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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第3章 女子禁制! 魅惑の女装コンテスト
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第24話 君に訪れる大きな選択

 ぼんやりとした光景が浮かんでいた。

 一体それは何なのか、ルルクにはわからなかった。


『ヒーッヒッヒッヒッ! 残念でしたー』


 奇妙で耳障りな声が響く。

 目を向けるとそこには、ピエロの姿をした何かがいた。

 その何かに屈服するような形で倒れているマオの姿もある。


『マオ!』


 ルルクは思わず叫んだ。しかし、マオは反応を示さない。

 ただフラフラと立ち上がり、ピエロ姿の何かを睨みつけているだけだ。


『おやぁ? まだ抵抗するのですか?

 精霊を失い、錬金術も使えない。その上、頼りになる仲間達は全員スライムになったのに、まぁだ戦うつもりなのですかぁー?』


 ピエロ姿の何かは楽しげに歪んだ笑みを浮かべていた。

 しかし、マオは引かない。ただ強く、ただ静かに、ピエロ姿の何かを睨みつけていた。


『諦めが悪いですね』


 マオのその姿を見たピエロは、笑うのをやめた。

 ガチガチと歯をぶつけ合わせ、ゴキゴキと指を蠢かせる。

 だんだんとその顔から笑顔は消えていき、いつしか悪魔と思わせる険しい顔つきとなっていた。


『いいでしょう、そんなにまで死にたいなら殺して差し上げましょう。

 マオ・リーゼンフェルトよ、あなたは、最高で最悪なオモチャでしたよ!』


 ピエロの声が歪む。

 ピエロの身体が歪む。

 ピエロの瞳の色が歪む。

 ピエロの何もかもが歪む。


 気がつけば、そこにはピエロはいなかった。

 真っ黒な、いやどこか濁った黒い〈悪魔〉がそこにいた。


『死ねぇぇぇぇッッッ』


 悪魔はマオへ突撃していく。

 ルルクは思わずマオの元へと駆けた。

 だが、思うように身体が動かない。


『マオォォォォォ!!!』


 逃げろ、と叫んだ。

 逃げてくれと叫んだ。

 だが、マオは逃げなかった。

 なぜ、と思わず問いかける。

 問いかけて、気づいた。

 マオの後ろには、一人の男性が倒れていたのだ。



◆◇◆◇◆◇◆



「んっ――」


 ひんやりとした空気が、肌を刺した。

 差し込んできた光が、目を刺激する。


「夢……?」


 ルルクは思わず身体を起こした。そのまま立ち上がり、痛む頭を抑えた。

 妙に生々しく、とても嫌な夢。ハッキリと覚えているからなおさら質の悪いものだった。

 ルルクは一度ため息を吐き、立ち上がる。


「いずれ訪れる選択、か」


 クロス・クロノスが言っていた言葉を思い出す。

 もしその選択を間違った場合どうなるか。それがあの夢のような結末かもしれない。


「嫌な夢だったな」


 ルルクはそう呟き、フラフラと歩いた。

 何気なく扉に手をかけてみる。しかし、思った通りといえばいいだろうか。当然のように鍵がかかっていた。

 ルルクは小さくため息を吐く。仕方なくアトリエを見渡して、脱出できる場所はないかと探した。

 ふと、ルルクの目に鏡が入ってきた。

 そこには部屋全体を映し出されており、ルルクも当然映っていた。


「えっ?」


 だからこそ、ルルクは鏡に詰め寄った。


「えぇっ?」


 大きなリボンで彩られたカチューシャに、青を基調としたノースリーブの胴衣。

 フリルがあしらわれた女物の白いブラウスと、ない胸を強調させるようなブラウンのコルセット。

 赤いスカート部分を覆うような大きな白いエプロンが、女の子らしさをさらに引き出していた。


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!」


 ルルクは叫んだ。

 すると部屋の奥から、「クックックー」という不気味な笑い声が放たれた。

 振り返ると、そこには勝ち誇ったかのように笑っているミーシャと頬を赤らめているマオの姿があった。


「久々の登場だわ。不思議の国のルルクちゃーんっ」

「ミーシャ、お前ぇぇ!」

「おっと、動くんじゃない。動けば、いち早くアンタの姿が校内に知れ渡るわよ?」


 ミーシャの言っていることがいまいち理解できないルルク。

 そんなルルクを見て、ミーシャは一つの水晶を取り出した。


「それは……?」

「ガリウス先生から借りた校内放送用の水晶。私がチョチョイのチョーイってやれば、殺到しちゃうわよぉー」


 ルルクの顔から血の気が引いていく。

 とても悔しそうに、ただ悔しそうに、ひたすら悔しそうに、ルルクは呻くばかりである。


「ミーシャァァァァァ!」

「ふふふ、もうアンタには逃げ場はないのよ!」


 ミーシャの完全勝利である。

 ルルクはガックリと肩を落とし、膝をつく。

 こうなると下手な抵抗はできない。黙って従っていたほうがまだマシである。


「さーってと、会場に行くわよ!」


 シクシクと泣くルルク。そんなルルクを立ち上がらせるマオ。

 ミーシャは意気揚々に扉を開き、上機嫌で先頭を行く。


「ま、まあ、かわいいよルルク君」

「それ、励ましになってない……」

「あ、ごめん。でも、その、素敵だと思うから!」


 マオは必死にルルクを元気づける。

 だが、ルルクが顔を合わせようとした瞬間に視線が明後日の方向へと向いた。

 妙だな、とルルクは感じた。


「ねぇ、マオ。どうして目を逸らすの?」

「え? そ、そんなこと全然ナイヨォー」

「逸らしてるよ。どうしたんだ?」


 ルルクは思わず質問した。するとマオは、渋々という雰囲気を出して答え始める。


「その、えっと、ミーシャちゃんが着付けるために正確はな採寸を図りたいって言って。

 それで、えっと、その、ルルク君の服を脱がして。

 そしたら、その、下着も作りたいって言い出してね。

 それで、その、ええと、何というか、ルルク君を裸にして、いろいろと――」


「ミーシャアァアアアァァアアアアアァァァァァッッッ!!!」


 ルルクは怒った。

 これまでにないほど怒って叫んだ。

 するとミーシャは忽然と姿を消す。

 いや、叫び声を聞いた瞬間に一目散に逃げたのだ。


 ルルクは走る。もはや姿がどうこうという問題ではない。

 自身の尊厳を取り戻すためにも、悪魔のような女に鉄槌を食らわせなければならない。

 ルルクはただそのためだけに、駆けた。




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