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第24話 エルフお姉さんと魔法の特訓

 夜の国と暁の国にて、夜の王からラミカの身体を取り返し、シルキィを仲間に加えた俺たち一行。

 シルキィの屋敷を借りて一晩過ごしたら、すぐに船で人の国へと戻り、新たなメンバーの冒険者登録を済ませようとしていた。


「よし、登録完了だ。パーティが四人になったな。これで勇者認定試験を受ける資格が与えられるってわけだ」


「っしゃあ! まずは仲間集めの、達成だぁ!」


 右も左もわからない状態からここまで来れたのはほとんど運だが、とにかくこれで勇者試験への出場までは行ける。

 こっちへ来て最初に目について、まずはここへたどり着こうと置いていた目標だ。それに近づけたのは素直に嬉しい。

 思えば物凄く脇道に逸れた冒険ばかりだったが、こうして仲間が集まったのだから結果オーライである。


 勇者認定試験の日程は一週間だという。

 それまでに、俺もシルキィに魔法を教わって戦えるようになっておかないとな。


「やったね、圭くん!」


「試験ってなんだかすごそうだけど……お姉さん、がんばる!」


「も、もう緊張してますけど、合格できたらいいですね……!」


 りんぜもシルキィもモンブランも、みんな喜んでくれている。

 もっとも、りんぜは俺が嬉しそうだからで、シルキィはよくわかっていない様子だから、勇者試験の中身を知っているのはモンブランだけみたいだが。


 パーティ登録を終え、酒場をあとにしたら、早速だが試験の準備に取り掛からねばなるまい。

 残された時間はあと一週間。成長できるだけ成長しておかないと。


「と、いうわけで。今日から俺は魔法の特訓をしようと思う」


 ラミカに吸血され、彼女の魔力をもらった。けど、使い方がまるでわからない。この世界での魔法がどんな仕組みでできているかも微妙だ。

 なので、よく知っているだろうみんなに教わろう、というわけだ。


「よし、まずはりんぜ! いつもの必殺技はどんな感じで使ってるんだ?」


「はいっ! 私、ぜったいに殺してやる……って感じで撃ってます!」


「ごめん、わかんなかった!」


 感覚と感情で戦っていそうなりんぜは間違いなく魔法の先生には向かない。

 わかってはいたが、一応聞いてみた。


 次はモンブランだ。回復が使えるうえ、この世界のことをパーティで一番よく知っている彼女なら、なにかわかるかも。


「モンブランはどう?」


「は、はい。私は、こう、ほわほわ〜ってして、ぽわわって」


「ううん、これで習得するのはきつそうだな……」


 こっちも擬音がいっぱい。やはり直感的に使っているみたいだ。俺にも回復ができれば便利なんだが、直感的なことを教わり身につけるには一週間じゃ足りない。

 最後に本命のシルキィだ。この調子でいけば、魔法はセンスがものをいうなんてオチが待っているかもしれないが、あの短剣で描く陣には法則がありそうだ。


「シルキィお姉さんは? 魔法っていったい?」


「う、うん。まず、魔法そのものについて説明した方がいい……よね?」


「お願いします!」


 シルキィは頷き、まず初めに魔力から説明してくれる。この世界における魔力とは、創世において魔王がこの世界に与えた力の断片で、さまざまな形となってあらゆるものを生み出しているんだとか。

