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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
エクストラ 対決! 呪いの元凶ピエロ魔人
37/45

第37話 私は変わっていないから

 真っ白な糸に包まれた城下町。

 その糸に絡め取られた馬車の中で、マオ達は突入する準備をしていた。


「私が合図したら、みんな一斉に走って」

「ミーシャ、本当に大丈夫なのかい?」

「魔術書がなくて何もできないアンタよりはマシよ。それに、相手の狙いは私じゃない」


 ミーシャの言葉を受け、マオの顔が引き締まった。

 そんな顔を見て、アイザックが肩を叩く。


「いざとなったら、俺を頼れ」

「でも――」

「俺はお前の先生だ。何、モンスターの一匹ぐらいどうにかできるさ」


 力強い笑顔。それを見た瞬間、マオの中で一つの光景が重なった。

 それは記憶の中にあるはずがないもの。だが、なぜだかわからないが懐かしさを覚えた。


『どんなことがあっても、お前を守ってみせるさ』

「そんなことをしたら、先生が死んじゃいますよ」

『ハハハ、大丈夫さ。こう見えてもマオよりは強いからな』


 ざらついた声が頭の中で響く。

 モノクロな光景で、アイザックが重なる。

 次第にそれは痛みを生み出し、マオは頭を抑えてしまった。

 あまりの痛さに身体から力が抜ける。

 途端にバランスを失うと、その身体をアイザックが支えてくれた。


「マオ!」

「マオちゃん!」


 遅れてルルクとミーシャが声を上げた。

 だが二人よりも先に、ダリアンが駆け寄る。

 苦しそうにしている表情を眺めつつ、額に手を当てた。


「熱がすごいわ。ねぇ、誰か薬草を持ってない?」

「霊薬を使おう。フェニクルならすぐに緩和してくれるはずだ」


 アイザックとダリアンが、倒れたマオのために的確な処置を施していく。

 だがそれでも、マオの顔色が優れない。


「先生、マオちゃんは……」

「しばらく休めば大丈夫さ。だが、敵がそれを待ってくれないだろう」


 その言葉を聞いたミーシャは、ルルクに顔を向ける。

 ルルクもまた、一つの決意をしたかのようにミーシャの顔を見つめ返した。


「わかっているよね、ルルク」

「わかっているさ。できれば僕達で敵をやっつける」

「もし無理なら、マオちゃんを守り通す」

「マオだけでも逃がす」

「マオちゃんは嫌かもしれないけど、それでも私達が盾になる」


「ああ。僕達がマオを守るんだ!」


 決意は、覚悟へと変わる。

 ルルクとミーシャは互いの意志を確認した後、白い糸に包まれた城を見た。

 敵はどこかにいる。もしかしたらすぐ近くにいるかもしれない。

 そして、マオの命を狙っている。

 殺すことに躊躇いなんて持つ存在ではない。

 とても恐ろしい相手だ。

 それでも、ルルク達は自分達のやり方でマオを守ると決めた。


「ダリアン、アイザック先生。マオを頼みます」

「私達が、道をこじ開ける。だから、突き進んで」


 二人の目は、力強く輝いていた。

 その目を見たアイザックは、何か言葉を口にすることなく黙って頷いた。

 ダリアンもまた、二人の覚悟を受け取る。

 そして、マオを守るために行動を開始しようとした。

 だが、その瞬間に不気味な視線がダリアンに突き刺さった。


『お、オ嬢サマ――』


 ノイズが混じった声が頭に突き刺さる。

 思わず振り返ると、そこには見たこともないモンスターがダリアン達を見つめていた。


『お嬢サまァぁぁァァ――』


 声が弾け飛ぶ。

 遅れて馬車の窓ガラスが粉々に飛び散った。

 アイザックがマオを守ろうと覆い被さる。

 ルルクとミーシャはダリアンを守ろうと動こうとした。

 しかし、蜘蛛の姿をしたモンスターがそれよりも早く糸を放った。


「きゃあっ」


 ダリアンの身体に絡みつく粘着性の糸。そのまま引き寄せられてしまうと、蜘蛛は『アぁ、あァ、アァッ』と言葉を溢していた。


『オ嬢さマッ、お嬢サまっ、オ嬢サマッ!』

「この、離せ!」

『アァッ、アイたかッタ! あいタかッた!』


 モンスターは歓喜しながらダリアンに顔を近づけていく。

 ゆっくりと、その喉元へ口を持っていき、大きく開いた。

 刃みたいな鋭い牙がいくつも並んでいる。

 もし噛みつかれてしまったら、ダリアンではひとたまりもない。


『お嬢様ぁぁぁぁぁッッッ』


 モンスターはお構いなしにダリアンへ噛み付こうとした。

