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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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太陽の石版

 黄金の大海原を、ヒッポスベックは颯爽と駆けていく。座り心地は……正直あまり良くない。でも、風を全身で受ける感覚は、とても気持ちがいい。


 時折出現するモンスターもヒッポスベックがその強靭な脚で蹴散らしてくれる。足止めを食らうこともない。


 この調子だと、図書館まであっという間に行けるだろう。


 いろいろと寄り道したけど、ようやくだ。



「あれ、何かしら?」



 ふいにナナミが声を上げた。


 ナナミが指差した先には、ヘビのように曲がりくねった細長い堀のようなものがある。


「枯れた川じゃないか?」


 オスカーがそう答えた。

 確かに、そんな感じがする。


 川の流れた跡が、細長いヘビのような形の堀になったのだろう。


 枯れ川の横を通っていくと、やがて朽ちた建物群が見えてきた。砂と風に長年さらされてきたのか、石の壁がボロボロに壊れている。


「水源の枯渇と共に放置された町、かな?」

「設定が細けぇな〜」


 ラルドが感心したように言う。

 まったくだ。


 風化した建物の中にはボロボロになった家具が残っていて、まるで本当に、かつて人が住んでいたかのよう。


 町の中心、広場であっただろう場所には、巨大な石版が設置されている。


 この石版もだいぶボロボロだが、上部に描かれた太陽の絵と、刻まれた文字は無事だった。


 書かれている文字は日本語だ。このゲームでは、話す言葉も文字も、プレイヤーが設定した言語に自動で翻訳されるようになっている。


 石版にはこう書かれていた。



 “朝は4本足。昼は2本足。夜は3本足。この生き物は何か?”



 なぞなぞだ。それも、結構有名なやつだ。

 ノゾムも昔、何かで見た覚えがある。


「『スフィンクスのなぞなぞ』だな」


 オスカーが石版を眺めながら呟いた。

 ノゾムたちは首をひねって、オスカーを見た。


「スフィンクスって、ピラミッドの隣にいる、あれですか?」


 人の顔とライオンの体を持つ架空の生き物だ。エジプトのピラミッドの隣に、大きな石像が建ってある。


 オスカーは頷いた。


「スフィンクスはギリシア神話にも出てくるんだ。道行く旅人に謎かけをして、正しく答えられなかった者を食らう怪物として」

「このなぞなぞ、出典は神話だったんですか」


 それは知らなかった。

 しかも、ピラミッドの守り神的な存在だと思っていたのに、怪物呼ばわりされている。


 ギリシア神話の中では、スフィンクスはオイディプスという名の英雄によって退治されたらしい。


「物知りだなぁ、オリバー」

オスカー(・・・・)だ。それにしても、なんでここに、このなぞなぞがあるんだ……?」


 ちなみに、このなぞなぞの答えは“人間”である。


 朝、生まれて間もない頃は四つん這いになって動き、昼、成長すると2本足で歩けるようになり、夜、晩年は足腰が衰えて杖をつくようになる。


 朝、昼、夜というのは、人間の一生を一日に喩えたものなのだ。


「砂漠だからじゃね?」


 オスカーの疑問に、ラルドは軽い調子で答えた。

 オスカーは訝しげにラルドを見る。


「その心は?」

「砂漠といえばピラミッドだろ? ピラミッドといえばスフィンクスだろ? スフィンクスといえば……って感じで」

「こじつけ感がすごいな」


 連想ゲームじゃないんだから。


「裏にも何か書いてあるぞ」


 石版の裏側に回っていたジャックがそう言った。新たななぞなぞだろうか。ノゾムたちはジャックのもとに向かう。


 石版の裏側の隅っこに、小さな文字が書いてあった。


「なになに……“欲しがるばかりの者に道は示されず”……」



 “与えよ。さすれば与えられん”



「これも神話の一節なんですか?」

「いや、聞いたことないな」

「オリバーでも知らないことはあるのか」

オスカー(・・・・)だ」


 わざと名前を間違えるラルドに、オスカーは律儀に訂正を入れる。


「しっかし意味深だよなぁ。そうは思わないか? ラットくん」

「オレはラルド(・・・)だ!」


 ニヤリと笑みを浮かべるジャックに、ラルドは眉を釣り上げて怒った。


 自分がされて嫌なら、しなきゃいいのに。


「とにかく。何かのヒントになるかもしれないし、忘れないようにしておこうぜ」


 ジャックはそう言って、話を締めくくった。




 ***




 遺跡群を抜けて、さらに東へ向かう。

 そう時間が立たないうちに、正面に赤茶けた岩壁が見えてきた。


 バザールで聞いた話によれば、この岩壁のどこかに小さな洞窟があって、そこを抜けると『迷宮図書館』に行けるらしい。


 洞窟はすぐに見つかった。


「ヒッポスベック探しには苦戦したけど、なかなか順調じゃねぇか」

「そうだね」


 ラルドの言うとおり、なかなか順調だ。


 洞窟の中は薄暗くてジメジメしている。地面にはコケが生えているのか、ヌルヌルしていて滑りやすい。ノゾムはアイテムボックスから松明を取り出して、辺りを照らした。


「っ、うわ!?」


 黒い何かが頭上から降ってきた。


「コウモリだ!」


 黒い翼をはためかせ、鋭い牙をむき出しにコウモリの群れがそこにいた。


 しかもでっかい。

 1メートル以上はあるだろうか。


 ノゾムは腕を噛まれた。HPが減る。ジャックがそのコウモリを叩き切った。


「大丈夫か、ノゾムくん」

「は、はい」

「気をつけろよ。ドレイン攻撃をしてくるかもしれない」


 ドレイン攻撃って何だろう。

 ノゾムは首をかしげたが、今は質問している暇はなさそうだ。


 コウモリたちが甲高い声で鳴く。空気がビリビリと震えて、強い衝撃が襲ってきた。それと同時に、HPがまた減る。


「超音波か……!」

「え、あれ超音波なんですか?」


 そりゃあコウモリなのだから、超音波くらいは使うだろう。コウモリは超音波を発した時の反響を利用して、エサとなる虫などの位置を把握する。


 けど、確か超音波って、人の耳には聞こえないのでは……。いや、そうとも限らないのか? 巨大なコウモリだから、音が大きいのだろうか。そして威力もとんでもない。


 暗闇に隠れたままあんな攻撃を続けられたら、たまったものじゃない。


(でも松明じゃ、照らせる範囲に限りがあるし……あ、そうだ!)


 ノゾムはふと閃いた。矢筒に手を伸ばし、ナナミが作った赤い羽根の矢を取り出す。


「ナナミさん、これが使えるかも!」

「何が??」


 ナナミはグラシオの後ろに隠れながら小首をかしげる。ノゾムは構わず、松明を地面に置いて、手に持った矢を弓につがえた。


 ナナミはようやくその矢が、自分が作ったものであると気付く。


「あ、それ、試し射ちしたの? ちょっと、無駄射ちはしないでよね!」


 作るの大変だったんだから! というナナミの言葉に、ノゾムは一瞬だけ躊躇した。


「……無駄にならないことを祈ってて」

「はあ??」


 ノゾムは意を決して矢を放った。狙うは、暗闇の中にいるコウモリたち。


 暗くてよく見えないので当てずっぽうになってしまうが、仕方がない。狩人の『視力補正』に“暗闇でもはっきり見える”というのもついていたら良かったのに。


 射った矢が無駄にならずに済んだことは、1体のコウモリが炎に包まれたことで分かった。


「は……?」


 ナナミはそれを見てポカンと口を開けた。

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