65
気がつくと、萌もいつの間にか、当時の小学校六年生のころの自分に戻っていた。それはまるで時間があの当時の私たちの時間に、今だけ巻き戻ってしまったかのようだった。
萌はあの人の姿と自分の姿をじろじろと物珍しそうなものでも見るような目で見た。
そして、萌はいろんなことを思い出した。
あの日のあの人の服装。(それは背中に大きな青色のランドセルを背負った初等部の制服姿だった)傘の色。(それは淡い水色だった)あの人の顔。(それはやっぱり萌の憧れた夏の太陽のような笑顔だった)あの人の、最後の言葉。(それは、ばいばいだった)
あの日の自分の服装。(それは背中に大きな赤色のランドセルを背負った、やっぱりあの人と同じ初等部の制服姿だった。そのランドセルと制服は、事故のあとで全部処分してしまったはずだ。あの人の思い出と一緒に)傘の色。(それは淡いピンク色だった)自分の顔。(それは笑顔だった。萌はあの人と一緒にいるときは、いつもよりもずっと笑顔に、元気になれた)自分の声。(私は、大声であの人の名前を叫んだのだ。それから、ずっとずっと、あの人の近くで大きな声を出して泣いていたのだった)
不思議な場所。すごく心が安心する風景。草原。
その世界に吹いている、優しい風。
そこにいる、小学校六年生のころで時間の止まったままでいる、あの人と萌。
あの人は、小学六年生の、あの交通事故の事件のあとで、いつも泣いてばかりいた小さな女の子に、早川萌を見て、萌の夢の中で、小学六年生時代のあの人が、初めて、萌を見てにっこりと笑った。
「ばいばい。萌」と元気な声であの人は言った。
すると、自然と萌の大きな瞳から、透明な涙が溢れた。
「……うん。ばいばい。……くん」と泣きながら、にっこりと笑って、あの人に負けないくらいに元気な声で萌は言った。
あの人は笑顔のままで、萌に元気よく手を振って、それから不思議な世界の中に吹く優しくて暖かい不思議な風の中に、本当に消えるようにして、……消えて、萌の前からいなくなってしまった。
萌は、夢から目を覚ました。
萌はやっぱり、いつものように泣いていた。
でも、その日、……一人の女の子が救われたのだと思った。
私はきっと、救われたのだ。
そう早川萌は思って、……ベットの中で一人、大きな声を出して、……泣いた。




