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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第4章 盗まれたみんなの宝物
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第31話 偽者リボンテイルを捕まえろ!

 すっかりと荒らされてしまったアトリエ。

 留守番をしていた精霊達は侵入した何者かにやられており、全員が力なく倒れていた。


「あっ!」


 マオは精霊達の介抱をしていると、あることに気づいた。

 それはアイザックを元に戻した霊薬〈フェニクル〉の入ったビンが、壊されていたのだ。

 中に入っていた薬液は当然のように残っていない。例え残っていたとしても、使い物にならないだろう。


「そんな……、あんなに苦労したのに」


 怒りよりも、絶望が支配していた。

 一体誰がこんなことを、とマオは考えてしまう。


「許せない」


 わなわなと、ミーシャが震えていた。

 怪盗リボンテイルの名を語り、マオを傷つけた。

 それだけで、ミーシャを突き動かすには十分だった。


「落ち着け。手がかりも何もないんだ。下手に動くと――」

「手がかりはないわ。でも、接触はできる」


 ミーシャはアイザックからカードを奪い取った。

 そこに書かれていた内容。それによれば、深夜三時に相手は接触を図ろうとしている。

 要求はマオが持つ霊薬〈フェニクル〉のレシピ。一人で来いと指示していることもあり、文章からマオが行かなければならないだろう。


「仲間の命はないと書いている。もしかすると――」

「ルルクかもね。だとしても、このまま手をこまねくつもりはないから」


 ミーシャは扉に手をかける。

 そのまま出ていこうとしたところで、マオが「待って」と声をかけた。

 足を止め、振り返るミーシャ。マオはちょっと不安げな顔をして、言葉を口にした。


「ミーシャちゃん。大丈夫だよね?」


 どんな意図で言い放ったのかわからなかった。

 マオもまた、どう言葉にすればいいかわからなかった。

 だが、大きな不安だけは伝わってくる。

 このまま時間を迎えてしまえば、どうなるのか。

 わからないからこそ、マオはミーシャにすがった。


「大丈夫だよ。それに、リボンテイルはマオちゃんの味方だから」


 ミーシャはそう言って部屋を出ていった。

 返された言葉。それが一体どんな意味があったのか、マオはわからなかった。



◆◇◆◇◆◇◆



 刻々と時間が過ぎていく。マオは一生懸命に精霊達の介抱をするが、誰一人として目をさますことはなかった。

 不安で不安で、頭がいっぱいになる。

 もしこんな状態で霊薬のレシピまで奪い取られてしまったら、立ち上がることができないかもしれない。

 そんな不安を抱えていると、アイザックが肩に手を置いてくれた。


「やれることはやろう」

「でも……」

「精霊達はそのうち目を覚ますさ。今は、どうやっていい方向になるか考えよう。それにミーシャが動いてくれているはずだ。最悪なことにはならないさ」


 よりいい方向へと進むために。

 マオはアイザックの励ましを受け、顔を上げる。

 今はレシピをどうやって守り通すか。捕まったルルクをどう救い出すか。

 その二点を考えるのみだ。


「時間まで、あと一時間。作れるとしてもアイテムは一つだけ」

「できれば模倣犯を攻撃するものにしたいが、下手に刺激するとルルクが危ないか」

「レシピは渡す訳にはいかないし、でも渡さないとルルク君を助けられないし」


 考えるマオ。

 そんなマオを見て、アイザックは一つのアイディアを閃く。


「なら、敢えて渡してしまうのはどうだ?」

「え? でもそんなことしたら――」

「何、考えがあるさ。マオ、磁石はあるか?」

「はい、ありますけど」

「よし、それを使うぞ」


 マオは不思議そうな顔をしながら磁石を取り出した。

 アイザックは受け取った磁石を見つめ、ニヤリを笑ったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



 時刻は深夜三時。旧校舎の屋上には、すっかりと闇が深くなった空が広がっていた。

 ホーホー、とフクロウの声が響く。そんな中、屋上を繋いでいる扉が開いた。


「不気味だなぁー」


 屋上へとマオは足を踏み入れる。

 輝く月が美しい光を放つ中、マオは周辺を見渡した。

 誰もいない。だが、広がる闇夜が独特の恐怖を押し付けてくる。

 恐る恐る、屋上の真ん中へ進んでいく。

 途端に雲が月にかかった。

 一気に闇が深くなり、一瞬だけ目が暗闇に包まれてしまう。


『動くな』


 気がつけば、誰かがマオの後ろに回り込んでいた。

 マオは恐る恐る目を向けると、そこには一人の少女が立っている。


『動くと喉を切り裂く』


 耳障りな声が頭に飛び込んできた。

 同時に雲が晴れ、月が再び光を反射した。

 その時、喉元でキラリと輝く何かがあることに気づく。

