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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第3章 女子禁制! 魅惑の女装コンテスト
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第22話 轟け! ダリアンちゃんの野望

 赤焼けた空が、窓から覗き込んでくる。

 燃え上がるように染まった雲を眺めながら、ルルクは歩いていた。

 必修となっている講義を終え、ルルクはマオがいるアトリエへと向かっていた。

 思いもしなかったトラブルがあったとはいえ、マオに大きな負担をかけてしまった。アイザックにそのうち目を覚ます、と言われたが心配で堪らない。

 ミーシャに関しては講義が終わると同時に、部屋を飛び出してしまう始末だ。


「大丈夫かな?」


 一日経っても目を覚まさなかった。だから余計に心配になってしまう。

 自然と足が早まる。そんな中、誰かが慌てた様子で駆けてきた。


「ル、ルルクぅー!」


 ボブにされた青い髪に、垂れた目。全体的にシュッとしているスーツに包まれた細い身体。

 手足も長く、優男の印象を抱かせる少年だ。

 そんな少年が、ルルクの前で息を切らしながら止まった。


「どうしたんだい、ロイド?」

「えっと、えっと、とにかく匿って!」


 ルルクは思わず理由を訪ねようとした。

 だが、その瞬間に聞き覚えのある声が響き渡る。


「ロイドォォ! どこに言ったのよ!」


 ロイドは顔を青ざめさせた。

 すぐに「誤魔化してて!」と頼んで走っていく。

 ルルクは不思議そうな顔をして頭を傾げる。すると遅れてダリアンがやってきた。


「あっ、ルルク! ロイドを見なかった?」

「ロイド? うーん、さっき慌てた様子で旧校舎のほうに行ったけど?」

「くっ、すれ違いか。もう手の焼ける奴ね!」

「ねぇ、ダリアン」

「何よっ。今忙しいんだけど!」

「なんでロイドを探しているの?」


 ルルクは何気なく訊ねた。するとダリアンは小さな胸を強調するかのように張り、ふっふーんと勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた。


「あいつを女装コンテストに出すためよ!」

「女装コンテスト?」

「あら、その様子じゃあ知らないみたいね。明日の昼下がりにやるのよ。

 優勝すれば、錬金術師必須のアイテム〈アルミティアの杖〉が手に入るの! あとオマケに優秀賞の景品もついてくるわ!」


「ふーん。その優勝賞品が欲しいから、ロイドを探しているってことか」

「そういうこと。絶対にあいつをかわいくして、優勝賞品をかっぱらってやるんだから!」


 ルルクはロイドがちょっと不憫だなって思った。

 貴族であるダリアンに仕える少年執事。それがロイドだ。

 身の回りの世話から護衛まで、様々な役目を負っているルルクの友人でもある。

 だがその実態は違う。ロイドはいわゆるダリアンのオモチャ。いいように遊ばれ、飽きたら放置されるかわいそうな少年でもある。


「とにかく、ロイドを見つけたら教えてよね! じゃあねっ」


 ダリアンはパタパタと走っていく。

 途中で「ロイドォー!」と叫びながら旧校舎へと消えていった。


「あいつも大変だな」


 ルルクは若干ロイドに同情しながら足を進ませた。

 旧校舎の渡り廊下。入り込んでくる赤焼けた光が、妙な美しさを醸し出している。

 ルルクはそこに足を踏み入れる。

 特に何もない通路だ。

 しかし、ルルクは足を止めた。


【お待ちしておりました】


 それは、倒したはずの存在だった。

 ルルクが思わず警戒し、身構える。

 だが、それは慌てた様子で言葉を発した。


【こ、攻撃しないでください! 何もしませんから!】


 以前と違って、美しいアメジストのような輝きを放つ存在。

 そのどこか気弱で、滑稽な姿を見たルルクは僅かながら警戒を解いた。


「何の用だ? お前はどうして生きている?」

【ええと、私めが生きている理由を話すと少し長いので要件だけを。

 ルルク様、このシナリオの最後にあなたは〈大きな選択〉を迫られます。おそらく、あなたのことですから大丈夫だとは思いますが……。ですが、もし間違った選択をすれば最悪な結末が待っております。そして奴も、それを狙っている。

 だから、気をつけてください。あいつはマオ様を地獄に叩き落とすことしか考えておりませんから】


 あいつ、と言われルルクはピンとこなかった。

 だが、〈クロス・クロノス〉はまっすぐとルルクを見つめたまま答えを待っている。

 その姿からルルクは、敵意がないと感じ取った。


「頭に入れておくよ」

【ありがとうございます】


 クロス・クロノスは丁寧に頭を下げる。

 その行為が先日と違って、ものすごく丁寧な印象を与えた。


「要件はそれだけ?」

【いえ、あと二つほど】

「早くしてよ。マオの所に行かなきゃいけないし」

【そのマオ様ですが、先ほど目を覚まされました】


 クロス・クロノスの言葉を聞き、ルルクは駆け出す。

 そんなルルクを見て、クロス・クロノスは【ああ、行ってはなりません】と制止した。

 だが、ルルクは止まらない。

 歩いてくる人を掛け分け、時にはぶつかるものの、すぐに前を向いて走った。

 息を切らしながらマオがいる部屋の前に立つ。

 そして、しっかりとドアノブを握り開いた。


「マオ!」


 ルルクが扉を開く。

 するとマオとミーシャは驚いたように顔を向けた。


「あ、ルルク君」

「なんだ、ルルクか。でもちょうどよかった」

「何がちょうどよかったんだよ? マオ、身体は大丈夫?」

「うん、大丈夫。あ、そうだ。ルルク君、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」

「何? できることなら何でもするよ」


 ルルクがそう答えてマオの傍へと寄る。

 そんなルルクを見て、マオは少し気の毒そうにした。


「ふっふっふー」


 ガチャリ、と音が響いた。

 反射的に振り返ると、扉の前にミーシャが立っている。


「これで逃げ場はなーし」


 ゆっくりと、ゆっくりとミーシャがにじり寄ってくる。

 その笑顔は、恐ろしく不気味で何かを企んでいるものだった。


「な、なんだよ。どうしたんだよ?」

「ルルク、お前には犠牲になってもらうわ」

「ハァ?」


 状況が飲み込めないルルク。

 そんな中、マオがルルクの背中へ抱きついた。

 背負ってしまう形で抱きつかれたルルクは、大きな戸惑いを抱いてしまう。


「マ、マオ!?」

「捕まえたよ、ミーシャちゃん!」

「よぉーし! そのまま踏ん張ってね!」


 何かヤバい。

 そう感じた瞬間、ミーシャが飛びかかった。


「男の娘にしてやるぅー!」


 ルルクは叫んだ。

 事情も状況もわからないまま叫んだ。

 そんな光景を目の当たりにしたクロス・クロノスは頭を抱えていた。


【だから言ったのに】


 こうしてルルクは、あっけなく捕まってしまった。



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