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新谷くんと出会ってから、夢の中であの人の姿が、あの人に似ている新谷くんの姿に変わることが何度かあった。
新谷くんは、あの人の代わりにいつも萌に向かって優しい顔で笑いかけてくれていた。
萌の夢の中で笑うのは、『……あの人ではなくて、いつも、新谷翔くん』だった。そんなことがよくあった。
「ありがとう、新谷くん」
萌は言った。
「? なんのありがとう?」新谷くんは言う。
「私のことを心配してくれて」とにっこりと笑って萌は言った。
その萌の笑顔を見て、新谷くんはその顔を照れくさそうな表情をしながら、……赤く染めた。
「萌~。こっち手伝って〜」
声のほうを見ると硯が泣き言をあげていた。
見ると硯は、たくさんの資料やファイルと、一人でにらめっこをしていた。(どうやら硯は過去の先輩たちのデータを元にして、実験をしようと思って、その資料の整理とまとめをしているようだった)
「わかった。今行く」
そう言って、萌はチョークで屋上にUFOを呼ぶための図形を描くことをやめて、硯の元に移動をした。
萌が自分の悪い噂の話を終えてから、しばらくすると、硯が萌にパイプ椅子から無言のままで立ち上がって、ぎゅっと萌のことを抱きしめてくれた。
みんな、萌の真剣で、誠実な、……本当なら、人には絶対に言えないような、そんな罪と罰の話を聞いたあとで、オカルト研究会のメンバーはそれぞれがじっと、いろんな物事を考えていたようだったけど、やっぱり最初に、萌のことをしっかりと守ってくれたのは、いつものように親友の真中硯だった。
硯は無言のまま、泣いていた。
萌も、同じように涙を流してしまった。自分の悪い噂の話をしているときには、涙は我慢できたのだけど、親友の硯に抱きしめられて、涙を我慢することが、とうとうできなくなってしまった。
私たちは一緒に泣いた。
そんなことは、あの人が交通事故の事件で死んでしまってから、……きっとあのときの、あの時間以来の、本当に久しぶりのことだった。
二人の涙を見て、オカルト研究会のみんなの緊張は、ようやく解けたようだった。
「萌〜」
「……うん」
そう言って硯は萌の頭をそっと撫でてくれた。硯は萌の腕の中でずっと泣いていた。萌も硯の腕の中で、ずっとずっと泣いていた。いつもそうだった。いつも萌のために、萌の親友の硯は、……こうして一緒に涙を流してくれているのだった。




