第43話 ヤンデレ幼馴染みたちと滝の飛沫
緊急魔王会議のため雫の国へやってきた俺たち一行。会議まではまだ時間があり、また参加者たちも揃っていないため、それまで観光でもしてこようと考えた。
いままで訪れたどの国ともやはり違う文化を持っているため、俺とりんぜはもちろん、モンブランとシルキィも興味津々だったから、満場一致だった。
実際、あんなふうに下半身が魚になっているマーメイド族がどう暮らしているのか気になるところだ。ラッキーたちを見る限り、いちおう陸上でも呼吸ができるみたいだが。
四人で街へ出ていくと、そのラッキーが先程の出迎えの位置で暇そうにしていた。俺たちを見つけて駆けてきて、三人をみんなお姉ちゃん呼びした後、俺のことを再びヘンタイだとからかって笑う。
そんな相手に対して物申したいことがあるのか、お姉ちゃん三人組からりんぜが前に出て、ラッキーに向かってびしっと指をさす。
「もう、圭くんはヘンタイじゃないもん! 確かに、あなたみたいなちっちゃい子にも反応しちゃうかもしれないし、異種族には目がないかもしれないけど、そこまで筋金入りのヘンタイじゃないもん!」
「りんぜさん、それは明らかにヘンタイって言ってます」
「ヘンタイ……ってなに?」
「シルキィお姉さんは純粋なままでいてください」
りんぜの発言だけでなく、モンブランの冷静な指摘は俺にさらなるダメージを与えてくる。シルキィは変態を知らないみたいで、首をかしげてきょとんとした。俺も彼女には純粋なままでいてほしい。
「ふふ、お姉ちゃんたち、おっもしろーい! そうだ、ここで待ってても退屈だし街の観光案内してあげようか?」
国を治める者直々に観光案内をしてくれるなら嬉しいものだ。だが、いつほかの魔王覚醒者が来るかもわからないのに、ここを離れていいのだろうか。
結局、ラッキー自身の別に離れても平気だという言葉を信じ、同行をお願いすることになった。
雫の国の街並みは珍しいものだ。海のものを模していてカラフルで、見た目も楽しい。
また中を案内してもらうと、水路が通っていて、マーメイド族の人々は中を泳いで通っている。
陸上生活を得意としない彼女らは、みんなこんなふうに生活しているんだとか。建築物がお洒落な形をしているものの中にも、水路を張り巡らせるうえで考えられたデザインがあって、建築技術も高いらしい。
そんな街並みを歩いていると、しだいに建造物が少なくなっていき、やがて外れにまで来てしまっていた。
かわりにすさまじい勢いの水の音がして、ラッキーはそれを追っているらしい。
「どこまで行くの……? お姉さん、そろそろ体力が……」
「着いた! ほうら、ここが名所のひとつ、ヴァエールの滝です!
ここでお祈りをすると、恋愛、待ち人、人間関係、さらには出会いや縁結びにも効果があるといわれる場所なんだ」
ものすごく対人関係に特化している言い伝えだが、滝の景色は壮大だ。泡で真っ白になった水が流れ落ちて、圧倒されてしまう。
りんぜが真っ先にお祈りを捧げ、モンブランとシルキィはお互いに顔を見合わせてから手を合わせ目を閉じていた。せっかくだ、俺も一緒にしておこう。
欲張りかもしれないが、叶えて欲しい願いはたくさんある。異種族を愛する者として異種族にも愛されたい願望はあるし、まだ見ぬ種族の女の子と仲良くなってみたい気持ちもある。
けど、一番叶えて欲しいのは決まっている。
りんぜと離れないこと。
シルキィやモンブランとも、このまま仲間として共に冒険できること。
──黎夢と、いつか和解できること。
いくつもあったら一番じゃないかもしれないけど、りんぜもシルキィもモンブランも黎夢も、俺にとっては大切な人だ。
どうか、この夢が叶いますように。
お祈りを終え、目を開けた。
「じーっ……」
「おわっ、どうしたんだ、ラッキー」
お祈りを捧げている間、ずっとじろじろ見られていたみたいで、さらに終わっても視線は変わらず俺に注がれる。
ラッキー自身がなにも言わないので気まずくなるが、ふと、向こうが口を開いた。
「ふうん。お兄ちゃん、意外と悪くないヘンタイなのかな?」
未だに変態呼ばわりなのが不本意だし、特になにかをした覚えもないが、ちょっと見直してくれた様子だ。
もしかしてお祈りの内容を読心かなにかで盗み聞きされていたのか。もしそうなら気恥ずかしいが、ラッキーはそんな心配を読み取った気配がないまま、いいことを思いついたと言い出した。
「そうだ! お姉ちゃんたち、ちょっとこっち来て?」
りんぜたちを呼んだあと、俺に向かってウインクするラッキー。同時にたこ足のうち一本が俺を呼ぶようにくいっと動いて、こっそりついてこい、ということらしい。
