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 萌たちは職員室をあとにした。

 そして、廊下で一人待っていた野田葉摘と合流した。

 葉摘は環の紹介でその二人の仲の良い問題児コンビと面識があり、確かにその少し変わった二人の癖のせいで(オカルト研究会の部活動としては頼もしいのだけど)葉摘は苦労をしているということだった。

「確かにあの二人は行動力がありすぎて、大変ですね。なんだかちょっとだけ今の早川先輩に似ています」とくすっと笑って葉摘は萌に言った。

 葉摘の生意気なことをいうふてぶてしい口は、どうやら今も健在のようだった。

 その問題児の二人組は、今は森の奥にあるお社に出ると噂されている、『小さな子供の幽霊』のことについて熱心なようだった。葉摘が部長となってからのオカルト研究会の最初の部活動は、どうやらその『小さな子供の幽霊』についての捜査、あるいは考察になるようだ、と葉摘は言った。


 萌たちは葉摘と一緒に郡山第三東高等学校の正門前まで移動した。……満開の桜の木々が綺麗だった。

 そこで野田葉摘が「それじゃあ。先輩たち。本当にお世話になりました」と言って、在校生を代表するように頭を下げた。

「こちらこそ。今まで本当にありがとうございました。これからも、郡山第三東高等学校の伝統を受け継いで、頑張って学問や部活動に励んで、そして、すごくたくさんの幸せな思い出を作ってください」と声を合わせて萌たち、今日、郡山第三高等学校を卒業する卒業生たちは葉摘に言った。


 ……三月。郡山第三東高等学校、三年生の卒業式の日。

 今日はその当日だった。

 萌たち卒業生はみんな胸に花の形を彩ったバッチをつけていて、その手にはしっかりと立派な筒に包まれた『卒業証書』を手にしていた。

 今はそんな、たくさんの三年生、卒業生たちの思いが詰まった卒業式が終わったあとの、つかの間の、在校生たちとのお別れの時間の途中だった。


「じゃあね。野田さん。またどこかでね」

「野田さん。頑張ってね。なにかあったら連絡してね」

「野田さん。これからもオカルト研究会のこと。よろしくね」

「じゃあな。短い間だったけど、世話になった。ありがとう」

 萌たちが言う。

「はい。先輩たちも気をつけて。どこかにぽっかりと空いている穴に落っこちないように、『しっかりと、気をつけて歩いて』これからも、頑張ってください」と葉摘は言った。

 そう言ってから野田葉摘は、ずっと我慢していた涙を、メガネの奥にあるその大きな瞳から流した。

 ……それは、とても綺麗な涙だった。

 その葉摘の(すごく珍しい)涙を見て、……今日は絶対に泣かないでお別れをするって決めていたのに、萌は結局自分も、ずっと我慢していた涙をその瞳から流してしまった。


 隣をみると、やっぱり硯も泣いていた。

「……葉摘」

「葉摘ちゃん。こっちにおいで」

 と萌と硯は言った。

「……はい」

 と葉摘は素直に言って、それから三人は郡山第三東高等学校の正門のところで、抱き合って泣いた。(それは萌が新谷くんと二人で、みんなに内緒で、大晦日の真夜中の時間に、学校の屋上に忍び込むために会う約束をした場所と同じ場所だった)


 みんなに気づかれないように、顔を隠していたようだったけど、朝日奈くんも新谷くんも、その目に涙をためていた。

 ……こうして萌たちオカルト研究会、三年生の卒業式の日は終わった。

 郡山第三東高等学校オカルト研究会の伝統は(それは本当に小さな、萌たちのほかには誰も知らないような世界の片隅にあるちっぽけな伝統だったけど)確かに、この日、野田葉摘の手に受け継がれたのだった。

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