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「じゃあ、みんな、また明日。それと早川さん。本当にごめんね」別れ際に、朝日奈くんがそう言った。
「あの、朝日奈くん」萌が言った。
「なに?」
「……あの、このあとも、私、オカルト研究会に参加してもいいですか?」と萌は言った。
「え? そりゃ、もちろん構わない、というかすごく嬉しいけど……、急にどうしたの?」と朝日奈くんは言った。
「今日はみんなに迷惑をかけてしまってごめんなさい」萌はそう言って、オカルト研究会のみんなにまず頭を下げた。
「門限のこと?」朝日奈くんが言う。
「それもありますけど、ほかにもいろいろんなことです」萌は言う。
(突然、高校三年生の今になって、オカルト研究会に入部をした萌のことは、それなりに郡山第三東高等学校の中で噂になりつつあった。その証拠として、萌はこの間、新聞部の部長である、同じ教室の北野つぐみに「あのさ、早川さん。もしよかったら、今度少しだけお話聞かせてもらえないかな?」と取材の申し込みをされたりしていた)
「みんな、言葉にしては言わないけれど、きっと、いろいろと私のことで、迷惑をかけてますよね?」萌は言う。
みんなは無言。それはつまり、肯定という意味だ。
それから、「でも私、まだこのオカルト研究会の部活にできるだけ参加していたいんです。これからもみんなには迷惑をかけてしまうかもしれないけれど、……今までのように、オカルト研究会の部活に参加してもいいですか?」と萌は言った。
萌は内心、ひどく怯えていた。もしみんなに嫌われてしまったら、(そんなことないとみんなのことを信じているのに)この申し出を拒否されてしまったらどうしようと思って、すごくびくびくしていたのだ。
「なに言ってるの萌。そんなのいいに決まってるじゃん」と明るい声で親友の硯が言った。
萌が頭をあげてみんなをみると、みんなは萌を見て、にっこりと笑っていた。
「こちらこそよろしく早川さん。僕は、いつか早川さんが飽きちゃって、オカ研に顔を出してくれなくなっちゃうんじゃないかって、今日の実験のときとかも、結構どきどきしてたんだよ。いいに決まってるよ」と笑顔で朝日奈くんが言った。
そんな朝日奈くんはもう落ち込んではいなくて、『いつもの明るい朝日奈勝くん』に戻っていた。
失敗してもくじけない。すぐに気持ちを明るくしている。(それは、天性のものではない。朝日奈くんの努力によるものだ)気持ちが強い。かっこいい。
そんな朝日奈くんの笑顔を見て、あの日から、もう、……ずっと、本当に長い間、立ち止まっている(ずっと心の底から、笑えないでいる)、弱い自分のことを、萌はとても恥ずかしくなった。
葉摘も、それから新谷くんも、萌を見て優しい顔で笑っている。
そんなみんなに「ありがとう」と言って、にっこりと笑い返すことができたら、……世界はどんなに素敵なことだろう、と早川萌は、そう思った。




