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「結構、前の話なんだけどさ、ほら、四月ごろにさ、最初にUFOを呼ぶ実験をみんなでやった日の、あいつと私の二人で萌を実家に送って行った帰り道にさ。私、あいつに怒られちゃったんだ」早川神社のある小高い山の坂道を歩いているときに、硯は言った。
「あいつって、新谷くん?」
「そう。お前は早川さんに対して過保護すぎるんだって。そうやってお前が早川さんのことを甘やかすから、いつまでたっても早川さんが一人で前に進むことができないんだよって、……そう怒られたんだ」
「……そんなことがあったんだ」萌は言った。
それから萌はちょっとだけ、くすっと笑った。(そんな二人の風景は、なんだかすぐに想像ができて、萌は少し可笑しかった)
「そのあとでさ、私はそうじゃないって、反論をして、喧嘩になったんだけど、……まあ、新谷くんの言っていることも、一理あるかなって、みんなの前で、萌の話してくれたあいつの昔話を聞いて、ちょっと思った」
「うん。そうなんだ」萌は言う。
「私、過保護かな?」
「そんなことないよ」萌は言った。
「そんなこと全然ない。私、硯が私のこと、私がいないところですごく擁護してくれているの知っているよ。私の悪い噂のことだって、硯がいろいろと否定してくれたりするのも、……知っている。噂ってね、悪いことばかりが伝わるわけじゃないんだよ。こうして嬉しいことも、ちゃんと伝わってくるんだよ」萌は言う。
硯は無言。
「ありがとう。硯」にっこりと笑って萌は言った。
「そんなことないよ。……私、そんなにいい子じゃないよ。……ごめんね、萌。本当にごめんなさい」と、小さな声で硯は言った。
それから硯は、涙ぐんで、萌の隣で小さな声でちょっとだけ泣いた。そんな硯のことを萌は「よしよし」と言って慰めた。
それから二人は、萌の実家である早川神社の入り口にある赤い大鳥居のところまでやってきた。
辺りは、もうかなり暗い夜に包まれている。萌が見上げると、もう薄暗い空には星と明るい月が出ていた。
そこでさよならをして別れるときに、硯の携帯電話が鳴った。その電話に硯は出る。「うん。うん。わかった。じゃあね」と言って硯はその電話をすぐに切った。「誰から?」萌が聞く。
すると恥ずかしそうにして「……新谷くんから」と硯は言った。「え? 硯、新谷くんと連絡先交換したの?」と萌は驚いてそう言った。
「うん。まあ」硯は言う。
「いつ?」
「……萌をこの場所まで二人で送って行った帰り道。……私、あのあと、……連絡先、新谷くんと交換したんだ」と頬を赤らめて、硯が言った。
「そうなの?」萌は言う。
「うん。萌はどう? 新谷くんと、番号とか、メールアドレスとか、交換した?」
「ううん。してない」萌は言った。
そう言ってから、……そうか。硯は新谷くんともう連絡先を交換しているんだ、と思って、そのことをちょっとだけ羨ましく思った。




