54 みんなと一緒にいたら、笑顔になれるよ。きっとね。
みんなと一緒にいたら、笑顔になれるよ。きっとね。
「そうしたらなんだか今までずっと我慢していた分、すごく欲が出てしまって、もっと前に進みたいって、私はもっともっと前に進みたい、ずっと立ち止まっていた分、そう思う気持ちが強くなってきたんです」
「うん、うん」
萌の話を聞いて、遠くで鈴谷先生が、嬉しそうな顔でうなずいた。
「なるほどね」
朝日奈くんが言う。
「はい。でも、それだけじゃなくて、もう一つ理由もあります」萌は言った。
「もう一つの理由? それってなに?」
興味津々と言った顔で、硯が言う。
「本当はこれは自分だけの秘密にしておこうと思ったんですけど、せっかく朝日奈くんが(たぶん鈴谷先生と事前に相談をしていて)こうして私にUFOを呼ぶ実験を提案した理由を聞いてくれたんでいいますね」萌は言う。
「それは、……この間、鈴谷先生が言っていた、UFOは昔の人たちが考えた宗教や民族の中に語り継がれるいわゆる『異界の扉』って言う言葉(あるいは装置)の意味の現代的な比喩かもしれないっていうお話に答えがあります。鈴谷先生は直接そうは言わなかったけど、……異界の扉って言うものは、つまり、『死者の国』にいくための通路って、ことですよね?」
萌は鈴谷先生を見る。
萌の言葉に(萌を見て)「そうだね」と鈴谷先生が言う。
「君たちが『絶対に通ってはいけない通路』だ」と、そのあとで、鈴谷先生は優しい声で、そして小さな声でそう付け加えた。
「私、あの人に『さよなら』を言いたいんです」
みんなを見て萌は言う。
「きちんとあの人にさよならを言いたい。私、まだ……きっと落ち込んでばかりいたから、泣いてばかりいたから、だから、『あの人に正式にさよならを言えていない』んだと思います。だから、私は言いたい。きちんとあの人の顔を見て、さよならって、あの人言いたい。それから、『……私の命を助けてくれて、本当にありがとう』って、これからも私は、あなたにもらった命を大切にして、その最後の最後の瞬間まで、頑張って、精一杯生きていきますって、……そう、あの人に、ありがとうって、言葉を伝えることと一緒に、はっきりと言いたいんです」
そう言ってから、早川萌は、にっこりと笑った。
みんなは黙って、萌の言葉に耳をかたむけてくれている。
屋上にまた、優しい夏の風が吹いた。
気持ちの良い風。
その風の中で、萌は自分の話を続けた。
「それともう一つ理由があります」
「え? まだあるの?」
もう理由はないのだろうと思っていた硯は、驚いた顔で萌に言った。
「真中先輩。時間もあるんですし、せっかくの機会なんですか、ちゃんと最後まで早川先輩の話を聞きましょうよ」と葉摘が言った。
「ね? 早川先輩」
にっこりと笑って葉摘は言う。
「別に話を聞かないとは言ってないでしょ? ただ、さっきまでの萌の話で私はなるほどな、って納得してたから、まだ理由があるって聞いてちょっと驚いただけだよ」と硯は言った。
「まあまあ二人とも。それで、早川さん。その理由って、なに? 僕も今までの早川さんの話は、なんとなくそうなのかも? くらいには想像できていたんだけど、これ以上の理由はあんまり思いつかないんだけどさ」と朝日奈くんが言った。
その朝日奈くんの言葉に続いて萌は言葉を続けた。




