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自分の悪い噂の話を切り出すまで、こんなにうまく自分の気持ちを、あの人のことを、私の罪と罰の物語を、みんなに話すことができるなんて思ってもいなかった。でも、話し始めると、萌の話は止まらなくなった。ずっと、ずっと、話していたいと思うくらいだった。とりとめもなく、時系列も、ばらばらな突飛な話だったのだけど、それは湧き水のように、萌の中から溢れて、溢れて、止まらなくなった。
……そんな奇跡みたいなことができたのは、もしかしたら、朝日奈くんが言っていた通りに、このオカルト研究会という場所には、なにかとても『いい流れ』のようなものが、今、流れているのかもしれないと萌は思った。
ここにいると、みんなと一緒にいると、なぜか妙に気持ちが落ち着くし、なによりも、この場所にいると、萌はとても安心することができた。
自分の居場所がある、と思えた。
『なにかにきちんと守られている』と思うことができたのだ。(それこそ、オカルトみたいな話だけど)
そしてなによりも、この場所には萌の友人たちがいた。
ずっと萌のそばにいてくれた親友の真中硯はもちろんのことだけど、部長の朝日奈勝くんにしても、野田葉摘にしても、それから、……新谷翔くんにしても、萌はなぜか自然と、理由は全然わからないけど、すごく自然と心を開くことができた。
いい流れ。いい流れか。
……うん。確かに、今は、いい流れが、あるのかもしれない。
もしそうだとしたら、この流れに私は身を任せてみたい、と萌は思った。そして、自分にかかっている呪いを、もし可能であるのならば、『解き放ってみたい』と、萌はそう思うようになっていた。
だから萌は自分の悪い噂の話をオカルト研究会のみんなに話すことにした。
それは、あの人に対する裏切りではない。(決してそうではない。私は生涯、私の命を救ってくれた、あの人のことを忘れたりしない)
あの人は、絶対に私に不幸になって欲しいなんて、思っていない。あの人は私のことを恨んでなんかいない。私に呪いをかけてはいない。だって、『私に呪いをかけているのは、ずっと昔から、私の中にいるもう一人の(あの交通事故の事件があった、あの人が死んでしまった小学六年生のころで、時が止まったままでいる)……私自身なんだから』と萌は思った。
萌はそっと目をつぶった。
そこには暗闇があり、その暗闇の中に萌はいなくなってしまったあの人の顔を思い出してみた。その顔は本当に正確に思い出すことができた。……その、『あの人の顔は、あの明るい太陽のような笑顔』だった。
いつもの萌の夢の中の通りに、じっと冷たい目で萌のことを、見つめているだけはなかった。
輝くような、明るい笑顔。……あの人の本当の顔。
「早川さん。どうかしたの?」
そんな新谷くんの声がした。
萌は目を開けて新谷くんの顔を見る。
すると、新谷翔くんは、にっこりと真夏の太陽のような笑顔で笑って、「もしかして早川さん。疲れちゃったの? 体力ないな」とすごく楽しそうな声で萌に言った。
「そんなことないよ。大丈夫」萌は言う。
その新谷くんの笑顔を見て、自然と萌も笑顔になった。そして、なんだかいっぱい元気も出てきた。




