表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/84

52

 新谷くんと出会ってから、夢の中であの人の姿が、あの人に似ている新谷くんの姿に変わることが何度かあった。

 新谷くんは、あの人の代わりにいつも萌に向かって優しい顔で笑いかけてくれていた。

 萌の夢の中で笑うのは、『……あの人ではなくて、いつも、新谷翔くん』だった。そんなことがよくあった。

「ありがとう、新谷くん」

 萌は言った。

「? なんのありがとう?」新谷くんは言う。

「私のことを心配してくれて」とにっこりと笑って萌は言った。

 その萌の笑顔を見て、新谷くんはその顔を照れくさそうな表情をしながら、……赤く染めた。


「萌~。こっち手伝って〜」

 声のほうを見ると硯が泣き言をあげていた。

 見ると硯は、たくさんの資料やファイルと、一人でにらめっこをしていた。(どうやら硯は過去の先輩たちのデータを元にして、実験をしようと思って、その資料の整理とまとめをしているようだった)

「わかった。今行く」

 そう言って、萌はチョークで屋上にUFOを呼ぶための図形を描くことをやめて、硯の元に移動をした。


 萌が自分の悪い噂の話を終えてから、しばらくすると、硯が萌にパイプ椅子から無言のままで立ち上がって、ぎゅっと萌のことを抱きしめてくれた。

 みんな、萌の真剣で、誠実な、……本当なら、人には絶対に言えないような、そんな罪と罰の話を聞いたあとで、オカルト研究会のメンバーはそれぞれがじっと、いろんな物事を考えていたようだったけど、やっぱり最初に、萌のことをしっかりと守ってくれたのは、いつものように親友の真中硯だった。

 硯は無言のまま、泣いていた。

 萌も、同じように涙を流してしまった。自分の悪い噂の話をしているときには、涙は我慢できたのだけど、親友の硯に抱きしめられて、涙を我慢することが、とうとうできなくなってしまった。

 私たちは一緒に泣いた。

 そんなことは、あの人が交通事故の事件で死んでしまってから、……きっとあのときの、あの時間以来の、本当に久しぶりのことだった。

 二人の涙を見て、オカルト研究会のみんなの緊張は、ようやく解けたようだった。

「萌〜」

「……うん」

 そう言って硯は萌の頭をそっと撫でてくれた。硯は萌の腕の中でずっと泣いていた。萌も硯の腕の中で、ずっとずっと泣いていた。いつもそうだった。いつも萌のために、萌の親友の硯は、……こうして一緒に涙を流してくれているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