第9話 対策万全! ピッカピカのダンジョン
「先生、これをお願いします!」
マオはアイザックに、集めてきたアイテムを見せた。
先ほど手に入れたミニマムキノコ。
危険を感じ取ったら騒ぎ出すケイコクホタル。
ゴミ山の中から取り出したボロボロな人形。
そして、間接材として活躍するカオスマイマイ。
アイザックはその素材アイテムを見て、一瞬何をしようとしているのかわからなかった。だが、すぐに「わかった」と言って大きく口を開いた。
「行きますよ」
マオはゴミ袋に入れていた素材アイテムを一気に放り込む。
途端にアイザックは「うっ!」と呻き声を上げた。
「頑張って、先生!」
応援するマオ。ルルクはその姿を旗から見ていて、ちょっとした気持ち悪さを覚えていた。
思えばアイザックは、身体を小さくする毒キノコに虫、ゴミの中から取り出した人形と気色悪い色をしたカタツムリを食べた。
これが美味しいとは言えないだろう。むしろ想像し難い最悪な味がアイザックを襲っているはずだ。
ルルクは思わずアイザックに、同情に似た視線を向けていた。
「ぶぉぉぉぉぉ!」
アイザックの身体がグニャングニャンと蠢く。苦しげに呻き声を上げる中、マオとルルクはハラハラと見つめていた。
だがアイザックは頑張る。頑張ってマオから提供された素材アイテムを飲み込んだ。
しばらくして、身体から煙が上がる。それから数秒後、アイザックはアイテムを吐き出した。
「やった!」
「これは――」
出てきたのは、大きなビンに入った一つの薬液と警告ランプを頭に被った人形だった。
「ありがとうございます、先生! これでお掃除が捗ります!」
ちょっとヨダレにまみれたビンを取り、マオはすぐに駆けていく。
ルルクが反射的に追いかけようとした瞬間、アイザックは「待ってくれ」と声をかけた。
「お、俺も連れていってくれ……」
グッタリとしているアイザック。ルルクはすぐに動けないことに気づき、その身体を抱きかかえたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
「もぉー、マオちゃんもルルクもどこに行ったのよ!」
ミーシャは怒りながらダンジョンの掃除をしていた。
先ほど襲ってきたゴブリンも一緒に、ゴミ袋を持ってキレイにしている。だが、どんなにゴミを集めても片付かない。
「ハァ、疲れたぁー」
ミーシャは本当にお掃除をやめたくなった。
果てのない作業に、見えないゴール。どのくらい時間を使えば問題を解決できるだろう、と考えた瞬間、思わずため息を吐いてしまう。
もう放り投げて、どこかに行っちゃおうかな。
そう考え始めた時だった。
「みんなぁー」
マオが手を振って駆けてくる。ミーシャはマオの姿を見た途端、ちょっと怒りながら「どこに行ってたのよ!」と怒鳴った。
「お掃除まだ終わらないのよ! サボらないでよっ」
「ごめんごめん。でも、便利なアイテムを作ってきたから許して」
「便利なアイテム?」
マオは持っていたビンを「じゃーん」と言って見せつける。
ミーシャはちょっと不思議そうな目をしてビンを見た。見た限りちょっと毒々しい色をしている。一体これで何をするつもりなのだろうか。
そう思っているとマオがビンの中に入っている薬液について説明を始めた。
「これ、どんなものでも小さくしちゃう薬なんだ」
「小さくしちゃう薬?」
「うん。ちょっと待っててね」
マオはゴミ山からまだ使えそうなマグカップを取り出した。その中に薬液を注ぎ、山となっているゴミに振り撒いた。
途端にゴミ山になっていたゴミが小さくなる。ミーシャが試しに手にとって見てみると、ほとんどが指先に乗るほどの大きさになっていた。
「おぉー」
「仕組みはよくわからないけど、薬液と激しくぶつかった物体を小さくしてくれるんだ。だからこれで、どんどんと小さくしていって一気に集めちゃおうって作戦だよ」
