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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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クチバシを持つ馬Ⅱ

「グエッグエッ」

「ケェーーーーッ!!」


 地面に叩きつけられたラルド目掛けて、ヒッポスベックの群れは追撃に向かう。


 どこがおとなしい生き物だ。


「ラルド!」

「くっ……!」


 ラルドは立ち上がろうとするが、ヒッポスベックたちのほうが速い。


 やられる、と思った瞬間、ラルドとヒッポスベックたちの間に、小さな赤い何かが割り込んだ。



「ピィーーーーッ!!」



 カイザー・フェニッチャモスケだ。


 フェニッチャモスケが撒き散らした火の粉に怯んで、ヒッポスベックたちの動きが一瞬だけ鈍くなる。


「『アイシクル』!」


 その隙にオスカーが氷塊を落とした。ラルドはすぐさま立ち上がり、フェニッチャモスケの小さな体を抱き締める。


「うおおおおおおっ! カイザー!!」

「ナイス働きだな、カフェ!」

「カイザーなのか、カフェなのか……。コイツの名前は何なんだ?」

「カイザー・フェニッチャモスケだ!」

「長いな」


 オスカーの問いかけにラルドは嬉々として答える。オスカーは呆れた顔をした。フェニッチャモスケはといえば、「えっへん」と言わんばかりに胸を張っている。


 ヒッポスベックたちの敵意は消えない。休息の邪魔をした人間たちを、今にもその鋭いクチバシで食い破らんとばかりだ。


 バザールで聞いた情報と、だいぶ違う。


「随分と凶暴な奴らのようだが……どうするんだ? 捕まえるのか?」

「捕まえるに決まってるだろ!」

「そうか。テイムには何が必要だ?」

「モンスターの体に触れて、『破邪』のスキルを使うだけです」

「そうか」


 近付くのは大変そうだな、とつぶやいて、オスカーは長杖を構えた。先端に青い宝石のついた、ハンマーのような形状の杖だ。


 魔法攻撃力を上げるだけでなく、敵を殴る鈍器としても使えるらしい。


 ジャックが口元に手を当てて、「ふむ」と呟く。


「じゃあ、まずは連中の足を止めるか」

「よし、オレに任せろ!」

「ピピピィッ!!」


 立ち上がったばかりのラルドがヒッポスベックたちに突撃する。フェニッチャモスケも続いた。


 先頭にいるヒッポスベックの目がギラリと光って、再びラルドを蹴飛ばそうと脚を振り上げる。


「『聖盾』!!」


 ラルドの叫びと共に、輝く光の盾が現れる。光の盾はヒッポスベックの蹴りを受け止めた。


「ピィィィ!!」


 そこへすかさず、フェニッチャモスケが再び火の粉を撒き散らす。


 フェニッチャモスケのレベルはまだまだ低い。だから、あの火の粉を受けても、大したダメージにはならないだろう。


 だが、散りばめられた火の粉は十分に相手を怯ませることは出来る。見た目はわりと派手だからだ。


「アオンッ!」

「あ、ロウ!?」


 フェニッチャモスケの活躍に負けじと、ヒッポスベックたちが怯んだそこへ、ロウが飛び込んだ。


 1匹のヒッポスベックの背中にぴょんと飛び乗り、その首筋に小さな牙を埋め込む。


 仔犬のようなロウに噛みつかれても、痛みはあまりないだろう。それでも噛みつかれるのは不快でしかないらしく、そのヒッポスベックは激しく首を振り、ロウを振り落とそうとした。


「ロウ! 危ないから戻ってきて!」


 ノゾムが声をかけるも、ロウは止まらない。なんて勇敢な仔狼だろう。ノゾム(飼い主)は暴れ回るヒッポスベックを見て、腰が引けているというのに。


 それでもロウを放っておくわけにはいかない。ノゾムは意を決して、暴れるヒッポスベックに駆け寄った。


 触れさえすれば、『破邪』が使える。だが、ヒッポスベックはじっとしていてくれない。


 早くしなければ、ロウが振り落とされてしまう――……



「おとなしくさせればいいんだろう?」



 隣に駆け寄ってきたオスカーがそう言って、長杖を振り上げた。先端のハンマーのような部分を使って、ヒッポスベックの膝の裏を叩く。


 膝カックン(・・・・・)だ。


 ヒッポスベックが崩折れた瞬間、ロウの小さな体はぴょーんと飛んだ。ノゾムは慌ててロウを受け止めた。


「今のうちに」

「は、はいっ」


 オスカーに言われて、ノゾムはヒッポスベックに手を伸ばす。


「『破邪』!!」


 触れた箇所から光が溢れ、ヒッポスベックの体を包み込む。紫色の(もや)が、スゥッと抜けた。


 光が消えた時には、ヒッポスベックの目からは怒りも敵意も消えていた。


 じぃっと見つめてくるヒッポスベックににこりと笑って、一緒に行こうと声をかけると、ヒッポスベックは返事をするように甲高い声を上げた。


 これでテイム完了だ。


「よーし。まずは1匹ゲットだな」

「早くしろイケメン男ー! 盾が壊れる!」

「おう、ラットくん。もういいぞ!」


 ジャックの合図を皮切りに、ヒッポスベックたちを抑えていたラルドが後退を始める。ヒッポスベックたちは、もちろんそれを許さない。


 ラルドが逃げる暇もないほど攻撃を続けるヒッポスベックたちに向かって、グラシオが氷のブレスを放った。


 グラシオが足止めをしている間に、ナナミがラルドのもとに到着する。


「『エスケープ』!」


 ナナミのスキルによって、ラルドは無事に戦線離脱した。


 自分たちが狙っていた人物が突然消えたことで、ヒッポスベックたちは混乱した様子を見せる。


「おーい、こっちだこっち!」


 そこへ姿を見せるジャック。こっちへおいでと手を振るジャックを見て、ヒッポスベックたちの目に再び攻撃の意思が宿る。


「クェーーーーッ!!」

「グェエッ!?」


 ジャックに向かって突進したところで、準備されていた“落とし穴”に全員まとめて落っこちた。


 なかなか大きくて深い穴だ。落っこちたヒッポスベックたちは、抜け出すことが出来ない。


 そこへナナミとラルドが飛び込んで、『破邪』をかける。


 クチバシを持つ馬(ヒッポスベック)、ゲットである。




 ***




 一行を乗せてもらうために5匹を残して、残りは野生に還した。『破邪』の効果で敵意を失ったヒッポスベックたちが旅人を襲うことは、もうないだろう。


「倒さなくて良かったのか?」


 ジャックは小首をかしげて聞いてきたけど、


「あの子たちの仲間を俺たちは連れて行くんですよ!?」

「ひどい奴だなお前!」

「ジャック、サイテー」

「ううううん、またこの流れ……。オスカーくん、俺、変なこと言ったかなぁ!?」

「俺に聞くなよ……」


 ノゾムたちに窘められたジャックはオスカーに泣きついた。


「だってモンスターは普通、倒すだろ!? お前らだって、ここまで倒してきただろ!?」


 確かにそうだが、それとこれとは話が別だと、ノゾムは思う。


「人間は感情を持っているがゆえに、矛盾した生き物なんだよ」


 オスカーはそう言って締めくくった。


 さてさて次は、ようやく『図書館迷宮』だ。方角はここから東。切り立った崖の間にある洞窟を抜けたところにあるらしい。


 世界中の本が集められているという話だったけど、面白い本に出会えるだろうか。


 とても楽しみだ。

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