76 エピローグ 早川神社にて あなたのこと。……私のこと。
エピローグ
早川神社にて
あなたのこと。……私のこと。
萌が地元の大学の大学生になって、二度目の春がやってきた。このとき、早川萌は二十歳になっていた。
友人たちに囲まれ、いつも笑顔で大学に通いながら、早川神社の巫女を勤めて、と萌は大方、充実した(満足のできる)幸せな大学生活を送っていた。
「はぁー」
でも、広い早川神社の境内にある、小高い山にある坂道を上って、赤い大鳥居をくぐって、長い石段を上った先にある、緑色の気持ちの良い新鮮な葉を讃えるたくさんの立派な木々に囲まれている早川神社の本殿にまで続く石畳の通路の上を竹ぼうきで掃き掃除をしながら、赤と白の巫女服姿の早川萌は、そんな重い溜息をさっきからなんどもついていた。
その溜息にはきちんとした理由があった。
それは二十歳になった萌の最大の悩みでもあった。
その悩みとは、周りの友達たちに(その友達たちと自分を比べるつもりはないのだけど、でも、どうしても)みんな素敵な恋人がいて、恋愛成就、(あるいは人と人の縁を結ぶ神様を祀っている)早川神社の巫女である、自分には、今も素敵な恋人がいないこと(つまり自分が独り身であること)だった。
「はぁー」
そんなことを考えて、萌はまた重い溜息をついた。
……せっかくのお休みの日に、こんなことをしていていいのだろうか? (いや、もちろん大切なお勤めなのだけど)
私にはもっと、美しく花咲く二十歳の健全な女性として、もっとほかに(神社の境内の掃除をする以外に)やることがあるのではないか、とそんなことを早川萌は思っていたのだった。
……不謹慎にも。