 よく見るとそれはナイフだ。とても鋭そうで、今にもマオの喉を掻っ切ってしまいそうだった。


『レシピは持ってきたか?』

「う、うん」

『どこにある?』

「扉のところに置いた」

『本当か?』


 ナイフを持っている手に力が入る。

 明らかにマオを脅している。

 だが、マオは慌てない。小さなか声で、だけどハッキリと「本当だよ」と言い放った。


『よし、わかった』


 少女はマオを捕らえたまま、ゆっくりと扉まで下がっていく。

 マオは息を飲み込みながら、少女が自分を離してくれるのを待った。

 少しずつ、少しずつ。

 気が遠くなるような時間をかけて、模倣犯は扉に手をかける。

 ゆっくりと扉を開き、置かれていたレシピを確認した。

 模倣犯はそれを見て、笑みを浮かべる。

 もうマオは用済み。そう考えて始末しようとした刹那だった。


『ぐおっ』


 何かが模倣犯の腰に向かって飛んできた。

 あまりの勢いで、模倣犯はマオと一緒に前へと飛ばされてしまう。

 言葉にできない痛みが襲いかかっていた。

 唐突なことに、模倣犯は状況が把握できない。

 そんな中、先に立ち上がっていたマオはあるものを手にする。

 それは〈アルミティアの杖〉だった。


「レシピは絶対に渡さないんだから!」


 杖と逆の手を模倣犯は見る。

 そこには手のひらサイズの磁石が存在した。

 それを見て、マオが仕掛けたトラップが何だったのか理解する。


『小賢しいことを!』


 ここに来る途中、アルミティアの杖を扉から少し離れた場所に設置していた。

 そして、模倣犯を上手く陽動する。後は磁石の力を使って引き寄せれば、作戦成功というものである。

 だが、普通の磁石では〈アルミティアの杖〉を引き寄せることはできない。

 そもそも、常に磁石の効力が機能していては意味がない。

 肝心なタイミングで効力が発揮できるようにしておかなければ、この作戦は失敗する。


「私が何者か忘れた? 私は錬金術師よ!」


 精霊達に頼りっぱなしではない。

 マオは、そう宣言するかのように叫んだ。


『うるさい! お前が、錬金術師だなんて認めるか!』


 立ち上がる模倣犯。

 よく見るとその身体は真っ黒な〈何か〉に包まれており、どんな顔で怒っているのか全くわからなかった。

 マオは睨みつける。そのまま模倣犯に飛びかかろうとした瞬間、パチパチと音が聞こえた。


『これはこれは、さすがでございます』


 マオは思わず振り返る。そこには模倣犯と同じ黒い〈何か〉に包まれた少年が立っている。


『お一人で十分だと思っておりましたが、まさか打破するとは。やはりあなたは恐ろしい特異点ですよ』


 少年はそう言うと、指をパチンと鳴らした。

 直後、少年の隣に一つ所十字架が現れた。

 マオが思わず目を鋭くさせる。それを見た少年は、もう一度指を鳴らした。

 光が集まり、だんだんと人の形となっていく。

 いつしか光は剥がれ落ち、中からルルクの姿が現れるのだった。


「ルルク君!」


 思わず大声で叫ぶマオ。しかしルルクは、気絶しているのか反応しない。


『さあ、錬金術師よ。このまま抵抗すればこいつの命はない。どうする?』


 マオは歯を食いしばった。

 仕方なく杖を捨てる。途端に少女が飛びかかり、マオを押し倒した。


『さっきはよくもやったわね!』


 少女は右手を大きく振り上げる。

 そこには月明かりを反射するナイフがあった。


『死ね、マオ・リーゼンフェルトォォ!』


 殺意が、形となってマオに襲いかかる。

 迫る刃に、マオは思わず目を瞑ってしまった。


「させるかぁぁ!」


 マオに襲いかかる最後の瞬間。

 だが、寸前に誰かの声が響いた。

 同時に甲高い金属音も響く。

 カラン、とナイフが転がっていくと、マオを押し倒した存在を誰かが蹴り飛ばした。


「大丈夫?」


 そこにいたのは、一人の少女だった。

 まるで真っ黒なシルクハットに、身体を包み込めるほど大きな黒いマント。

 白いシャツに、真っ赤なベスト、そして真っ白なショートパンツが見え隠れしていた。

 そのお尻から伸びる赤い尻尾。そこにはかわいらしい真っ赤なリボンが結ばれていた。


「あなたは?」


 目を隠すように覆われた仮面。顕になっている口元が優しく緩むと、少女は名乗る。


「私の名前はリボンテイル。力、権力、そして悪しき心に溺れた強者から弱き者達を守る大怪盗さ!」


 それは、思いもしない出会いだった。

 マオは思わず助けてくれた怪盗リボンテイルを見つめる。

 リボンテイルは敵を睨みつける。そして、マオにあるお願いをした。


「悪いけど、手伝ってくれる? 偽者とはいえ、ちょっと骨が折れそうだから」

「は、はい!」


 マオは慌てて立ち上がる。

 アルミティアの杖を持ち、模倣犯達を睨みつけた。


『ふーん』


 模倣犯の片割れである少年は、とてもつまらなさそうな顔をする。

 想定外だったのか、その顔からは笑顔が消えていた。



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