73 お化けの時間 大丈夫。怖くないよ。ほら。こっちにおいで。
お化けの時間 大丈夫。怖くないよ。ほら。こっちにおいで。
確かに私は変わったのかもしれない。
そんなことを萌は思う。
私はあの日、……UFOを呼ぶ実験を誰もいない屋上で、みんなと一緒に行った日に、……その日の夜に、あの人の夢を最後に見てから(あれから萌は、もうずっと見続けていた、あの人の夢を見ることはなくなっていた。それはすごく寂しいことだったけど、でも、私はあの人ときちんと『ばいばい』をしたのだから、……それでよかったのだと、今の萌は思っていた)
私はこれから生まれ変わろう。もっと、もっと強い人間になろう、と思った。そう決意をした。(それは間違いのないことだった)
でも、その行為が、自分の決意が、本当に成功しているのか、あるいはただの自分の思い込みなだけで、自分はまったく変われていないのか、萌はまだ、(あのあとの時間、ずっと走り続けていたということもあり)しっかりと認識をして、評価をすることができていなかった。
でも、こうして受験も無事に終わって、一番萌のそばにいてくれたオカルト研究会のみんなから、こうして「早川萌は変わった」と言ってもらえると、本当だ。確かに私は変わったのだ。(前に進むことができたのだ)
と、萌はようやく、こうして高校生活のゴールを迎えることによって、初めて、実感を伴って、感じることができたのだった。
「うん。確かに私は変わったのかもしれない」そう言って、萌は笑った。
「うん。そうだね」にっこりと笑って親友の萌が言う。
「それはもちろん『いい方向に向かって』だよね!」にっこりと外に舞う、春の桜の花びらのように微笑んで萌が言った。
「もちろん。当たり前じゃん」硯が言う。
「そうに決まっているよ。なにせこのオカルト研究会の部室にはさ、早川さんと新谷くんが入部をしてくれたあの四月の日からさ、ずっと『いい流れ』が続いているんだからね」と朝日奈くんがオカルト研究会の元部長の肩書きにお似合いの、そんなオカルトじみた言葉を言った。
「本当です。早川先輩。すごく、いい笑顔で笑うようになりましたね。昔も綺麗だったけど、今の早川先輩はあのころよりもずっと綺麗だし、素敵です」葉摘が言う。
「『氷の女王様』のころね」硯が言う。
「それだけじゃなくて、すごく活発になったよね。行動力もすごいしさ。さっきの新谷くんとの話じゃないけど、真夜中の学校の屋上に忍び込もうとしようとしたりね。それも受験の年の大晦日の日の夜にさ」朝日奈くんが言う。
「いいじゃん別に。元気になったってことでさ」
「でもちょっと、元気になりすぎたけどね」
硯の言葉に、新谷くんがそう言って、みんなが笑う。萌は黙ったままみんなの前で、反論はしないで(自覚はあった)恥ずかしさで顔を赤くしたまま、じっとみんなのことを笑顔で見ている。
早川萌は、あの日から急に(あるいは、今まで止まっていた分の時間を、自分を)取り戻すようにすごく活発な生徒になった。
以前の(郡山第三東高等学校に入学してからの)萌は寡黙で全然笑わない、(さっき硯が冗談で言ったような)氷の女王のような美しい人物だったのだけど、郡山第三東高等学校の卒業を迎える時期になった、今の早川萌は、元気な若い馬に乗って、永遠と続いているような緑色の野原の上を自由にいつまでも駆け回っているような、そんなおてんばな娘(あるいはお姫様)に変わっていた。
そんな自分の変化を(今日みたいにたまにからかわれたり、笑われたりもするけれど)早川萌はすごく、すごく気に入っていた。




