の裏側にはこう書かれていた。



“欲しがるばかりの者に道は示されず。

 与えよ。さすれば与えられん”



「バザールの人々に質問をすると、必ず何かを期待するような顔をされる。あれは“対価”を期待していたんじゃないか?」

「……なるほど。なのに俺たちが何もくれないから、そのあと落胆したのか」

「そして、“欲しがるばかりの者”に嘘の情報を与える」


 この国のNPCにはそうする決まりがあるのではないかと、オスカーは推測した。


「つまり“対価”さえ払えば、本当の情報をくれるってことか」


 ジャックは「なるほどね」と口角を持ち上げた。攻略の筋道が見えてきた感じだ。


 一方でナナミは不満そうに口を尖らせる。


「またお金を払うのー?」


 その不満は当然だ。このゲームでは、本当に、全然、ちっとも、お金が手に入らない。


 なのにお金を支払わないと正しい情報がもらえないなんて……なんとも世知辛い設定である。


「カジノがある国だからなー。他の国より、金が物を言うようになってんだろ」

「むー。ノゾム、早く『解体』を習得してね」

「が、頑張るよ」

「自分で習得しろよー」

「私は先に『収納』を手に入れたいの!」


 サードスキルの習得には時間がかかる。スキルの習得が早まるスキル、なんてのもあったらいいのに。


 とにもかくにも、ノゾムたちは一旦バザールへ戻ることにした。

 今度こそ正しい情報を手に入れて、図書館へ行こう。


「……“対価”が金とは限らないんだけどな」

「何か言ったか、オリバー?」

「オスカーだ」




 ***




 ヒッポスベックの背に乗って、広大な砂漠を横断して、バザールのあるオアシスへ戻ってきた。


 バザールは相変わらず賑わっている。旅芸人の一座が奏でる音楽、露天商のハツラツとした声。踊り子たちに混ざってダンスをする人々。


「俺も【踊り子】ゲットしようかな」

「おお、オレとダンス対決しようぜ! どっちが華麗に踊れるか勝負だ!」


 ジャックのつぶやきを聞いたラルドが、拳を握りしめて言った。

 ラルドの踊りが華麗であったかどうかは……ノゾムは触れないでおこうと思った。

 このバザールには簡素な役場もあって、そこで転職も可能になっている。


「ダンス対決もいいが、先に用事を済ませよう」


 オスカーはそう言って、きょろりと辺りを見渡す。踊り子たちの中に、ひときわ目立つ綺麗な女の子がいた。


 ノゾムたちを断崖の洞窟へ向かわせた、あの女の子だ。


 オスカーはさっそく彼女に声をかけた。


「なあ、ちょっといいか? 『迷宮図書館』の場所を知りたいんだが」


 問いかけられた女の子はパァッと表情を明るくさせた。出た。何かを期待するような表情だ。


「“対価”なら払うぜ!」


 続けてラルドが言う。女の子の表情の輝きが増したように見えた。


 分かりやすい。

 オスカーの推測は正しかったようだ。


「で? いくら払えばいいのかしら?」


 いかにも不満たらたらで、仏頂面をしながらナナミが問う。お金を支払わないといけないということが、やはり不服らしい。


 ノゾムたちは踊り子の女の子を見る。


「あれ?」


 女の子の反応は思っていたのと違った。

 しょんぼりと眉尻を垂らして、どこか悲しそうな顔をしている。


「ど、どうしたんですか?」

「…………」


 女の子はしょんぼりとしたまま応えてくれない。理由は分からない。分からないが、ノゾムたちが何かを間違っているらしいことだけは分かった。


「もしかして、お金じゃないのかな……」

「ええ? それじゃあ、何を支払うっていうの?」


 ナナミの言うとおりだ。“対価”として支払えるものを、他には思いつかない。


「そのヒントは、おそらく石版の表側だ」


 オスカーがそう言った。それはどういう意味かと、ノゾムたちはオスカーを振り返る。


 石版の表側。


 それは太陽の絵と、『スフィンクスのなぞなぞ』が刻まれていた面のことだ。


「“対価”は“なぞなぞ”。だが、こちらが謎かけをして答えてもらうとなると、『謎かけの答え』も『質問の答え』もこちらが一方的に貰ってしまう(・・・・・・)ことになる」


 ――だからきっと、正解はこう。


 オスカーはそう言って再び、踊り子の女の子の前に立った。


「『迷宮図書館』の場所を教えてくれ。代わりにお前の問いにも(・・・・・・・)答えよう(・・・・)


 一瞬の間。そして女の子は、今まで見た中で一番の輝かしい笑顔を見せた。

 最大のヒントはNPCの表情。

 勘の良いプレイヤーなら、彼らの表情を見てすぐ「“対価”を払う」ことを思いつく。それくらい物欲しげな顔をしてる。

 お金じゃ喜ばない。

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