「いいじゃんいいじゃん! これなら集めやすくなるし、ゴミ袋を持ち運ぶ回数も減るし!」
「でしょでしょう! どんどんとかけて片付けちゃおう!」
マオ達は楽しげに薬液をかけてゴミを小さくしていく。それを遠目で見ていたゴブリン達はどこか感心しながら、マオ達の元へと駆け寄った。
ゴミをどんどんと小さくして、みんなと一緒にゴミを集めていく。薬液をかける作業が入ったこともあってか、お掃除がどこか楽しくなっていた。
気がつけばダンジョンを覆っていたゴミは消え、ピカピカな輝きを放っていた。
「やったー!」
「お掃除終わったー」
ハイタッチするマオとミーシャ。それでも結構な量のゴミ袋があるが、マオは抜かりなく薬液をかけて小さくした。
一つのゴミ袋にまとめ、ゴミ捨て場に移動する。
「あ、そうだマオちゃん」
「どうしたの、ミーシャちゃん?」
「ダンジョンのゴミは片付けたけど、このままじゃあまた捨てられちゃうよ。何か対策しなきゃ」
「ふっふーん、大丈夫。対策はもう取ってあるよ!」
マオの言葉に、ミーシャは不思議そうな顔をして頭を傾げる。
すると、突然『ファンファンッ』といったけたたましい音が耳に入ってきた。
「あ、早速誰かがやったみたい」
マオは振り返る。ミーシャも視線を合わせてみると、何かが飛んできていた。
それは真っ赤に輝く警告ランプを頭につけており、マオとミーシャの勢いよく横を通り過ぎていった。
「何あれ?」
「あれはゴミ捨て禁止人形〈ダメダメちゃん〉だよ。誰かがゴミを捨てたら、あんな風に音を出して飛んでいくんだ」
「へぇー。確かにあれなら、冒険者は嫌がりそう。下手するとモンスターも集まってくるし」
冒険者にとってモンスターに囲まれることは、死に等しい。
その心理をついた対策であった。
「ひとまず、これで対策も万全! ゴミ問題は解決だよ!」
えっへん、と胸を張るマオ。それにミーシャは「おー」と声を上げ、ゴブリン達と一緒にパチパチと手を叩いていた。
「よくやった、マオ」
そんなマオにアイザックは声をかける。振り返るとアイザックはルルクの頭の上に乗っていた。
「見事問題を解決したな。お前には〈ヒヨッコ錬金術師〉の称号を与えよう」
「あ、ありがとうございます!」
「ヒヨッコって、まだ駆け出しってことですよね?」
「駆け出しただけでもいいぞ! マオは錬金術師のタマゴだったからな!」
つまり駆け出してもいなかった。
その言葉に、ルルクは苦笑いを浮かべた。
「おぉ、ダンジョンが!」
賑やかに談笑をしていると、アイアン・カドックがやってきた。
マオはみんなと一緒に振り返り、「ピカピカになったよ」と声をかける。
するとアイアン・カドックは大きな声を上げて泣き出した。
「ありがとう、ありがとう! 正直、ここまでキレイになるとは思ってなかった!」
「いやー、そんなに褒められてもぉ」
「マオ、たぶんそこまで褒められてないよ」
デレデレとするマオに、ルルクがツッコミを入れる。
そんな姿を見たアイアン・カドックは、本当に嬉しそうな顔をしていた。
「ありがとう、錬金術師! これはお礼だ。よかったら受け取ってくれ」
アイアン・カドックはあるものを手渡す。その手の中には、一つの薬草があった。
「こいつは薬草の中でも特上のものだ。品質は保証する」
「でも――」
「何、俺達じゃあ扱えない代物だ。持っていても意味がないさ」
マオは思わずアイザックに目を向ける。するとアイザックは静かに頷き、受け取るように促した。
「ありがとうございます。大切に、使わせてもらいます!」
こうしてマオは、ダンジョンのゴミ問題を解決して〈最高品質の特上薬草〉を手に入れたのだった。
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これにて第1章は終了です。
第2章も頑張って参ります!
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