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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第3章 黄金の国ジョーヌ
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旅は道連れというけれどⅡ

「へぇ、兄弟でアカウントを共有しているのか。まあ、そういうこともあるよな」


 オスカーの事情を聞いたジャックは納得した様子で頷いた。


 何しろ高価なゲームだ。通常のVRゲームの倍はする。ノゾムの場合は開発に関わっているらしい(?)運営の(?)父親から一方的に送りつけられたものだが、一家に何台も買えるようなものではないだろう。


「出発するだぁよ」


 他に乗船する客もいないようなので、船乗りのおじさんはそう言って舟を漕ぎ出した。


 水の流れはおだやかで、舟が大きく揺れることはない。

 水の中を見てみると、何やら巨大な蛇のような魚が底のほうを泳いでいるのが見えた。ノゾムは全力で見なかったことにした。


 アレが襲ってこないことを祈ろう。


「兄妹で別々にゲーム機を持っているなんて、あんたたちの家は相当裕福なんだな」

「いやいや。俺たちは自分で稼いで買ったんだぜ? なあ、ナナミ?」

「ええ。発売されることが分かった頃から、バイト代を貯めてね。親には買ってもらいたくなかったし」

「そうそう」


 『買ってもらいたくない』とはどういうことだろう?


 普通は、買ってもらいたいと思うものなんじゃないだろうか。


「ジャックって引きこもりじゃなかったのか」

「ちょっ! いきなり何を言い出すんだラットくん!?」

ラルド(・・・)だよ。だって、このゲームには課金がねぇだろ?」


 ゲームで強くなるには、時間と金を多くつぎ込むのが、一番手っ取り早い。課金システムのないこのゲームでは、とにかく時間をつぎ込んだ者が強くなる。


 例えばそう、バジルたちのように、夏休みを利用して徹夜でプレイをするとか。


「てっきりジャックもそのタイプかと……。ちゃんと働いてたんだなぁ」

「引きこもりで間違いないわよ。今は引きこもっていても、稼ぐ手段はたくさんあるのよ」

「あ、そっか」

「ナナミー!!」


 暴露するなー! と叫ぶジャックは、どうやら自分の現状を良いものだとは思っていないらしい。


 ノゾムは首をかしげた。


 ノゾム自身、絶賛引きこもり中である。夏休みだというのに、どこにも行かずに部屋にこもってゲームをしている。


 もともとそんなに外に遊びに行くタイプでもないし、どちらかと言えば、家で本を読んでいるほうが好きなタイプだ。


「引きこもりで何か問題があるの?」

「問題か。運動不足になりがちっつーことかな。いきなり走ると危ないぞ。すっ転ぶぞ。運動会の時のオレのように」

「転んだのか、ラルド」

「顔面からスライディングして鼻から血が出た」

「うわそれ痛そう」


 そういえば、クラスメイトの南谷がちょうどそんな感じで、運動会の時に怪我をしていた。


 まさか本人だったりして、とノゾムは神妙な顔でラルドを見る。


 何にせよ、適度な運動は必要ということだ。


「それじゃあラルドも引きこもりってことじゃない」

「だって夏休みだからな! お前らとゲーム内で待ち合わせしてるから徹夜はしてないけど。ソロのままだったら、オレだって廃人プレイをしていたぜ」


 そうして睡眠時間がどんどん乱れていって、登校日にはきっと遅刻していたぜ、とラルドは自慢にもならないことを偉そうに言う。


 ぜひともそのままの生活リズムを守ることをオススメする。


「ジャックも仲間かなーって思ってたんだけど……」

「間違ってないわ。ジャックも廃人プレイ中よ」

「廃人プレイしながら金稼いでんの!? どうやって!?」

「動画配信とか」

「憧れの職業!!」

「俺の話はいいんだよ!」


 ナナミとラルドの会話をジャックはぶった切る。そんなジャックを見つめるラルドの目は、今までとは違い、尊敬に満ちたものだった。


 動画配信者か。クラスの『なりたいものランキング』でわりと上位に食い込む職業だな。


 先生にはよく「これで食っていける奴なんか本当に一握りだからな!?」と言われていた。それでも、多くの子供がその“一握り”に憧れを持っている。


 好きなこと、楽しいことをやってお金を稼ぐって、羨ましい。





「到着だぁよ」


 ワイワイ話している間に、あっという間に対岸に到着した。例の謎の巨大魚は襲ってこなかった。


 大河の向こう側は、どこまでも砂漠が広がっている。


 砂漠といえばめちゃくちゃ暑いイメージだけど、それほどでもない。ルージュやオランジュよりは気温が高い気がするが、たぶん、リアルのほうが断然暑いと思う。


「熱中症に気をつけましょう」って、今日もテレビで言ってたし。


 河岸からほど近い場所にはオアシスがあった。テントがいくつも張ってあって、集落のようになっている。


「ジョーヌの地図はあそこで買えるかな?」

「……ジョーヌは初めてだぁね?」


 舟が流されてしまわないよう桟橋にロープで固定していたおじさんが、奇妙な顔をして聞いてきた。


「ああ、そうだよ」


 ジャックが頷くと、おじさんは何やら考え込みはじめた。


「そうか……気を付けるだぁよ」

「……?」


 どういう意味だろう。訝しげに顔を見合わせる一同を放って、おじさんはロープを固定させる作業に戻る。


 理由を教えてくれる気はないらしい。


「何かあるのかな……」

「強いモンスターがいるとか?」

「それは楽しみだな!」


 ラルドが嬉々として言う。

 ノゾムは全然楽しみじゃない。


「オスカーさんはどうするんですか?」

「図書館があるって聞いたんだが……」

「図書館迷宮ですか。じゃあ、目的地は一緒ですね」

「それじゃあ一緒に行こう。人手は多いほうがいいしな!」

「人手って何ですか、ジャックさん」


 ジャックはわざとらしく咳をする。怪しい。でも、オスカーと行動を共にすることに文句はない。


 お兄さんはなんか……ちょっと……かなり変な人だけど、オスカーは最初にいろいろと教えてくれた人なので、ノゾムは頼りに思っている。

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