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 だから、萌はにっこりと笑って、真中硯に笑いかけた。

 その萌の心からの笑顔を見て(それが嘘の笑顔ではないことが、萌の親友の硯にはよくわかった)、「ありがとう。萌」とにっこりと笑って硯は言った。


「でもさ、本当にいいの?」硯は言った。

「本当にいいよ。しつこいな」萌は言う。

 せっかくいい感じで終わったのに、硯はしつこく(新谷くんが二人のところに帰ってくるまでの間、ずっと)萌にそんなことを言い続けた。

「本当の、本当にいいの?」

「もう、じゃあ、さ。え? なになに? 硯は私がやっぱりだめって言ったら、新谷くんのこと、私に譲ってくれるの?」とにやにやと(いやらしく)笑いながら、萌は言った。

「それはだめ」

「絶対にあげない」と真剣な顔で硯は言った。

「なにをあげないの?」

 そんな新谷くんの声がした。その声を聞いて「え!?」とびっくりして硯は後ろを急いで振り返った。すると、そこにはもちろん新谷くんがいた。(萌は新谷くんがそっと、二人に近づいてきたことに気がついていたのだけど、硯は気がついていなかった)

 今の話を新谷くんに聞かれたかも? と思って硯が顔を真っ赤にしている。そんな親友のことを見て、硯はいつも、(きっと幾つになっても)とっても可愛いいな、と早川萌はそんな意地悪なことをちょっとだけ思った。


「じゃあね。萌。またあとで」

「またね。早川さん」 

 硯と新谷くんの二人はそう言って、萌を一人だけ残して、早川神社の境内をあとにした。

「うん。またね」そんな幸せそうな二人に手を振って、萌はまた神社の境内の中に一人ぼっちになって、「はぁー」と深いため息をついてから、大きな木のところにたけかけていた竹ぼうきを持って、再び早川神社の境内の中の掃除を始めた。


 遠くで、名前も知らない鳥の鳴く声が聞こえた。

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