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ゲーム嫌いがゲームを始めました  作者: なき
第1章 はじまりの国ルージュ
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ゲームが嫌いな中学生

 大きな荷物が届いた。海外からやってきたらしいそれは、どうやら(のぞむ)宛てのものらしい。

 送り主を見て即座に粗大ゴミとして出そうとしたところへ、母、帰宅。

 母子会議が開かれることになった。


「……なに考えてんのかな、あのクソ親父」


 希はテーブルに頬杖をついてぼやく。

 母には「クソって言わないの」とたしなめられた。


「たぶん、ここに書いてあるとおりでしょ。あなたと昔みたいに遊びたいのよ」

「俺のゲーム嫌いは親父のせいなんだけど?」

「そうだったかしら?」


 とぼけた顔で言う母に、希は眉をひそめて呻いた。

 思い出すのは幼少期の苦い思い出の数々である。


 希の父親、水城(みずき)光一(こういち)はとにかくゲームが大好きな男だった。

 どのくらい好きかと言えば、まだ幼稚園に通っていた息子にアレコレとやらせるくらいである。


 レース、パズル、推理、シューティング、育成、シミュレーションと、ジャンルは多岐に渡る。

 難易度も幼稚園児にもできそうな簡単なものから大人でも難しいものまで、さまざまだった。


『おいおい希、どこに行くんだ? コースを逆走してるぞ』


『お前はいちいち罠に引っかかるねぇ』


『ぶぎゃはははははは! チュートリアルで全滅とか初めて見た!』


 希は要領が悪かった。

 そして父には、デリカシーが欠片もなかった。


 何度も失敗し、挫折し、そのたびに笑われて、希のゲーム嫌いは徐々に悪化した。そして中学に上がったのをきっかけに、「勉強」を盾にして父親の誘いを突っぱねるようになったのだ。


 学生の本分は勉強である。さすがの父親も、勉強をする息子にゲームを強要するほど非常識ではない……と、そう思っていたのだが。


 希はちらりと段ボールに目を向ける。中に入っていたのは、最近テレビで話題の新しい『VRゲーム』だった。1年ほど前から海外赴任している父親が送り付けてきたのだ。

 添付されている手紙には「一緒に遊ぼうぜ!」と書かれていた。……思わず投げ捨てた。母にはめっちゃ怒られた。


「この『アルカンシエル』って、あれでしょ? 最近テレビでよく紹介されている、五感を駆使して遊ぶ世界初の『フルダイブ型』のVRゲーム。すごいじゃない。クラスの友達もまだ持ってないんじゃない?」

「かもね。安く売ったら買ってくれるかな?」

「売るんじゃないわよ。せっかくお父さんが買ってくれたんだから」

「でも、どうせやらないし」


 部屋に置いていても邪魔になるだけだ。

 それなら使ってくれそうな人に売るほうが、まだいいだろう。


 そう告げる希に母は賛成せず、困った子供を見るような目をして言った。


「やりなさいよ。もうすぐ夏休みなんだし、ちょうどいいでしょ。それと、ゲームの中ででもお父さんの近況を聞いてきてくれると助かるわ」

「なんで?」

「あの人、最近連絡くれないのよねー」


 希は苦々しく顔を歪めた。


 ゲームのやりすぎで母親に叱られる話はよく聞くけど、逆に勧められるなんて聞いたことないぞ。




 ***




 終業式はつつがなく終わった。明日から夏休みだからか、なんだかクラス中がどこか浮ついている。先生が夏休みの注意事項を口やかましく言っているけど、みんな聞いているのか、いないのか。


「水城は夏休み、何やるんだ?」


 後ろの席の佐藤が小声で聞いてきた。

 希は目だけを後ろに向けて、短く答えた。


「勉強かな」

「相変わらずだな。まあ来年は受験生だし、妥当なところだな」

「真面目に受験対策している奴らは塾に行ってるけどね〜」


 希の勉強は父親から逃げるための方便だ。いや、一応は真面目に勉強しているけど。しかし勉強の仕方がよくないのか希の成績は中の上くらいである。


「佐藤くんは部活?」

「おうよ。大会があるんだ」


 佐藤が所属しているのは弓道部だ。中学に入ってから始めたのだが、なかなか難しくて面白いらしい。難しくて面白いって感覚が、ちょっと希には理解しがたい。


 弓道の道衣姿はカッコいいと思う。

 希の身長ではまず似合わないだろうけど。


「聞けぇい、下民ども!!」


 そのとき、ひときわ大きな声が教室内に響いた。クラスのムードメーカー、南谷(みなみたに)圭太(けいた)だ。今日も今日とて寝癖がすごい。


 椅子の上に足を乗せて、やたらとキラキラした顔をして、南谷は拳を握った。


「オレはこの夏、」


「誰が下民だコラ!」

「調子に乗んな!」

「引きずり降ろせ!」

「椅子に足を乗せるのやめろ!」


「……ねぇお願い、話を聞いて!? 下民って言ったのは謝るからぁ!」


 ペンや消しゴムを投げつけられて、南谷は涙ながらに訴えた。

 ……あ、先生の額に青筋が浮いた。


 南谷たちは気付いちゃいない。

 あそこの連中はいつも賑やかだ。


「実はオレ、『アルカンシエル』を手に入れたんだ!」


 希は椅子から転げ落ちそうになった。

 クラス中が、ざわりとする。


「アルカンシエル? アルカンシエルって、テレビで言ってた、あれのこと?」

「うっわ、マジかよ」

「いいな〜」


「あっはっは! そうだろ、そうだろ! もっと羨ましがれ!」


 南谷は腰に手を当ててふんぞり返った。その額にチョークが命中した。南谷は涙目になりながらチョークが飛んできたほうを見て……おとなしく着席した。

 先生、顔が怖いです。


「さっすが、南谷んちは金持ちだなぁ」


 佐藤が感心したように呟いた。希は「え?」と佐藤を見る。


「知らねぇの? アルカンシエルって、従来のVRゲームの倍はするらしいぜ?」


 まあ水城はゲーム嫌いだから知らなくても当然かと、佐藤はなんともなしに言う。希は気が遠くなった。

 そんな高価なゲームを送り付けてんじゃねぇよ……。




 ***




 希の両親は共働きなので家に帰っても出迎えてくれる人は誰もいない。


 別段、寂しいと思うことはない。いつものことだし、両親とも、会えば鬱陶しいほどに構い倒してくる人たちだから。


 母親は都内のデザイン会社に勤めている。そして父親は、海外へ単身赴任中。……実は、父親が何の仕事をしているのか、希は知らない。

 父は、息子に仕事の話をするような人ではないからだ。


 とても忙しい仕事なのだろうとは思う。海外赴任をする前から、朝帰りや職場に泊まり込みが多かった。そんな中でも時間を作っては息子にゲームを押し付けてくる――父はそういう人だった。


 なんでだよ。休めよ。それとも、息子とゲームをすることが、父にとっての休みになっていたというのか。


「一緒に遊ぼうぜ、か」


 遊んでいたのはお前だけだろ、クソ親父。


 希はゲームをしていて楽しいと思ったことはない。当たり前だ。失敗ばかりで何が楽しい。


 ひとつ、息を吐く。


 手を伸ばす先にあるのは、部屋の隅に放置された段ボール箱だ。


「母さんの頼みを聞くだけだからな」


 誰にともなく言い訳をして、希は段ボール箱を開けた。

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