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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第1章 鉱石魔人〈アイアン・カドック〉の願い
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第8話 錬金術師になった理由

 一騒動を終え、マオ達は再びお掃除を始めた。しかし、どんなに頑張っても減る様子を見せない。


「まだいっぱいある」

「サボっちゃダメだよ、ミーシャ」

「もぉーヤダァー!」


 ミーシャは再び音を上げた。大きく両手を振り上げて、ゴミ袋を放り捨てる。

 そのままもう一度ゴミ袋の山にゴロンと寝そべってしまう。

 すっかりやる気をなくしたミーシャを見て、ルルクはため息を吐いた。

 確かにこの量は尋常じゃない。ミーシャでなくてもこの量は大変である。


「ねぇ、ルルク。マオちゃんは?」

「あれ? そこら辺にいない?」

「いないから聞いているのよ」


 ルルクは何気なく周辺を見渡す。

 だが、どんなに探してもマオの姿は見当たらなかった。


「ホントだ。どこに行ったんだろう?」


 ルルクは心配になってマオを探し始める。

 しかしどんなに歩き回っても、マオの姿は見当たらなかった。

 思わず頭を傾げてしまう。ふと何気なく木陰ができている場所に目を向けた。

 するとそこに、屈んで何かをしているマオの姿があった。


「マオ」


 ルルクはマオに声をかけてみる。だがマオは、何かに夢中になっているのか気づく様子はない。

 仕方なくルルクはマオに近づいてみる。そのまま何気なく作業を覗いてみた。

 するとそこには、一つのキノコがあった。見た限り、とても毒々しい色合いだ。


「よぉーし、あとはこれを先生に――」

「ねぇ、何をしているの?」

「きゃあー!」


 声をかけるとルルクは悲鳴を上げられた。

 思わず顔をしかめさせていると、ルルクに気づいたマオが「なんだ、ルルク君かぁー」と言葉を溢していた。


「どうしたの?」

「心配して探してたの。姿が見えなくなってたし」

「あ、ごめん」

「ところでそれは?」


 ルルクはマオが慎重に取り扱っているキノコについて訊ねた。

 するとマオは、ちょっとだけ自慢げに微笑んで語り始める。


「これはミニマムキノコっていうの。いわゆる毒キノコの一種なんだけど、特に胞子が危ないんだ。浴びると容赦なく身体が小さくなっちゃうの!」

「なんでそんなものを……」

「これを使って、みんなを助けようと思ってね。いいアイテムだし、扱い方さえ気をつければ万能素材だよ!」


 毒キノコを使って何を作る気なのだろうか。

 ルルクはちょっと不安になりつつも、笑って自分の気持ちを誤魔化すことにした。


「それにしても、錬金術ってなんでも使うんだね。もしかして見たこともないアイテムも作れるの?」

「うーん、たぶん。でも長い期間研究しないといけないかも」

「ふーん。ところでマオは、なんで錬金術師になったの?」


 それは、何気ない質問だった。だがその言葉を聞いたマオは、途端に暗い顔をした。


「先生を助けるため、かな」


 マオはそれ以上語らない。ただ使命感に似た何かを、ルルクは感じ取った。


「そっか」


 そんな顔を見たためか、ルルクはどう声をかければいいかわからなくなる。

 だが、放っておくことはできない。だからルルクは、柄にもない言葉を言い放った。


「手伝えることがあったら手伝うよ。そのキノコ、運ぼうか?」

「ううん。間違って胞子を浴びたらルルク君が小さくなっちゃうよ」


 マオはミニマムキノコをゴミ袋に入れて運ぶ。その後ろ姿はちょっと寂しい。

 とても小さな背中を見て、ルルクはついつい駆け寄っていった。


「ねぇ、マオ。聞かせてほしいことがあるんだけど、いいかな?」

「いいけど?」

「先生はどうして、スライムになったんだい?」


 マオは足を止めた。ルルクはそれを見て、核心をついたことに気づく。


「僕達が聞いたことには間違いはないと思っている。でも、情報が足りないと思うんだ。もしよかったら、聞かせてほしい」

「でも――」

「力になりたいんだ。ダメかな?」


 マオは一度躊躇った。そんなマオの顔を見つめて、ルルクは言葉を待つ。

 するとマオは、渋々といった顔をして口を開いた。


「王様がスライムに変えられた日に、ピエロの魔人が出たことを知ってる?」

「うん。それがどうしたの?」

「私、その魔人に捕まって操られていたの」

「へ?」


 マオはルルクを信じて、かつてあったことを話し始めた。


「私、精霊が見えるの。だからかな、気がつけば私の周りには精霊がいたの。

 私はみんなにお願いをして、いろんなことを手伝ってもらっていた。でも、どこでどんな暮らしをしていたのか、全く覚えてないんだ。

 気がつけば私はスライムになった先生を抱きしめてて、お城の中もすごいことになってた。

 みんなが私を見る目は怖かったし、それに誰かが『殺せ』って叫んでた。

 でも、そんな私を助けてくれたのが、先生だったの。先生がいなかったらたぶん、私はここにいないかもね」


 足りなかったピースがハマる。

 マオはアイザック達を傷つけた加害者であり、ピエロの魔人に操られていた被害者でもあった。

 本来ならば、王様に危害を加えた時点で極刑になっていてもおかしくない。だが、それをアイザックが助けたのだ。


「忘れられないんだ。先生が言ってくれた言葉を」

「どんな言葉だったの?」


 マオは懐かしむように目を細める。そして、ちょっと恥ずかしげな顔をして笑った。


「『一人前の、いや超一流の錬金術師にする。だからこの子に手を出すな』って」


 ルルクはアイザックがどれだけマオに想いを懸けたのか知る。

 同時に、どうしてマオにそこまで想いを乗せてしまったのかわからなかった。

 しかし、ルルクは敢えて訊ねなかった。ただ笑って、マオの肩を叩いた。


「なら、一緒に頑張ろう。僕も君と同じ、駆け出しだ」


 ルルクの言葉に、マオは「うん」と返事した。

 一緒に駆けていくマオとルルク。それぞれがそれぞれの目的のために、大きな課題に挑んでいく。



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