第6話 思いもしないお願い
ダンジョン〈悪魔の宝物庫〉の番人とも呼ばれるボス、鉱石魔人〈アイアン・カドック〉と呼ばれる巨大なモンスターが、正座をしてマオ達にお願いをしていた。
思いもしない展開に、マオはルルクとミーシャに顔を見合わせて目をパチパチとする。
配下であるゴブリン達も、思いもしないことに言葉を失っている様子だった。
「え、えっと……」
「頼む。いや頼みます! もう、ここにゴミを捨てないでください。できれば持ち帰ってください!」
マオは返答に困った。
そんなマオを見たアイザックが、代わりに質問をした。
「訳を聞かせてもらえるか?」
アイアン・カドックは顔を上げる。目に入ってきたスライムを見て、少しだけ驚いたように目を大きくした。
だが、すぐに落ち着きを取り戻したのか、アイザックの言葉に答え始めた。
「実はここ最近、冒険者がいつもよりも多く訪れるようになったんだ。だが、それと一緒に捨てられるゴミが増えた。おかげで俺達がいくら片付けてもゴミが減らない。いつしか美しかったダンジョンは、ゴミだらけになってしまったんだ」
「なるほどな。それで困り果てているということか」
「その通りだ。俺達の手じゃもうどうにもならない。だから訪れる奴らに、こうしてお願いするしかない」
妙な事案だが、とても深刻であることが伝わってきた。
アイザックがちょっと困ったように唸る。どうするべきか考えているのだろう、と感じていると、突然ミーシャがマオの両手を握った。
驚いて振り向くと、そこには涙で顔がグチャグチャになっているミーシャの姿があった。
「どうしかしてよぉー」
「ふえ?」
「こんなにかわいそうなモンスター、見たことないの。ねぇ、錬金術師でしょ? どうにかしてよぉー!」
「え、えぇ?」
マオはとんでもなく困った。
確かに錬金術師ではあるが、半人前である。
そもそも錬金術でゴミだらけ問題を解決できるのか、という疑問もある。
思わずアイザックへ助けを求めるように顔を向ける。するとアイザックは思いもしない言葉を言い放った。
「そうだな。マオ、お前の力でこの問題を解決してみろ」
「えぇ!?」
「これは課題だ。いわゆるお前に対する試験だ。ステップアップするためにも、どうすればいいか考えてやってみろ」
「で、でも先生――」
「何、心配するな。錬成には力を貸してやる」
そういう問題じゃない。
思わず叫びそうになった瞬間、ミーシャが「ありがとー!」と叫んでマオに抱きついた。
「一緒に頑張ろうね! ね、マオちゃん!」
こうなると断ろうにも断れない。
何気なくルルクに目を向けると、どこか呆れたようにため息を吐き出していた。
やれやれ、と頭を振っている。しかし文句を言う訳ではなく、代わりに諦めたかのような顔をして「頑張ろうか」とミーシャに声をかけていた。
「う、うん……」
マオは仕方なく折れる。するとミーシャは途端に元気となり、マオの右手を握ったまま大きく天へと突き出した。
「よぉーし、みんなでダンジョンを綺麗にするよ!」
元気いっぱいに、ミーシャは高らかに宣言する。
マオとルルクは苦笑いをしながら。
アイザックはマオのさらなる成長を見守りながら。
アイアン・カドックはマオ達に感激しながら。
ゴミだらけとなっているダンジョンのお掃除大作戦を決行するのだった。