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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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罠かもしれないけどスイッチは押す

 つくづく思う。

 彼はノゾムと、正反対であると。


 『悪魔の口』という名のダンジョンへ向かう途中。クルヴェットの森の中にて。


 出来得る限り戦闘を避けたいノゾムとは対照的に、ラルドはとにかくモンスターに突撃しまくっていた。


 狼の群れがあれば飛び込み、ハチミツを持ったクマを見つければ飛びつき、飛びかかってくる猿がいれば覚えたばかりだというスキル『精神統一』からの魔法を試したり。


 サッカーボールくらいの大きさの火球が猿を襲うのを見て、ノゾムは目を丸めた。


「これが魔法……。あれ? ラルドって【魔道士】なの?」


 それにしては、手にしている武器は大きな剣だけど。


「メインは【戦士】だぞ。でも一応、初期職業には一通り転職してて、ファーストスキルは習得済みなんだ」

「転職……? あ、そういえば職業はあとで変えることができるって言ってたな」


 天使の言葉を思い出しつつノゾムは言う。ラルドは、ノゾムが『転職』を知らなかったことに驚いていた。


「一度でも転職すれば、ファーストスキルは手に入るんだよ。『ブースト』とか便利だし、ノゾムも覚えておいたほうがいいぜ?」

「へぇ〜。うん、まあ、そのうちね」


 父親に会ったあとはゲームを辞める気でいるノゾムは、曖昧に言った。


 ちなみに転職できる職業は条件を満たすと増えていく。それも天使が言っていた気がする。先ほどラルドが使った『精神統一』も、【釣り人】という職業のスキルらしい。


「魔法の威力を一時的に上げるスキルなんだ。たしかに少しは上がった気がするけど……本職の【魔道士】には敵わねぇな。ま、魔法に弱いモンスターになら効くだろ」

「モンスターに弱点ってあるんだ?」

「そりゃあな」


 炎に弱いモンスター。斬撃に弱いモンスター。剣での攻撃には強いけど、ハンマーとかで殴られるのには弱いモンスターなどなど。いろいろなモンスターがいるらしい。


「自分の武器がどういう特徴を持ってんのかってのも、ちゃんと把握しておいたほうがいいぜ。ノゾムの弓は『刺突系』だな。攻撃範囲が狭いけど、その代わり攻撃力が高い」

「当たれば大きいってことだね。当たらないけど」

「当たらなくても攻撃しろよ。戦闘行為をしなきゃ経験値が入らないぜ?」


 弓の練習にもならねぇしさ、とラルドは言う。

 まったくもってその通りだ。


「ほら、また出たぜ! ひゃっはー!!」

「あ、ラルド!」


 発見した猿の群れに飛び込んでいくラルド。猿たちはすぐに迫りくるラルドに気付き、飛びかかってきた。


 まずは横に一閃。2匹まとめて斬り伏せる。

 くるりと身をひるがえし、背後に迫っていたもう1匹も倒す。


 「オレはセンスの塊だから〜」と言っていただけある。ラルドの戦闘センスは、素人目に見ても高いと言わざるをえない。


「ほら、ノゾム!」


 呼ばれたノゾムは仕方なく弓を構えた。放った矢は1週間前のように明後日の方角へ飛んでいくことはなかったけど、猿には当たらなかった。


「おらよ!」


 最後の1匹をラルドが斬る。

 モンスターたちは青白い光となって消えた。


 戦闘を無事に終えたラルドはいつものように片手で目を覆い、フッと笑う。


「またつまらぬものを斬ってしまった」


 それ、いちいち言わなきゃ気が済まないのかな? 疑問が口をついて出そうになったけど、ノゾムは寸でのところで呑み込んだ。


 こんなに気持ちが良さそうなんだ。

 そっとしておくのが人情というものだろう。




 ***




 『はじまりの国ルージュ』の中央平原を西に向かうと、海に出る。陸と海との間に白浜は存在せず、ただ波が打ち付ける断崖がどこまでも続いているだけだ。


 巨大地下ダンジョン『悪魔の口』は、その断崖の中腹にある。


 一歩足を踏み外せば海へ真っ逆さま。そんな無駄に細い道を降りていった先に、ダンジョンの入口がある。


 ぱっくりと開いた穴は上下にギザギザの岩が連なっていて、なるほどまさに、巨大な悪魔が口を開けているみたいだ。


 ノゾムはごくりと唾を飲み込む。ラルドは平然と中へ入っていった。こいつに恐怖心は存在しないのか。


 ダンジョンの入口は長い階段になっていた。海のそばだからか、なんだかジメジメしている。壁には青く光る謎の水晶が生えているけど、それでも薄暗い。2人の足音だけが、辺りに響く。


