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第26話 ヤンデレ幼馴染みとライバル再び

 クリスタの合図により、すべての騎馬が動き出す。会場は声援に包まれ、フィールドには土埃と雄叫びが漂う。


 俺たちの戦いたい相手は、シャフリマのチームだ。相手もこっちに勝負を仕掛けようと、彼女を支えている獣の村の皆さんが全力で走ってくる。


 だが、俺たちのほうを狙ってやってくる騎馬はそれだけではないし、シャフリマを狙う者もいる。

 割り込むようにやってきた騎馬たちでシャフリマが見えなくなり、こっちはこっちで迫り来る敵に対処しなければならなくなる。


 明らかにこっちより身長の高い相手が覆いかぶさるように襲ってくるし、筋肉の鎧に身を包んだ男性が突撃してきて体勢を崩されそうになる。それをなんとか耐えるしかない。


 りんぜは瞳の紋章を赤く輝かせ、黒い風を身に纏った。不意に巻き起こる暴風はライバルの騎馬に隙を生み出し、りんぜもその隙を逃さずに帽子を回収していく。


 まず一つ。続けて二つ。三番目に狙った敵は先に相手の騎馬が崩れ、その次は風に帽子が飛ばされたことで脱落していった。顎紐が突風に裂かれていたのだ。


 こうして何人ものライバルを撃破し、退散させていくと、あたりにはりんぜとシャフリマの他には、彼女たちを警戒し様子を窺う者ばかりになった。

 この競技、組み合っている最中の油断している瞬間に掠めとるのも戦術である。ゆえに、シャフリマと心ゆくまで勝負するには、周囲のライバルは皆追い払ってしまわないと。


「決着をつけるのは後にいたしましょう。まずは露払いですわ」


 シャフリマが指を鳴らすと、土埃が意志を持ったように動き出す。あたりの砂が集められ、相手にまとわりつき、翻弄する。

 また、彼女があたりの砂をみんな巻き上げてくれたおかげで、下で支える俺たちも行動しやすくなっている。

 なるほど、土属性の魔法を得意とする彼女にとって、このフィールドは戦いやすいに違いない。


 中には、負けじと魔法を繰り出してくる相手もいる。それは眩い閃光による目くらましだったり、マジックハンドを伸ばして直接帽子を狙ってくるものであったりするが、たいていはりんぜには通用しない。

 閃光は黒い竜巻がぶつかって打ち消され、マジックハンドは本人が捕まえてひん曲げてしまった。強い魔力の渦であるあの風たちは障壁の役割も果たしており、一般の冒険者くらいの魔法ならばまったく受け付けない。


 やがて向けられる攻撃も少なくなっていき、逃げ出していく騎馬がよく見られた。

 そういう参加者は、油断しているところを他の狡猾な奴に狩られ、その牙もりんぜの風やシャフリマの土煙に帽子をさらわれる。

 次々に脱落していき、そのままシャフリマと俺たちだけが残り、りんぜとシャフリマは改めて睨み合った。


「では、勝負の続きといきましょう」


 巻き上がった砂は竜の姿となり、シャフリマが傍らに侍らせている。その竜と対峙するのはりんぜが纏う黒い風の渦だ。

 それらが動き出した瞬間から、二度目の決闘が始まる。


 真っ先に動かされたのは手下である土埃の竜と風の渦だ。激突し、互いに打ち消しあい、その姿が見えなくなっていく。


 激突が終わらぬうちに、俺たちも駆け出した。

 ぶつかり合う風の中に飛び込んで、頭上でりんぜとシャフリマが組み合っている中、相手の魔法に騎馬が崩れないよう耐え抜く。

 砂が目に入ったり、シャフリマの騎馬である獣人とはぶつかって、だが俺が耐えなければ後方はモンブランとシルキィだ。

 りんぜの勝利を信じて踏ん張り続ける。


 りんぜの風が炎となり、シャフリマは地の力を腕に宿し、互いに強化されたパワーで対抗していく。全ての力をこめ腕を軋ませながらも、仕掛ける機会を窺っている。


 互いに力は拮抗していた。

 炎に魔王覚醒したりんぜに対し、シャフリマは魔力を多量につぎ込むことでついていっており、その魔力の流れは俺にも肌で感じられるほどである。額には脂汗が浮かんでいたが、彼女のプライドは諦めを許さない。


