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「こんにちはー。萌ー。いるー?」
萌の親友の真中硯が早川神社を訪ねてきたのは、ちょうどそんなときだった。
その硯の声を聞いて、巫女服姿の萌が後ろを振り向くと、そこには私服姿の真中硯と、そして、その硯の現在の恋人である、硯と同じく私服姿の新谷翔くんが二人並んで、とても仲が良さそうな雰囲気で、立っていた。
硯はチェック柄のミニスカートに、白いパーカーと青色のセーターと言う服装で、その隣にいる新谷くんはデニムのズボンに白シャツ。その上に緑色のセーターという格好だった。
足元は二人とも白いスニーカーだった。
二人は笑顔で萌の前までやってくる。
その間、萌はすごくふてくされた顔をしていた。
「こら。お客様に向かって、なんて顔してるのよ」とにっこりと笑って硯が言った。
「別に……」頬を膨らませて萌が言う。
「こんにちは。早川さん。久しぶりだね」にっこりと笑って二十歳になった新谷翔くんがそう言った。
「うん。久しぶり! 新谷くん」と嬉しそうな笑顔(と声)で、萌が言った。
その萌の笑顔は、もし大学の授業の小テストに笑顔っていう科目があったら、きっと百点満点の笑顔だと評価されるくらいに、完璧な笑顔だった。
「ちょっと萌。私の彼氏に手を出さないでよ」
と新谷くんの手を握って、同じく二十歳になった真中硯が萌に言った。
その硯の言葉に、にっこりともう一度百点満点の笑顔で笑って、「あら、どうして? 恋はいつでも真剣勝負でしょ?」と萌は返事をした。
そんな萌に向かって、硯は露骨に嫌な顔をした。(まあ、当たり前だ)
大学が春休みのこの時期に、硯と新谷くんが二人が(二人一緒に)早川神社を訪ねてきたのは、恋愛(人の縁)の神様を祀っているこの早川神社で、恋愛成就のお参りをするのが目的だった。つまり、二人の愛のお願いをするためだった。
二人の親友である早川萌にはもちろん、そのことが二人の姿を見たときから、ちゃんとわかっていた。わかっているからこそ、こうして二人に(とくに硯に向かって)、萌は嫌がらせをしているのだ。
「では、お客様。こちらにどうぞ」
そう言って、萌は硯と新谷くんの二人を早川神社の本殿の中に案内した。
「うん。行こう。新谷くん」
「ああ。そうだね」
硯と新谷くんはそう言って、お互いの顔を見つめあって、にっこりと幸せそうに微笑んでから、萌のあとについてきた。
そして萌は早川神社の本殿の中で、(ほかのお客様のときと同じように)二人の愛の成就を(そして自分の親友二人の永遠の幸せを、本当に心のそこから)願った。
それから三人は、ほかに参拝のお客さんがいないこともあって、少しだけ早川神社の本殿のところで、周囲の青々とした気持ちの良い風景を見ながら、まるで高校生時代に戻ったみたいにお話をした。