 階段を下りきったところには、広い空間が広がっていた。


「おおー。みんな、やってるなー!」


 そこにはたくさんのプレイヤーがいた。ざっと見た限りでも50人以上はいるだろうか。それぞれがモンスターと戦ったり、採集をしたりしている。


 天井が高くて、とにかく広いので、人がたくさんいても狭くは感じない。


 この真上には平原があるはずだけど、いったいどういう造りをしているのだろう。ゲームの中なのだから、深く考える必要はないだろうけど。


「さてノゾム、ここからどうやって父ちゃんを捜す?」

「プレイヤー検索機能を使う」


 レイナのお店で、オスカーという青年に教わった方法だ。ノゾムはさっそくリングを操作して、レーダーを出した。表れた円い板には、たくさんの光る点と名前が表示された。


 真ん中のひときわ大きな青い点がノゾムだ。隣には『ラルド・ネイ・ヴォルクテット』の名前もある。


「えーっと、Ko-ichi、Ko-ichi……」

「これだけ人がいると、捜すのも大変だな」


 ラルドは苦笑して肩をすくめた。


 ノゾムは捜し人を見逃してしまわないように板を注視しながら、少しずつ進んでいく。


 ダンジョンの地下1階は入口にめちゃくちゃ広い空間が広がっているほかは、ほぼ一本道だ。道に迷う心配はない。


 階段を下りて地下2階に向かう。ここからは少し道が複雑になって、罠があちこちに点在するようになった。


 落とし穴はもちろんのこと、大きな岩が転がってきたり。


 出現するモンスターはラルドが倒してくれた。


 レーダーを注視しながらの索敵は困難なので、ラルドがついて来てくれて良かった――と、


 ……そう思っていたのだが。



「ちょっと待って! 今、何を押した!?」



 ノゾムの叫びにラルドは「ん?」と振り返る。その右手は壁の窪みに触れていた。


 次の瞬間、頭上から降り注ぐ槍の雨。


 慌てて避けようとしたけど、そのうちの1本がノゾムの腕をかすめる。痛覚をオフにしているので痛みはないが、HPが10も減ってしまった。


「おお、すっげー」

「すっげーじゃないよ! なんでそんなあからさまなスイッチを押すんだよ!?」


 明らかに怪しいスイッチである。ノゾムなら絶対に触らない。


 ラルドはキョトンとした。


「スイッチはとりあえず押してみるのが常識だろ?」

「……そうか、どうやら俺とお前の常識は食い違っているみたいだな……」

「宝箱が降ってくるかもしれないし」

「そんなバカな……って、言っているそばからまた押す!」


 今度は何が起こるのかと、ノゾムは身を強張らせた。


 ピロリロリーンという間の抜けた音が鳴る。天井から降ってきたのは、木と鉄で作られた箱。上部に丸みのあるそれは、どう見ても宝箱である。


「嘘だろ……」

「ほらな! オレの言ったとおり!」


 ラルドは得意げに胸を張った。警戒のけの字もなく宝箱を開ける。おいおい、中にモンスターがいたらどうするんだ。


 そんなノゾムの心配をよそに、宝箱に入っていたのは木を削って作ったのだろう人形が5体と、クリーム色の布袋だった。


「なにこれ?」

「これは『身代わり人形』だな。戦闘不能になった時に一度だけ肩代わりしてくれるアイテムだ。こっちの袋は……」


 袋の中にはキラキラ輝く糸が入っていた。ラルドは糸を見つめて「うーん」と唸る。ラルドも知らないアイテムらしい。


「こういう場合は、一旦アイテムボックスに入れて、と」


 糸が入った袋を左腕のリングに近付けると、袋はリングの中に吸い込まれていった。


 吸い込まれたアイテムはメニューの『アイテム』から取り出すことができる。アイテムのリストからは、そのアイテムの説明を読むことが可能だ。


「『アリアドネの糸』……脱出用のアイテムだな。これを使うとダンジョンの入口まで一瞬で移動できるんだって」

「へぇ、便利」


 ラルドはドヤ顔でノゾムを見た。ノゾムは眉を寄せた。


 認めたくはないが、認めざるを得ないだろう。


 目についたスイッチは、とりあえず押すべきだ、と。


「でもやっぱり、罠にかかるのは……」



 カチリ。



 ノゾムが動かした足が何かを踏んだ。足元の地面がパカッと開く。ノゾムの体は真っ逆さま。


 ――お前はいちいち罠に引っかかるねぇ。


 記憶の中で親父が笑った。


「嘘だろォォォォ!!?」

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