37 真中硯の回想
真中硯の回想
……あなたは死んでしまった。あなたはもうこの現実の世界にはいないのだ。
早川萌には一つの悪い噂があった。それは彼女がまったく『笑わないこと』に関する噂だった。
もちろん、絶対にまったく早川萌は笑わない女の子である、というわけではなくて、たまには(本当にたまにだけど)萌は友達と喋っていて笑うこともあったし、一人でぼんやりとしているときに、ふとになにかを思い出したり、あるいはなにかを考えついたりして、くすくすと笑うこともあったけど、一日のほとんどを萌はまったくの無表情に近い仮面のような顔で過ごしていた。(実際に萌はずっと仮面をかぶっていたのだと思う)
それは季節や天気に関係がなくて、春夏秋冬、一年三百六十五日。萌はずっとそうだった。
それは萌の生まれ持った性格ではなくて、萌は子供のころは周囲の子供たちよりもずっと、とても楽しそうに一番よく笑う女の子だった。
その萌の笑っている風景は、もともと備わっている萌の天使みたいな風貌も相まって、本当に絵になった。
萌は実家が裕福なお嬢様だったし、早川神社の巫女でもあるし、なによりも本人があまり人前に出ることや有名になることに関心がなかったから(萌の関心はもっぱら、自分の内面。心。魂。あるいは芸術。そして学問にあった)、そうはならないと萌の友達はみんな(もちろん、私も)思っていたけど、萌は普通に考えれば、モデルさんや女優さん、あるいはアイドルなんかになれるのではないか、と周囲で噂されているような綺麗な女の子だった。
将来、絶対に幸せになれると、自然とそう周囲の人に思われているようなきらきらとした笑顔の絶えない女の子だったのだ。




