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第6話 ヤンデレ幼馴染み、ひとやすみ

 はじめての依頼の結果を報告するのに酒場に戻り、頭骨の大きさや依頼を本当にこなしてきたことに驚かれつつも、報酬を受け取った。

 袋いっぱいの貨幣は持ち上げるとけっこう重く、本当にぎっしりと詰まっているらしい。


 強力なボスモンスターだったということで、一度の依頼としてはかなり高額のお金が支払われたらしく、周囲は軽くお祭りムードになっていた。

 その主役であるべきりんぜは眠っていたから、さっさと退散してきてしまったが。


 多めの報酬に、武器の素材になるらしい頭骨を買い取ってくれたぶんも合わせて、しばらくはなんとかやっていけそうだ。


 協力してくれたふたりにはお礼を言って、頭を下げられた。今後も人手が必要になるだろうから、今後の仲間集めではそのあたり考えないといけない。


 そういえば、あの大きい方の彼は、青年に無理やり言うことを聞かされていた。

 シャフリマたちのことも、今後また一悶着あるのだろうか。


 そんなことを考えながら、宿を探すことにした。


 冒険者というか根無し草というか、そういった連中が多いのか、街中には宿泊施設もたくさん見受けられる。

 宿屋を探すのは難しくなく、ちょうどよさそうなところに入らせてもらうと、看板娘らしいハーピーのお姉さんに出迎えられた。


 泊まりたい、というと、彼女の案内で部屋まで通される。

 背負っている彼女のぶんを考慮してくれたのかなんなのか、なぜかダブルベッドが一部屋であるのみで、分けさせてはくれなかった。


 とりあえずりんぜのことを下ろす。どうやら布団の技術はかなり発達しているのか、思っていたよりも柔らかく、冒険で疲れた体を癒せそうだ。


 今日はりんぜに大変なことをさせてしまった。

 朝までは、いつも通りに学校に行って、眠気に襲われながら授業を受けて、友達と談笑しながら家に帰り着く予定だったのに。

 いつの間にか、俺にも彼女にも戦火と死が突きつけられている。


 平穏に暮らしたい、よりは、せっかくの異世界生活なのだから冒険に身を投じたい気持ちが強い。

 この世にはきっとまだ見ぬ景色がたくさんあるし、まだ見ぬ異種族の女の子がたくさん待っているに違いない。


「俺も強くならなくちゃな」


 りんぜが安心できて、かついろんな女の子に好きになってもらえるような、強い勇者になりたい。

 幼馴染の安らかな寝顔は、俺の心にひとつの願いを生んでいた。


「むにゃ……圭くん、お弁当、わすれてるよ……」


 寝言で呼びかけられて、俺はつい笑ってしまった。同時に、自分を夢に見てくれている少女を前に嬉しくなる。

 そして、その心地よさそうな寝顔は見ている側の眠気も誘ってきて、俺は自然と欠伸が出た。


 歩いたのは確かだし、今日のところは休憩しようか。


「また明日な、りんぜ」


 そう言って、俺はソファに横になって目を閉じた。

 ソファはちょっぴり硬かったが、幼馴染の女の子と同じベッドで堂々と眠るのは気が引けるから、こっちの方がいい。


 こうして、俺たちの異世界生活初日は幕を下ろし、ここから冒険が始まるのだ。


「……またあしたも、いっしょがいいな」


 りんぜが答えたように聞こえたこの声は、きっと彼女の寝言だったのだろう。


 ◇


 翌朝。お風呂を使わせてもらい、どこか馴染みのあるメニューばかりの朝食を食べ、俺たちはふたたび冒険の旅に出発していくことになる。

 宿屋のお姉さんはからかうようにゆうべはお楽しみだったかとかそんな冗談を吹っかけてくるのを苦笑ではぐらかしながらお金を支払うと、宿屋を出た。


 勇者認定試験が始まるまでにはまだ余裕があり、すなわち仲間集めには猶予がある。

 まずは実績をあげておくため、今日も酒場の依頼をこなしていこうということになる。


「圭くんっ、今日も冒険がんばろうね!」


 りんぜはすっかり元気になっていて、身体のほうも問題ないらしい。

 倒れたのは必殺技の使いすぎが原因だったため、今後はそうならないように気を使わないと。


