第7話 心のない冒険者
広大に広がるダンジョン。マオ達はその中にあるゴミを片っ端から拾い集めていた。
しかし、どんなに拾い集めてもゴミは減らない。それどころか増えているような気がした。
「ハァ……」
ついついため息が出てしまう。錬金術で作り出したゴミ袋だが、すぐにいっぱいになってしまった。
とても重たい上に、とんでもなくかさばる。その上どんどんとゴミ袋はいっぱいになってしまうため、片付いている気がしなかった。
「もうヤダぁー」
マオが音を上げかけた瞬間、先にミーシャが叫んでゴミ袋を放り投げた。
そのまま山となっているゴミ袋の上に大の字になって寝そべり始める。
「ミーシャ、サボらないでよ」
「疲れた。もう疲れた! ねぇ、ルルク。私の代わりに頑張ってよ」
「ミーシャが言い出したんだろ? ならミーシャが人一倍に頑張らなきゃダメだよ」
ルルクの言葉に、ミーシャはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。
しかしルルクの正論に言い返すことができないのか、ぷくぅーっと剥れさせてしまう。
「でもまあ、結構ゴミがあるね。せめてもうちょっと、ゴミが運びやすくなればいいんだけど」
「そうそう。結構かさばるし、そのせいでゴミ袋はいっぱい出るし。捨てるにしても、これだけあると持ち運びが大変だし」
マオはルルクとミーシャの言葉を聞き、確かにと思った。
量も量だが、大きさも大きさだ。
果てしない数と重たいゴミ袋を持ち運ぶのはさすがにキツいし辛い。
「うーん」
錬金術で解決しろ、とアイザックに言われた。
さすがに錬金術で解決できないのでは、と感じてはいた。
しかし、この問題に対してならどうにかなりそうと思い始める。
一体何を使えばこの問題は解決できるのか。知識を総動員して考えふける。
「あ、コラァー!」
マオが何か閃きかけた瞬間だった。
突然ミーシャが叫び、起き上がって走っていったのだ。
「待て、ミーシャ!」
慌てたようにルルクが追いかけていく。マオも倣ってルルクの後ろを走っていった。
するとそこには、一組のカップルと思わしき冒険者がいた。
「な、なんだヨォ?」
「ちょっとアンタ達、今ゴミを捨てたでしょ!」
「ハァ? 捨てちゃダメなワケ?」
「今キレイにしているの! ダメに決まっているでしょ!」
いがみ合い始めるミーシャと女性冒険者。
それを一緒に見ていたルルクは、猛烈に頭を痛そうにしていた。
「オイオイ、いきなり何なんだヨォ? そんなにお掃除が好きなのカァ?」
「ここにいるモンスターが困っているのっ。だからよ!」
「モンスターが困ってる? 笑えるぅー!」
「そんなの困らせておけばいいんだヨォ! だいたい、俺達には関係ないゼェ!」
茶化すように合いの手を入れる男性冒険者と、心のない言葉を吐き出して笑っている女性冒険者達。
さすがに遠目から見ていたマオも、ちょっとだけムッとし始めた。
思わず出ていこうとしたその瞬間、ルルクが制止する。
「僕が行くよ」
そう言ってルルクがミーシャの元へ向かう。
マオは少しハラハラとしながら見つめていると、ガーッと言葉を吐き出しているミーシャを落ち着かせるようにルルクは入っていった。
「ミーシャ、怒っても仕方ないよ」
「ルルク!」
「その人達は環境のことなんて全く考えていないんだ。だから言っても無駄さ」
「なんだと、あんちゃん。ケンカでも売っているのかヨォ!」
「いい度胸じゃない! ケンカならいくらでも買って上げるわよ!」
火を消すどころか、火に油を注いでヒートアップさせている。
マオはルルクに任せたことを大いに後悔した。
このままじゃあヤバイ、と感じた瞬間にルルクは笑った。
「ええ、ケンカを売ってますよ。でも、このケンカを買ってもいいんですか?」
「あァ?」
ルルクはちらりと男女の後ろに目をやる。その瞬間、マオが「あっ」と声を上げた。
するとタイミングを図ったかのように大きな影が差し込んできた。
男女の冒険者が振り返ると、そこにはアイアン・カドックが立っている。
「な、な、なっ……」
「もしかして、こいつはボス?」
「聞いてましたよね? この人達、自分のことを棚に上げてましたよ?」
「ああ、聞いてた。ダンジョンを所構わず汚すってところまでなぁ。いいだろう、ケンカを売ってやる。オレ様のケンカを買ったことを後悔しろ!」
アイアン・カドックは猛烈な勢いで迫っていく。
途端に冒険者達は「ひぃぃぃっ」「助けてぇぇ」と叫んで逃げていった。
「ありがとうございます、アイアン・カドックさん」
「いいってことよ。それに追い払えたのはアンタのおかげだ」
知らぬ間にルルクとアイアン・カドックの間には奇妙な友情が生まれていた。
ルルクとアイアン・カドックは自分達の勝利を祝うように、お互いの右手でハイタッチをしていた。
「ちょっと! やるなら言ってよ!」
しかし、何も聞かされていなかったミーシャは文句を言い放つ。
先ほどの脅しに腰を抜かしたのか、立ち上がれない様子だった。
「言ったら効果がないだろ? それにケンカを売ったミーシャが悪い」
「私、悪くないもん! 悪いのはアイツらだもん!」
「あのねぇ……」
「まあまあ、お嬢ちゃんはお嬢ちゃんなりに考えて動いてくれたんだ。責めるのはお門違いってもんよ」
「そうよそうよ! アイアン・カドックさんは話がわかってるっ。もぉーだーいすき!」
ルルクが困ったように笑う。
アイアン・カドックは楽しげに笑っていた。
ミーシャが調子よく笑って、マオもついつい笑みを溢した。
『いいかマオ、錬金術師はみんなのためにあるんだ』
ふと、懐かしい声が響いた。
思わず振り返るが、そこには誰もいない。
「どうしたの?」
ミーシャがマオの異変に気づいたのか、声をかけた。
しかしマオは、「なんでもない」と言ってみんなの輪の中に入っていくのだった。