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第8話 ヤンデレ幼馴染み対プライド魔法使い

 ニワトリック退治勝負に乗り出した少女二名は、それぞれの本気で勝負に臨んでいた。


 りんぜは力を解放し、白い炎を吹き上がらせながら。

 シャフリマは自らの持てる魔法すべてを用い、地面に残る足跡や魔力を辿りながら。

 ふたりの目的地は、別のルートを通りながらも、同じ場所へと収束していた。


 無論、道中には数匹のモンスターが現れるが、その程度彼女たちの敵ではない。

 後半身が蛇となった鶏のような生物であるニワトリックには、羽毛や鱗で細かな空気の振動を感知する力が備わっている。

 だが、それでも攻撃に出るより前に、仲間を呼ぶ暇も与えられずに撃破されてしまうのだ。


 シャフリマが作り出す魔法の尖った岩と、りんぜが繰り出す殴打が一瞬のうちに魔物の身体を吹き飛ばし、絶命させてゆく。


 そして最後にはふたりは合流し、その場所は一本の大木のふもとであった。その木の上には枝やなにかの骨をかき集めて作られた鳥の巣らしきものが点在しており、ニワトリックたちの巣であるらしい。


 りんぜとシャフリマは討伐数を照らし合わせた。ほぼ同数である。

 巣の外へ出ていた個体はあまり多くなく、残るほとんどはこの巣にいるのだろう。


「本番はここからですわ」


「勝って圭くんに喜んでもらわなきゃ……!」


 ふたりが身構えると、それを察知して巣がざわめきだす。内部に潜んでいたモンスターたちはりんぜとシャフリマの戦意に勘づいて、攻撃のためにその姿をあらわす。


 木から飛び降りながら攻撃へと移ったニワトリックたちは簡単に蹴散らされていくが、最後に一体、桁違いの大きさをもった影が現れる。

 それこそが巣のヌシであることを理解するのに時間は要らず、ふたりはより気を引き締めた。

 巨大ニワトリックの甲高い鳴き声が響き、戦場は一気に動き出す。


 りんぜは地面を抉る勢いで蹴り、宙へ飛び上がった。

 紫がかった光が尾を引き、ニワトリックはそれを目で追おうとし、次の瞬間には身体に衝撃を受けている。りんぜが拳を振るったのだ。


 続けて、よろめいたニワトリックは魔法の標的となり、シャフリマの杖が構えられる。

 彼女の持つ魔力が脈動し、大地がざわめき、岩の刃となって魔物を襲う。


「決めてやりますわ、『ガイアブレイカー』ッ!」


 魔法の名を叫ぶと同時に、地面からは鋭利に尖った岩の塊が飛び出した。ニワトリックへ突き刺さろうとし、羽毛に阻まれながらもその胴体に到達した。

 鳴き声が悲痛に響き、痛みから暴れるニワトリックがところ構わず嘴を突き刺して回る。


 周囲の木や地面に傷跡ができ、シャフリマの岩も破壊されてしまう。

 だが魔法はそれだけではなく、また戦っている少女もひとりだけではない。


「まだまだですわ! 『ブラストロック』!」


「私だってがんばるんだから、えいっ!」


 今度は岩そのものがシャフリマの掌で作られて、大きくなりながら相手めがけて飛んでいく。

 一方でりんぜは木々を縫うように駆け回り、鋭い蹴りの一撃を食らわせ、ニワトリックの蛇体を覆う鱗に亀裂が走った。


 たった数度の攻撃ではあれど、そのひとつひとつがそこらの魔物を一撃で撃破できるものであれば、巨体を疲弊させることなど容易である。

 事実、巨大ニワトリックはよろめき、的外れな方向にばかり攻撃を繰り返している。


「今なら……!」


 ここで必殺技を放てば、間違いなく撃破できる。そう踏んだりんぜは、力を集中させる。

 だが、ふと、頭に浮かんだのは圭のことだった。もしこの先にさらなる魔物が現れたら、何度もこの力を使うことになってしまう。そうしたら、彼の心配を裏切ってしまうかもしれない。