 だが、その瞬間にアメジストの輝きが飛び散った。

 美しい光を浴びた瞬間、モンスターの動きが遅くなる。

 そして、首筋が噛まれる寸前にミーシャが飛び込んだ。


「ダリアンを離せ!」


 持っていた一対の木刀。

 それを同時に振り下ろし、モンスターの頭をぶっ叩いた。

 途端に口は閉じ、モンスターの身体がぐらつく。

 さらに追撃をかけてモンスターの頭を蹴り、そのまま馬車の屋根へと着地した。

 しかし、モンスターが怯んだ瞬間にダリアンを絡め取っていた糸が緩んでしまった。


「きゃあぁぁぁぁぁっ」

「ダリアン!」


 落下するダリアン。

 ミーシャが咄嗟にその手を掴んだ。

 だが、ミーシャの力では踏ん張りきれない。

 そのままダリアンと一緒に落ちてしまった。


「ミーシャ、ダリアン!」


 ルルクが思わず叫ぶ。

 するとモンスターはルルクを睨みつけた。

 鋭い牙を剥き出しにしながら、モンスターは雄叫びを上げる。

 もう聞き取ることができない言葉だ。

 逃げ出してもおかしくない状況でもあった。

 しかし、ルルクは強く睨み返す。


『る、ルク、ルル、く――』


 マオを守るために盾となる。

 その決意は揺るがない。

 しかしそれでも、怖い。

 足が震えて、前に出ることを躊躇っている。

 それでも、ルルクは大きな声で叫んだ。


「お前の相手は、僕だ!」


 モンスターはケンカを買うように飛びかかった。

 直後に馬車は揺れる。

 ルルクが一生懸命に踏ん張りを効かせてバランスを取る。

 それを嘲笑うかのように、モンスターは噛みついてきた。


「うわぁっ」


 腕がガッチリと噛みつかれる。

 血が噴き出し、ルルクの顔が歪む。

 このままじゃあ噛み千切られてしまう。

 嫌な光景が脳裏に浮かんだ瞬間、再びアメジストの光がモンスターに降りかかった。


『ぐ、オォッ』


 ルルクの腕を噛み千切ろうとした瞬間、何かがモンスターのこめかみにぶつかった。

 思いもしないことに、モンスターは顎の力が緩んでしまう。

 その瞬間、ルルクは腕を引っこ抜いた。

 ジクジクと痛みが走る。

 それでも、ルルクは無事な左手を拳にして力いっぱいに突き出した。


『オォおおォォォォォ!!!』


 たいした攻撃ではない。

 だがそれでも、モンスターは怯んだ。

 拳にした左手に嫌な痛みが広がる。

 しかし、ここで攻撃の手を止めてはいけない。


「うわぁあぁあぁぁぁぁぁっっ!」


 決死の覚悟で左手を振り上げる。

 遅れて、モンスターが突撃しようと身構えた。

 それが決定打となる。


『オォオオオォォオオォォォォォッッッ――』


 骨が砕けるような音が響いた。

 それでも、カウンター気味に入った一撃が絶大だった。

 モンスターはあまりにも痛かったのか、そのままよろよろと後ろに下がっていく。

 そして、そのまま外へと落ちていった。

 ルルクは痛みを堪えながら、落ちていったモンスターを追いかけるように外を見た。

 するとモンスターは糸を放ち、城へと向かうようにして飛び去っていった。


「やった……」


 どうにかモンスターを撃退できた。

 そう思った瞬間、ルルクは崩れ落ちた。

 アイザックが急いで駆け寄り、ルルクの名前を何度も呼びかける。

 しかし、ルルクは呼びかけに反応しなかった。


「くそ、ケガがひどい。このままでは――」


 アイザックは霊薬〈フェニクル〉へ手を伸ばす。

 しかし、ルルクに治療を施そうとした瞬間にその手を抑えられてしまった。

 腕を掴んできた手の先を見る。

 するとそこには、目を覚ましたマオの姿があった。


「マオ――」

「私が、なんとか、します」


 気怠さが、マオに押しかかってくる。

 それでもマオはルルクへ寄り、その身体に手を添えた。


「クロノス、いくよ」

【マオ様……。ですが】

「今やらなきゃ、ルルク君が死んじゃう。だから、お願い」

【……わかりました。最速で行いますよ】


 マオの手から美しい輝きが放たれる。

 それは黄金に輝いており、ルルクの身体を包み込んでいく。

 アイザックはその姿を見て、思わずマオに声をかけた。


「マオ、お前もしかして――」


 ルルクの傷がみるみると消えていく。

 マオはそれを見つめながら、微笑みを浮かべた。


「大丈夫、先生。私は変わっていないから」


 その言葉を聞いた瞬間、アイザックは気がついた。

 失われていた記憶が、蘇ったのだと。



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