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一度は、もう諦めようとしていたみたいだったけど、結局あのあとで、葉摘はオカルト研究会がこれからも、(つまり、この旧校舎の部室がなくなり、新校舎に移ったあとも)存続できるように、去年と同じように今年もオカルト研究会の部員の勧誘を行うことにしたのだ。
そして葉摘自身の友人関係や、葉摘の親友の友達の(あの、サイゼリアでアルバイトをしていた内田環のことだった)友人関係を頼りとして、これからこの郡山第三東高等学校に入学してくる新一年生二人を含めて、在校生一名、幽霊部員一名の勧誘に成功して、五人を集め、すでにこの時点で来年度のオカルト研究会の存続が決定していた。
萌たち卒業生の「おめでとう」(あるいは、ありがとう)の言葉に対して、葉摘は、「みんなのおがげです」とにっこりと笑って言っていただけだったけど、それは明らかに葉摘自身の努力の結果だった。
それに葉摘は、萌が想像していた以上に、たくさんの友人たちに囲まれた、すごく幸せな(とてもオカルト研究会というマイナーな部活動の部長をこれからすることになるようには思えない)生徒だった。それに葉摘はしっかりしているし、今回のことで行動力もすごくあることがわかったし、きっと朝日奈くんや私たち三年生のあとをついで、しっかりとオカルト研究会の伝統をこれからも、この郡山第三東高等学校の中で存続させて言ってくれるだろうと思った。
「それにしてもさ、萌。変わったね」にっこりと笑って硯が言った。
「変わった? 私が?」と自分の顔を指差して萌が言う。
「はい。確かに変わりましたね」隣に座っている、葉摘が笑って言う。
葉摘の前のテーブルの上にはいつものように文庫本が一冊、表紙を上にして置かれている。その本のタイトルのところには暗い色をした表紙と一緒に『アフターダーク』の文字があった。あいかわらずの葉摘の大好きな村上春樹の本だった。
「本当。すごく変わったよ。早川さん」二人と同じようににっこりと笑って、朝日奈くんが言う。
萌が朝日奈くんに目を向けて、それから新谷くんに目を向けると、新谷くんは無言のまま、うんうん、と萌を見てうなずいていた。
変わった。
私が? (……ずっと一生変われないままだと思っていたのに)
それから萌は自分自身のことについて、考えてみる。