 先に手を離したのはりんぜだ。相手の両手を受け流し、一気に勝負を決めにかかる。シャフリマは咄嗟に岩壁を出現させて対応を計るが、りんぜの拳が簡単に打ち砕き、その先に手が伸びた。


 そして、次の瞬間には、りんぜの手にの中に彼女の帽子がある。ずっと戦っていた気さえする勝負はついに終わりを告げたのだ。

 砕けた石のかけらが落ち、土埃が晴れ、りんぜの勝利は確かに陽のもとに照らし出された。


「……あーあ、二度も負けてしまいましたわ。でも、悪い気はしないですわね。次は勝ちますわ、覚悟しておいてくださいな」


「楽しみにしてるね」


 シャフリマは悔しさを抱きながらもとても晴れやかな表情でいたし、りんぜは彼女に微笑んだ。


 さて、シャフリマとの決戦は終わっても、制限時間はまだ残っている。これからもまだまだ強敵が待っているに違いない。

 ライバルの意志を継ぎながら、俺たちは更なる戦いへと歩みを進めていく。


 ◇


 それからの戦いは凄まじかった。俺たちじゃ簡単に吹き飛ばされるような、筋肉の鎧を纏ったマッチョたちのチームを相手にしても、りんぜはぜんぜん怯まなかった。

 しかもそれを押し返し、俺にぶつかってくる相手を睨んだり風や炎でやたら牽制しつつ、食らいついていったのだからとんでもない。


 最終的には、互いに騎馬が崩れてドローとなった。

 ぶつかられた俺がバランスを保っていられなくなり、続けてシルキィの足がもつれ、りんぜは最後になって一気に勝負を仕掛けたのだ。

 帽子は奪い取り、騎馬も崩したが、制限時間がわずかに残っていたため、生き残ったチームはどこにもないという結論になった。


 事実上優勝ではあるが、最後まで生き残っていないのだから、勇者試験としては合格者なしとなるのだろう。

 残念だが、やれることはやった。実際、騎馬戦も楽しかったし、十分だ。


「今回のキ・ヴァセン! 結果は……勝者不在! いやぁ、今回はいつもより皆強くて、激戦だったから仕方ないっすかね!

 ではでは、一般参加の皆様、ご参加ありがとうございました、っす!」


 試合終了も宣言していたクリスタから結果が発表される。改めて言われると、あの時もう少し耐えられていればと後悔するが、すぐに振り払う。


 これで大盛り上がりの勇者試験も終わりか、あっという間に終わってしまうものなんだな。

 なんて、少し寂しい気持ちに浸りながら、俺は続けて始まるであろう閉会式を待っていた。


「冒険者参加のみなさまはこれから本試験が開催されるっすよ! ぜひこっちも全力で乗り越えて、勇者になってくださいっす!」


 ……あれ、さっきのが勇者試験の本体じゃないのか。

 クリスタが言うには、続きがあるどころか、これは特に試験とは関係がなかったみたいな言い方だが。


「あの、圭さん。一応説明しておきますが……私たちにはこれから四つの試練が待ち構えていて、それを通過できたら晴れて勇者として認められるんです。

 さっきのキ・ヴァセンは伝統のお祭りですが、それ以上ではありません」


「えっ」


 なんということだ、まだ勇者試験そのものは始まってすらいなかった。

 ただまあ、騎馬戦が白熱したのも事実だし、りんぜも楽しそうだったから、情熱は無駄ではない。


 本番は本番で、気を取り直して頑張るべきだ。俺はそう自分に言い聞かせ、頬を叩いた。


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