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57 休憩時間の間。 ……もっとさ、ちゃんと笑おうよ。

 休憩時間の間。


 ……もっとさ、ちゃんと笑おうよ。


「どうして、新谷くん。あんなこと言ったのかな?」

 萌は硯と一緒に誰もいない校舎の窓際で、自動販売機で買ってきたパックのミルクコーヒーを飲みながら、工事の止まっている大きな網のかかった新校舎の姿を眺めて、会話をしていた。

「そんなの知らないよ。別にいいんじゃない? あんな空気の読めないやつ。無視してもさ」同じようにストローで苺ミルクを飲みながら、硯は言った。


 新谷くんに応援されて、新谷くんがいてくれたおかげで、萌は自分の悪い噂の話をオカルト研究会のみんなに話すことができた。ほかの誰でもない。新谷翔くんのおかげだった。新谷くんが萌に勇気をくれた。前に進む勇気をくれたのだ。

 だから、萌はずっと、新谷くんは萌のことを応援してくれると思っていた。ううん。実際に新谷くんは萌のことを今も応援してくれているのだと思う。

 でも萌はさっきの新谷くんの言葉が心に引っかかっていた。

 新谷くんは萌が少しでも後ろ向きな気持ちで(新谷くんの言葉で言えばネガティブな気持ちで)このUFOを呼ぶ実験をもう一度やりたいと言っていたのなら、自分が怒って屋上を立ち去ることで、実験を強引に中止させるつもりでいたと萌に言った。(実際にオカルト研究会のメンバーの誰か一人でも実験に反対したら、たぶん、実験は中止になっていたと思う。あの実験はあるいは、みんなの心を一つにする、実験でもある、と言えるような実験だったのだから)

 それを新谷くんは(つまり自分が嫌われ者になっても)萌のためにそうするつもりでいてくれたようだった。

 そして、新谷くんは最後に萌に、僕はあの人じゃないよ、と言った。

 それはもちろん、萌にもちゃんとわかっていた。

 新谷くんは新谷くんで、……あの人はあの人だった。決して同じ人じゃない。似ているだけで、まったくの別人なのだ。


 それでも、萌は確かに新谷翔くんと初めて出会ったときから(そう。あれはオカルト研究会に入部してよ、と硯に誘われた日のことだった)ずっと、新谷くんにあの人の面影を見ていた。

 萌の夢の中に出てくる萌と同い年になったあの人の姿に、新谷翔くんは本当によく似ていた。まるで自分の夢の中から、あの人が現実の世界の中に飛び出してきたようにすら、最初、萌には思えた。それは萌を助けてくれるためだろうか? それとも、萌に復習をするためだろうか? そんなつまらないことを、あのころの私はよく一人で考えていた。(新谷くんにはすごく失礼なことをしてしまった。あとで、このことも、正式に新谷くんに謝罪をしなければいけないだろう)


 もし、本当に新谷くんに拒否をされていたら、私はどうなっていただろう? そんなことを萌は考えている。そうなったら、私は今頃、どうなっていたのだろう? もし、新谷くんに出会わなければ、硯が私をオカルト研究会に誘ってくれなかったら、朝日奈くんや葉摘や、鈴谷先生にきちんと出会えなければ、……私は今頃どうなっていたのだろう? そんな悲しいことを萌は考えてみる。

 今もずっと一人で、自分の部屋の暗いベットの中の闇の中で、私はあの人の夢を見て、毎朝、泣いてばかりたのだろうか?

 ……考えがうまくまとまらない。

 まだ、少し、私はあの長い間ずっと私の中にあった暗い闇にその心を惹かれているのかもしれない。

 ……新谷くん。あなたは今、どこにいるの?


「きっとさ、あいつ。萌のことが好きなんだよ」

「え?」

 ぐるぐると考えが回ってなかなか答えに辿りつかないな、と思っていたときに、硯が窓の外の風景を見ながら萌にそういった。

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