 そこはよくわからない、というかすべての魔法使いにおける永遠のテーマなので、話は軽めにしておいて次へ進む。


「でね、すべての魔力には必ず方向があって。何をしやすい性質かが決まってるの」


 いわゆる属性だとか、得意魔法を決める要素がそれだという。

 例えば、りんぜが纏う黒い風や白い炎なんかにはわかりやすく『風』『炎』の属性があるし、モンブランの魔力は『治癒』の魔法になりやすい。

 だから、ふたりは感覚的に魔法を扱えた。


 魔法の道具もその応用で、いろんな方向の魔力を順序だてて込めることにより、ちょっとの刺激で機能するよう作られているそう。

 現代でいう、プログラミング的な作業が行われているのだ。


「だから、まずは圭さんの魔力の方向をみてみなきゃ」


 そう言って、彼女はその判定方法として、採血して調べてみる方法を提示した。病院で血液型を調べてもらうみたいなことか。

 俺は頷いた。手を出して、ちょっとだけナイフで指を切り、痛いのを我慢して血を採る。

 あとはモンブランが傷を塞いでくれて、サンプルがシルキィに解析される。回復、とても便利だ。


 彼女はメイドたちに指示を出して、屋敷の奥からなにかの器具がたくさん詰まった箱を持ってきてもらっていた。

 その中のいくつかを取り出して、薬品を垂らしてみたり、怪しい実験装置にかけてみたり、俺の血は詳細まで分析された。


「えっと、たぶん結果が出た……かな。圭さんの魔力は『闇属性』です!」


 それもそうだ。ラミカからもらってそのままかつ、もともと異世界人で魔力とは無縁な身体なんだから、彼女の属性になって当然である。

 というか、自分が闇属性だと聞かされると、なんだか中二病を指摘されてるみたいで心にくる。


「属性もわかったところで、一緒に特訓していこうね! 闇属性、極めるくらいの気持ちで……!」


 闇を極める。つまり、いっそのこともっと中二病になってしまえばいいのではないだろうか。鎖とか付けてみたり、意味ありげに高笑いしてみたり。

 いや、どう考えても違う。頭の中でラミカに「なにやってるのよそれ」と蔑んだ目で見られるのが簡単に想像出来てしまう。


 よって、俺は素直にお姉さんの言うことを聞き、一から練習していくことにした。

 まずは魔法を外に出力するイメージの練習だ。なんでもいい、魔法として使えたら最初の大きな一歩である。


 街から少しだけ離れて、俺が最初に目覚めた平原で行うことにした。もしかしたら爆発するかもわからないためだ。

 手のひらを突き出して、そこから魔法が出ていくように、流れをイメージする。


「力を抜いて、自分の中から湧き上がる力に任せる感じだよ、がんばって!」


 魔力が体内にあるという実感すらわかないが、まずはやってみるしかない。そよ風の吹く平原で、深呼吸をして、そのまま力を抜いて、自然に身を任せる。

 自分の鼓動が規則正しく流れていて、風になびく草がさらさらと心地よい音をたて、瞳を閉じるとなんだか眠くなってきて、そのまま意識が──


 ぺしっ。


「わぷっ!?」


「もう、圭くんったら、授業のときもすぐ寝ちゃってたでしょ。がんばるときはがんばって、ね?」


 ──危なかった。りんぜが軽くビンタしてくれなかったら、あのまま寝ていたに違いない。面倒を見てくれる幼馴染みに感謝だ。


 そして次からは、寝てしまわないが気を張り過ぎない程度に集中してやってみる。


 数分がゆっくりと過ぎていき、やがて何も起きないのを見かねたのか、シルキィが動いた。


「うまくできるように、お姉さんがついてあげるね……」


「わーっ!? ちょっ、圭くんから離れてよ! この泥棒エルフっ!」


 なんと後ろから抱きつかれた。背中に胸が当たる。明らかにりんぜを背負っている時と全然違う感覚だ。

 いや、りんぜが悪いとかそういうのではなくて、率直に違うなと感想を抱いただけで、決してやましいことを考えているわけでは。


「……圭くん。いま、いけないこと考えたでしょ」


「はい、すいませんでした」


 これではいっさいリラックスできていない。深呼吸をして煩悩を滅却し、首をかしげていたシルキィにサポートを再開してもらう。


「こうしてくっつくとね。お姉さん、その中になにがあるかがわかるの。例えば……」


 シルキィは俺の腹のあたりを触り、こう言い出した。


「このへんにこのあいだのビーフシチュー。もうちょっとこっちに、スポンジ生地の残りかな。ここが十二指腸で、そこから」


「待って、あの、魔法のお勉強ですよね?」


「あ……ごめんね。圭さんの魔力はいま、首のあたりに溜まってるよ」


 いったいどんな成人向けの展開になるかと危惧したが、ラミカは首を噛んでそこから魔力を注入していた。それがそのまま固まっているから、うまく魔法として使えなかったんだろう。


 首を意識して、ふたたび構え、息を深く吐いた。ここからだ。

 異世界転生しておきながら彼女に守られてばっかりなんて、ヒモ同然のダメ男なこの状況を脱したい。

 りんぜをこれ以上危ない目にあわせないために、俺は強くならなきゃ──!


 強く願ったその時だ。

 俺は首のあたりから腕へと走っていく稲妻を感じ、瞬く間に手元に真っ黒ななにかが作り上げられていく。

 それは剣の形をしていた。闇の色に研ぎ澄まされた、漆黒の刃だ。

 吸血鬼の魔力と、戦うための力を求める思いが、武器を作り上げたのだ。


「いや、いくらなんでも中二臭いだろこれ」


 その長剣には十字架のマークや何に使う訳でもない鎖、特に意味の無い古代文字っぽい模様がある。

 試しに振るってみると、思っていたよりずっと重く、素人がいきなり扱うのはさすがに難しそうだ。


「やったぁ! 魔法、使えたね!」


 シルキィは自分のことのように喜んでいるし、モンブランもりんぜも拍手してくれている。


 使いこなすのはまだまだこれからだろうが、まず初めの一歩だ。

 魔法を使った実感なんてものはないながらも、手にした長剣の重みは確かに本物なのだった。

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