第5話 大活躍!? 錬金術師マオ
大好物のビーフジャーキーを与えられ、ノームは元気いっぱいになっていた。
怯むゴブリン達に追い打ちをかけるべく、ちょっとグッタリとしているアイザックはミーシャ達に指示を飛ばした。
「今だ! 一気に畳みかけろ!」
よくわかっていないミーシャとルルクだが、すぐに優勢であることに気づく。
顔を見合わせた後、ミーシャはすぐにゴブリンへと飛びかかった。
「ギギィ!」
均等を保っていた戦況が一気に傾く。
途端にリーダーゴブリンは顔色を悪くし、手下達に「フンバレッ」と叫んでいた。
「ココデマケルワケニハ、イカナインダッ」
ざらついた声で何かを叫ぶ。
しかし、マオがさらに戦況を崩す行動を取った。
「ミーシャちゃん、ちょっと離れて!」
アイザックの能力で生み出したアイテムその二を使う。
ブタのデザインを施された爆弾、別名〈ボムっとん〉をゴブリン達へ投げ入れる。
思いもしないことにゴブリン達は一瞬だけ固まってしまった。
〈ブヒヒヒィーッッッ〉
奇妙な爆発音と共に、〈ボムっとん〉は炸裂した。
攻撃を受けたゴブリン達は大きなダメージを受けたのか、ふらついている。
「ルルク!」
「わかってるよ!」
ミーシャの声に答えるために、ルルクが攻撃を仕掛けようとする。
しかし、まだ準備ができていないのか発動する様子を見せない。
このままではゴブリン達が復活してしまう。
そんな焦りをミーシャが覚えた時、マオは最後のアイテムを手に取った。
「頑張れぇー!」
シャラララ、と音が響く。
パン、パン、パン、といったチープな打音も空間に走った。
フラフラとしながらも、どこか楽しげな踊りをするマオ。
ミーシャはそんなマオの姿を見て、なぜだかテンションが下がった。
「何をしてるの?」
「ア、アイテムを使ったら身体が勝手に……」
「ふざけないでよっ。今生きるか死ぬかの状態なのよ!」
「ふざけてないよぉー! 身体が勝手に動くんだよぉー!」
ミーシャはとても残念そうな顔をして、哀れんだ視線を送った。
マオはそんな痛い視線を浴びつつも、泣きながら手にしたタンバリンを叩く。
「ねぇ、その踊りだけでもやめられない?」
「できたらとっくにやめてる!」
「ごめん、一回ぶってもいい?」
「やだぁぁぁぁぁ!」
奇妙な踊りをするマオと会話すること十数秒。
ルルクが唐突に「うぉおぉぉぉぉぉ!」と叫んだ。
ミーシャはその声に驚いて振り返ると、そこには妙なオーラをまとっているルルクの姿があった。
「成功だ! ミーシャ、そこから離れろ!」
アイザックが逃げるように指示をする。
一体何が起きたかわからないミーシャは、言われた通りに離れることにした。
だが、マオの踊りは止まらない。どんどんと苛烈なものとなっていき、それに合わせてルルクのオーラが高まっていく。
「何が起きているの?」
「あれは〈ファイティング・タンバリン〉というアイテムだ。一度持ったら最後、対象者が攻撃しない限り踊り続ける恐ろしいアイテムでもある」
「え? 何それ怖い」
「闘魂スズランがあれば作れる代物だ。まあ、ある意味伝説となっているアイテムだな。ちなみに、あまりにもダサい踊りをすることから〈チープ・ダンシング〉とあの踊りは名付けられている」
「思いっきりバカにされてるじゃん!」
アイザックはミーシャの言葉を受け、誤魔化すように咳払いをした。
「いくぞ、ゴブリン!」
だが、ルルクにはその声は届いてない。
一気に勝負を決めるために、魔術書のあるページを開いた。
そこに記されている文字を読み解き、ルルクは叫ぶ。
『殲滅しろ!』
光の玉がゴブリン達の周りに生まれ、漂い始める。
段々とそれは電撃をまとっていき、いつしかゴブリン達が逃げられないように輪となっていた。
「いっけぇぇ!」
マオは踊りながら叫ぶ。
途端に光の玉は弾け飛び、ゴブリン達を飲み込んだ。
それはあまりの威力だ。そのため離れていたマオ達も飲み込まれそうになった。
しかし、ノームがそれをさせない。
マオを連れ、アイザックの元にまとめた後に、全員を覆うように土の壁を作る。
そのまま光を遮り、巻き添えを防ぐとノームは『ウォオォォォン!』と雄叫びを上げた。
「さすが〈ファイティング・タンバリン〉だ。威力がヤバい」
「ねぇ、もうツッコミ入れるの疲れたんだけど……」
「うぅ、疲れた。もうこのアイテム使わない……」
「うあ、すっごい疲れた。なんだったんだ、今の……」
それぞれが疲れた顔を見せる中、土の壁が崩れる。
そこから顔を除き出すと、思いもしない光景が目に入った。
「ボ、ボス!」
ゴブリン達は全員立っていた。
そしてそのゴブリン達を守るように、一体の巨大なモンスターが立っている。
金、銀、銅、さらにプラチナや宝石をたくさん身にまとっているそれは、ギロリとマオ達を睨んだ。
「え? 何あれ?」
「ヤバッ! あいつここのボスじゃん!」
「マズい、今の僕達じゃあ倒せないよ!」
慌てるミーシャとルルク。マオは何気なくノームに目を向けてみる。すると怖いのか、「くーん」と情けない声を上げて尻尾を巻いていた。
「に、逃げるよ! このままじゃあ全滅――」
ミーシャが声を震わせて何かを言い放とうとした瞬間だった。
マオ達を守っていた土壁が破壊される。
大きな音と共に現れるダンジョンのボス。それはあまりにも大きく、マオの身体なんて簡単に捻り潰されそうだった。
「ウォオォオオオォォォォォ!!!」
ダンジョンのボスはマオ達に叫んだ。
思わず身構えるマオ達。だがダンジョンのボスは構うことなく、顔を地面に伏せる。
そのまま手を付き、地面にめり込むようにしてダンジョンのボスは叫んだ。
「お願いです、もうゴミを捨てないでください!」
目を点とするマオ達。
よく見るとダンジョンのボスは正座をし、お願いするように頭を下げていた。
一体この状況は何だろうか。奇妙な疑問を抱きながら、頭を下げたダンジョンのボスを見つめていた。