三人を滝のほうへ連れていき、俺は付近の岩陰に潜みながらみんなを追う。りんぜにこうして影から見守られた経験はあっても、自分がこうする側になるとは。
新鮮な気持ちになりつつ、ラッキーがりんぜたちに何をするのかじっと見ている。
「ねぇ、お姉ちゃんたち! 単刀直入に聞くけど、あのお兄ちゃんのこと、どう思ってる?」
吹っかけられたのはまさかの恋バナである。幸いこの手の話で真っ赤になるような子はいないから安心して見ていられるが、実際、俺はどう思われているんだろうか。
真っ先に答えるのはりんぜだ。頬をほんのりと赤らめながら、恥ずかしそうに話す。
「私はね……圭くんのこと、大好きな幼馴染みで、とっても大切な人だって思ってるよ。ちょっと、照れくさいけど……私は圭くんのためならなんだってできるし、圭くんのことならなんだって知りたい」
こっちの世界に来てからあまり好意を隠そうとしないりんぜではあるが、こうして直接的に好きだと話すのは恥ずかしいみたいだ。こっそり見ているこっちまで照れてくる。
ラッキーはりんぜの表情を見たあと、こっそり振り返って俺のほうを見た。
そして、あ、この人たちは普通に両思いじゃん、というふうに少しつまらなそうな顔をする。
「次、シルキィお姉ちゃんね。お兄ちゃんのことは好き?」
次にラッキーが標的を定めたのはシルキィだ。もう一度念を押して返答を促す。
すると、シルキィは考え込み、しばらくしておずおずと口を開いたのだった。
「お、お姉さんは……その、弟っていうか、助けてくれるから頼もしいっていうか……好きだけど、わかんない」
あいまいで、本人もたぶんよくわかっていない。
ラミカの一件から一緒にはいるけれど、そういえば距離感やお互いのことなんて深く考えたことはなかった。
それはきっとシルキィの今までの人生でもそうで、彼女は他人との距離を考えたり交流するのは苦手なのだ。
でも、シルキィの中で混乱している思いは、俺のことを評価してくれているものばかりだった。
ラッキーはそんなシルキィに対して、面白いや面白くないではなく、微笑ましいという目で見ていた。それ以上下手に口には出さず、触手で彼女を撫でる。
「がんばってね、シルキィお姉ちゃん」
「わわ、えっと、あ、ありがとう……?」
そのまま撫で続けていようとしたラッキーだったが、最後のモンブランの言葉に耳を傾けるため、触手を動かすのは中断した。
一番まっすぐな目の少女と目を合わせ、その気持ちを聞く。
「私にとっての圭さんは……恩人、です。私自身の知らない過去に、圭さんのおかげで近づけていますから」
彼女のはまた誠実な答えだ。そこに恋愛なんかは介在していない。純粋な感謝である。
キリマというかつての家族の手がかりに出会えたり、彼女の目的にも進展があった。この調子で過去にたどり着くことができたなら、俺も嬉しいことだ。
「過去? 記憶喪失なの?」
「……はい。人身売買にかけられるまで何していたのか、思い出せなくて」
彼女は自分がどこから来たのか、誰と生きてきたのかを知りたがっている。
そこへ、ラッキーはさらに切り込んでいきはじめる。
「じゃあさ。もし、残酷な過去が待っていたら、お姉ちゃんはどうするの?」
「え?」
「お姉ちゃんの望まないかたちで、知らない自分自身が現れたとき。いままで自分だと思っていたものが否定されたら?」
「それは……」
モンブランは考え込んでしまう。
「真実は本当に恩返しになるのかな。恩人は残酷を突きつけられても恩人でいてくれるかな?
なぁんて、疑ってるのをお兄ちゃんが聞いたら、がっかりしちゃうと思うけどね」
その言葉に、モンブランは俯いていて、なんと返せばいいのかわからないようだった。
一方でラッキーは困り果てた彼女がみせるその反応で満足したみたいだ。滝のところまで戻ろうと言い出し、三人を引き連れて帰ってきた。
俺も慌てて先に戻って、何事もなかったかのように彼女たちを出迎える。
どうしても下ばかり見て目を合わせてくれないモンブランに違和感を覚え、俺はラッキーを見た。
すると、相手は耳打ちでこう言い出した。
「恋のきっかけは波乱なんだよ、ヘンタイのお兄ちゃん」
別に俺はモンブランと恋愛関係になりたいと思っているわけではない。というか、たぶんラッキーが人を困らせて遊んでいるだけだ。
その紺色の髪から覗いたおでこにチョップをかまし、ちょっと懲らしめてやることにした。
「あうっ……ちょ、なにすんのさ」
「モンブランが困っちゃってるだろ」
「こんなことしちゃっていいの? 雫の王なんだけどなー?」
「それ以前に、悪い子だ」
ラッキーは仕方なさそうに黙る。しかし、モンブランにはこのやりとりは聞こえていなかったみたいで、彼女は考え込んだままだった。
あたりには、滝の音ばかりが響いている。




