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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第2章 バトル大国オランジュ
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バトルアリーナⅦ

 バジルが退場した。しかも自分の武器でやられるなんて、バジルにしてみればかなり屈辱的な負け方ではないだろうか。


(これは復活した時に荒れるな)


 教会で大暴れするバジルの姿を想像し、セドラーシュは辟易した。


「ねぇ、ローゼさん」


 隣から戸惑うような声が聞こえてくる。


 何だろうと思って見てみれば、ローゼがネルケの目を両手で塞いでいたところだった。


「何も見えないんやけど……」

「ごめんねーネルケ。ちょーっとネルケには、刺激が強いかなって思って」


 ローゼは「ごめんごめん」と言いながら、ネルケの視界を覆っていた手をのける。ネルケが見たのは、バジルが光となって飛んでいくところだけだった。


 ネルケは目をひんむいて固まった。耳も尻尾もピンと立っている。光になって飛んでいくだけでこの反応なら、確かにやられた瞬間は見せないほうが良いかもしれない。


 セドラーシュは口元に手を当てて、たった今、バジルを戦闘不能に追いやった男を見た。


 運が良かったのか悪かったのか、前回のチーム戦ではセドラーシュたちはヴィルヘルムに遭遇する前に負けてしまったので、あんな奴がいたなんて思いもしなかった。


「『ジェイドにリベンジする』っていうバジルをつい送り出してしまったけど……僕たちも参加したほうが良かったかもね」


 盾や魔法の援護があれば、バジルとて、もう少しやれたんじゃないだろうか。


 そう告げるセドラーシュに、ローゼはキッパリと言った。


「嫌よ、あんなのと戦うなんて。女の子の顔面をグーで殴るような奴よ? ネルケを殴ったりしたら、あの男燃やしてやるわ」

「……うん、僕もネルケを参加させる気はないけどね?」

「ええっ!? ウチ仲間はずれ!?」


 ひどいよ! とショックを受けるネルケだが、ヴィルヘルムの言動にいちいち怯えていた彼女を参加させるほうが酷いと思う。


「とりあえずネルケ、目を覚ましたバジルがキレて乗り込んで来ないように、ローゼと一緒になだめに行ってくれないかな?」

「セドラーシュさんは?」

「僕はもう少し見ておくよ。バジルが再戦したいって言い出した時のために、アイツの弱点のひとつでも見つけておきたい」

「……分かった」


 ネルケはしょぼんと尻尾を垂らしながら、席を立った。ローゼもそれについて行く。ネルケだけだとこの広い首都の中で迷子になる心配があるが、ローゼが一緒なら大丈夫だろう。


「さて」


 セドラーシュは再びフィールドに目を向ける。


 ヴィルヘルムは再度、ミーナとジャックの攻撃をさばいていた。


 ミーナはがむしゃらに突っ込んでいるようだが、ジャックにはどことなく余裕が感じられる。攻撃しながら、どこか付け入る隙がないかと探しているのだろう。


(物理が効かないなら、魔法が効くというのがセオリーだけれど……)


 そんなことは誰にでも思いつく。ならば、ヴィルヘルムとて魔法に対する何らかの対策は立てているはずだ。


(彼は言動はなかなかのものだけど、理性はありそうなんだよなー……バジルと違って)




 ***




《うわあああああ、バジル選手脱落! これで残る人数は6人となりました!》

《やはり強いの〜》


 ミーナの突きをいなしたついでにその剣を握り、反対側から迫ってきているジャックに剣先を向ける。慌てて避けたジャックのみぞおちに蹴りを放ち、そのままミーナを剣ごと投げ飛ばす。


 壁に叩きつけられそうになったミーナは、アルベルトによって受け止められた。


「大丈夫か、ミーナ!?」

「ううん……遊ばれているみたいで、悔しいです……」


 実際に遊ばれているだろう。その証拠に、ヴィルヘルムは楽しそうに笑っている。


 アルベルトは眉間にしわを寄せた。


「ミーナは素直に攻撃しすぎ。もっとフェイントとかを使ったほうがいい」

「苦手なんですよね、フェイント」

「……うん。知ってる」


 ミーナは狙いがすべて顔に出てしまうタイプだ。たぶん、トランプとかめちゃくちゃ苦手だと思う。そんなことは、アルベルトはずっと前から知っている。


「私が正面から突っ込んで、誰かさんが敵の死角から攻撃する。……そうやって、うまくやれていたんですけどね〜」

「…………」


 そのとおりだ。そして、その『うまくやっていたこと』をぶち壊したのは、アルベルト自身。


「『俺の眠りを妨げるやつは殺す』なんて言って、実際に何人もPKして……本当に意味が分からないんですけど」

「…………」


 そりゃそうだよな、と思う。だってアルベルトは、彼女に何も話していない。


 どうしてアルベルトが眠ることにこだわるのか、その理由を、何ひとつとて教えていない。



「……俺だって分からないよ」



 アルベルトはぽつりと呟く。ミーナの目が向いた。


 おとなしそうに見えて、実は負けん気の強い瞳が、アルベルトの顔を映し込む。


「ミーナは怖くないの? あんなに殴られて、蹴られて……それでも挑みに行くのは、どうして?」


 どれだけ考えても、ヴィルヘルムに勝てる方法は思いつかない。魔法でも使えたらまだ良かったのかもしれないけど、ミーナもアルベルトも、魔法を育ててはいない。


 どうしたって勝てる見込みはないのに、どうしてミーナは挑み続けるのか。


 その精神構造が、アルベルトには理解できない。


「アル……」

「ちょ、おふたりさん、どいてー!!」

「え……うわあっ!?」


 ジャックが文字通り飛んできた。勢いよく。


 ぶつかった3人は仲良く背後の壁に激突して、それから地面を転がった。


 アルベルトがいち早く起き上がる。


「何するんだ、あんた!」

「すまん、不可抗力だ。でもこんなところでイチャついてる君たちも悪いからな。今は試合中だぞ!」

「い、いちゃ、イチャついてなんかないし!」


 ジャックの言葉にアルベルトは頬を赤くして否定した。

「へー? ふーん? ほーお?」と返すジャックの目は、ジト目になっている。


「そうですよ。こんな人でなしとだなんて、ありえないです」


 ミーナも否定した。キッパリとした声で。


 思わず無言になってしまうアルベルト。そんなアルベルトの肩に、ジャックは優しく手を置いた。


「どんまい」

「余計なお世話だ!!」


 ヴィルヘルムが追撃に来る。アルベルトは口を引きつらせた。何も対策は思いついていないのに、なんでこっちに来るんだ。


 ジャックがこっちに来たからか。



「あ、あんた、何か策は思いついたんだろうな!?」



 アルベルトはジャックに問いかけた。


 猪突猛進に挑んでいたミーナと違い、ジャックが何か考えながら戦っていることに気付いていたからだ。


 ジャックは大真面目な顔をして答えた。


「まだ何も」

「おいいいいいいいいっ!!!」

 100話目突破ーーーー!!

 第二章はもうちょっと続きます。

 予定よりだいぶ長くなっとる。

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