 ひとりで考えながら、なんだかご機嫌なりんぜに酒場まで手を引かれていく。到着はすぐだった。

 酒場では朝からある程度の人々が出入りしており、その中には昨日見かけた姿もいくつか見られる。


 中でも、また会いたいとは思っていなかった相手の姿は目に止まってしまう。


「あっ、見つけましたわよ! 気にくわない新米のカップル……!」


 同時に、向こうも俺たちを見つけてしまったらしい。

 彼女、シャフリマは依頼の邪魔をしてきた相手だ。なるべくなら会いたくなかったのだが。


「圭くん圭くん! カップルだって、カップル!」


 りんぜはなぜかそこにとても食いついている。俺と付き合っていると思われて嬉しいかは疑問だが、彼女が嬉しそうならそれでよし、ということにしておくか。

 俺としても、可愛らしいりんぜと恋人扱いにしてもらえるのはむしろ自分なんかがいいんですかという感じなのだが。


「えへへ、やっぱりみんなから見たらそう見えるのかな?」


「まぁ男女ふたりだけでパーティ組んでたら、恋仲にも見えるよな。手繋いでたりもするし」


「だって、離れたくないから」


 笑顔で指を絡ませてくるりんぜ。異世界にまで追いかけてきたあたり、本当に離れたくないと思ってくれているんだろう。

 さすがにずっとつないだままとはいかないが、彼女がこのままでいたいならなるべくそうしていよう。


「あの。私を放置していちゃつかないでいただけないかしら?」


 そうだった。シャフリマのことをすっかり忘れていた。いったいなんの用で声をかけてきたのだろうか。


「コアトル洞窟でのこと、忘れたとは言わせませんわよ。私に屈辱を味わわせたこと、何倍にもして返してやりますから」


 そう言って、彼女が取り出したのは一枚の紙だ。羊に似た動物の皮で作られており、数行の文字と魔法陣が刻まれている。

 どうやらそれは依頼の紙らしく、場所は獣の村、内容はモンスターの討伐となっていた。


「私たちと同じ依頼に、特別に同行させてあげます。そこで私と勝負をし、雌雄を決しましょう。二度やっても駄目なら、私も敗北を認めます」


 彼女のプライドに付き合わされることにはなりそうだが、ここで断ったほうが後々面倒そうだ。

 それに、紙によれば獣の村にはあの少女と同じ耳やしっぽのついた民が暮らしているらしい。

 もしかしたら、仲間として同行してくれる獣耳っ娘を探すチャンスかもしれない。


「りんぜはどう思う?」


「圭くんが行きたそうだから、私も行くよ」


 獣耳っ娘が楽しみであることを顔に出していてしまったらしい。決してやましい気持ちではないぞ。うん。


 りんぜも了承してくれ、話は決まったので、シャフリマには頷くことで返事をする。

 彼女も本気で勝負に臨もうとしているようで、その目は真剣だった。


「決まりですわね。さて、獣の村へ行く船の出航時間には、多少余裕がありますが……準備はよろしくて?」


 獣の村へ行くには、どうやら船に乗らなければならないようだ。

 元より持ち物も特にない。お金はそこそこ残っているが、俺のポケットに入りきる程度だし、乗船にもお金が必要だろう。

 シャフリマの案内に従って、船着き場を目指して歩いていく。


 船にまで到着すると、先に乗り込んでいたシャフリマのパーティメンバーたちが合流した。

 昨日取り乱していたあの青年は何事もなかったかのように笑い、先日手伝ってくれた半獣人の彼はあのときにはなかった包帯を腹に巻いている。

 そして、獣耳っ娘の少女は不安げな表情で俺たちとシャフリマたちの顔をしきりに見比べていた。


「あ、あの、本当に行くんですか……?」


 やめた方がいいと暗に言ってくれているようだったが、勝負を受けた以上、引き下がるのはシャフリマも俺自身のプライドも許さないだろう。


「あぁ。獣の村にも行ってみたかったしな」


 なるべく怖がらせないように微笑んで答えようとしたが、少女が不安がっているのは変わらない。

 話しかけようにも話しかけられず、気まずい空気の中、船の出発まで待っているしかなかった。

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