 躊躇いが彼女を止め、集められた白い炎を離散させる。


 それを隙とみたのか、動き出す影があった。樹上から飛来し、魔物の特性である邪眼を見開き、りんぜとシャフリマの背後をとる。


「この大きさが、もう一匹ですの!?」


 巣にはまだ、巨大ニワトリックが存在していたのだ。二体はつがいであるのか、怒り狂った様子である。


 ニワトリックの特殊能力とは、その眼で行使される石化の魔法だ。

 通常は、集団を相手にしなければ簡単な魔法で抵抗できる程度でしかないが、今度は訳が違う。


 巨体にまで成長したものが二体。魔法に長けたシャフリマであっても、抵抗しきるのは難しいほどだ。


「くっ……こ、このわたくしが……!」


 二体の邪眼がシャフリマの身体を蝕む。抵抗のために展開された土壁の魔法も、より強い魔力の波長で破壊されてしまい、しだいに四肢が硬直していく。


 動かなくなれば、次は石への変化だ。

 シャフリマの肌が、先からゆっくりと石の灰色に変えられる。

 その変化は本当にゆっくりで、彼女にとっては永遠にも思える時間なのだろう。


 ニワトリックたちは動いていない。もしかすると、邪眼に集中していなければ、彼女を石化させ続けられないのかもしれない。

 だとすれば今が好機だ。りんぜが飛び出し、ニワトリックたちを撃破すれば、シャフリマの石化も止まる。


 りんぜは身構えた。体に纏っていた白い炎が煙となって消え、かわりに黒き風が結集する。

 吹き荒れる力の奔流は彼女の身体を疾風と変え、敵へと一直線に駆け出させる。


「ごめんね圭くん……必殺技、使っちゃうよ!」


 竜巻で標的を閉じ込め、一体目のニワトリックへ向けて脚を振り抜く。切り裂く風の刃が羽毛を散らし、鱗を剥ぎ、肉体を崩壊させてゆく。


「『白痴なる残酷イディオティック・サイクロン』」


 一体目に対して振り抜いた勢いのまま地面を蹴り、舞い上がった土煙を巻き込みながら、残る敵のもとまで飛び込む。

 邪眼は慌ててりんぜを狙おうとしているが、竜巻に閉じ込められていることが妨げとなり、石化が機能することはなかった。


 今度も外さない。首を蹴りつけ、荒れ狂う竜巻にて標的を切り裂き、溢れ出すエネルギーがその身体を破壊するのだ。

 耐えきれなくなった残骸は爆発し、二か所で同時に赤い炎があがった。


 ニワトリックたちが撃破されたことを証明するかのように、シャフリマの石化も停止する。肌色はそれ以上侵食されず、むしろ効力がなくなったのかもとの色に戻っていく。


 彼女は自らに迫る脅威が払われたことで、これで一安心だと思っているのだろう。胸を撫で下ろしていた。

 同時に、勝負に負けたことを認めたくないのか歯を食いしばってもいたが。


 とにかく、巣にいたボス格は二体とも撃破された。樹上にはもう大きな個体は残っておらず、小さなものも数匹がさらに奥地へと逃げていっただけである。

 これで、人里に出没するニワトリックの退治は完了したといえるのではないか。


「圭くん、喜んでくれるよね!」


 りんぜはスキップしながら、圭に結果を報告するために森を後にしようとした。

 まだ足元が石化したままのシャフリマに呼び止められるまでは。


「待ちなさい……少し、魔力を貸してくださるかしら」


 りんぜは首をかしげたが、彼女が指しているのはあたりを漂う黒い風であるらしく、そのうちの一陣を向かわせる。

 すると風は彼女の足元に巻き付き、わずかに残っていた邪眼の魔力ごと弾け飛ぶようにして消えていった。


「やはり本物の……あなた、一体何者なんですの?」


 助けてくれた感謝よりも先に、彼女はりんぜを訝しげに見る。

 その視線への答えとしてりんぜが選んだのは、笑顔だった。


「私は圭くんの幼馴染みで……圭くんのことを一番知ってる女の子だよ」


 少女は無邪気に、石化の解けたライバルとともに歩き出す。

 大切な幼馴染みが、いまごろなにをしているのかも知らず、足取りは軽かった。

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