第21話 ドキっ? 男だらけのコンテスト
ガリウスの願いを見事に叶えたマオは、そのお礼としてアイテムをもらった。
しかし、その後にリリシアとのイチャイチャな姿を見せつけられながら、どうでもいいのろけ話を延々と聞かされてしまった。
気がつけば太陽は下がり始め、赤い夕焼けが窓から入っていた。
「あ、先生! そろそろ夕飯の時間ですっ」
「何っ! もうそんな時間か!」
「本日はコトコトと煮込んだカボチャ入りのシチューですよ」
「なんだとっ!? いつの間にそんなものを」
「昨日の晩から仕込んで起きました! さあ、早く食べに行きましょう!」
「やったぁぁ! 今日もリリシアちゃんの美味しいご飯が食べられるぞぉぉ!」
大騒ぎをして去っていくガリウスとリリシア。
そんな二人を見送ったマオは、ちょっとだけ晴れやかな笑顔を浮かべて手を振った。
「はぁー」
扉が閉まり、マオはやっと解放されたことに安堵する。
ふと、何気なくアイザックへ目を向けた。
よっぽど暇だったのか、それとも飽きてしまったのか、はたまたどちらもなのか。
アイザックはイビキをかいて眠っていた。
「もぉー」
マオは毛布を手に取り、アイザックに被せる。
いろいろと文句はあるものの、マオは敢えて口には出さなかった。
ただ優しい目を向けて、微笑ましく見つめるだけである。
『ご主人、そんなことしている時間はないですよっ』
唐突にシルフィールが大きな声を上げた。
マオが思わず目を向けると、シルフィールはちょっと慌てた様子で肩を掴んできた。
『期限まであと五日です! 早くしないとあいつの思い通りになっちゃう!』
その言葉を聞き、マオはピエロ魔人が新たに提示した条件を思い出した。
アイザック、そして王様達が凶暴なスライムになるまでの期限がかなり短くなった。
目的はもちろん、マオを追い詰めて苦しめるためだ。
しかし、マオの目には絶望の色はない。
「大丈夫。絶対に何とかなるよ」
アイザックが言ってくれた言葉。それを信じてマオは自身を鼓舞する。
しかし、シルフィールの不安は消えない。
『でもぉ、まだアイテムが――』
その言葉を聞き、マオはちょっと顔を強張らせた。
確かに必要なアイテムはそろっていない。
霊薬〈フェニクル〉を作り出すには必要数が絶対的に足りていないのだ。
このままでは錬金術でどうにかこうにか、という話にもならない。
「ダンジョンに潜るしかないかなぁー?」
アイテムを集めるにはダンジョンに向かうしかない。
お金があればどうにかできなくはないが、そもそもあったらとっくにどうにかしている。
選択できることはただ一つ。だが、その選択肢を広げる人物が現れる。
「マオちゃーん!」
大きな声と共に突然扉が開かれる。
反射的に顔を向けると、ミーシャがマオの身体に飛び込んできた。
そのまま抱きしめられるマオ。ちょっと苦しげにしていると、ミーシャが心配そうにして顔を覗き込んだ。
「身体大丈夫? 大丈夫だよね? ケガはないよね!?」
「う、うん。大丈夫だよ。でもちょっと苦しい……」
「え? あっ、ごめん!」
抱きしめていたマオの身体を咄嗟に離すミーシャ。
だが本気で心配してくれたようだった。そんな顔を見て、マオはつい嬉しそうに顔を綻ばせてしまう。
「ごめんね。さっき先生から起きたって聞いて、つい――」
「ううん、とっても嬉しかった。ありがとね、ミーシャちゃん」
マオが素直にお礼を言うと、ミーシャはちょっと気恥ずかしそうに笑った。
マオもそんなミーシャを見てつい笑ってしまう。
『ご主人、そろそろダンジョンに行かないと』
そんな中、シルフィールが急かすように声をかけてくる。
するとウンディーネが空気を読めとばかりにシルフィールを小突いた。
『ちょっとは主のことを考えなさいよ。さっき起きたばかりよ?』
『でもぉー、早くしないとみんながスライムに――』
『焦る気持ちはわかるけど、主のことも考えなさい』
仲良くケンカをするシルフィール達。
マオはそんな光景にちょっと困ったように笑っていた。
そんなマオを見たミーシャが、ちょっと不思議そうな顔をして「どうしたの?」と訊ねる。
マオはすぐに「何でもないよ」と答え、ダンジョンに潜る準備を始めた。
「どこに行く気なの?」
「ダンジョン。ちょっと欲しいものがあって――」
「ダメだよ! さっき起きたばかりでしょ? 休んでなきゃ」
「だけど、早くしないとアイザック先生が――」
ミーシャは一瞬、マオの言葉が理解できなかった。
だが、ちょっと焦っている表情を見てすぐに何かあったことを知る。
「ねぇ、何が欲しいの?」
「え?」
「もしかしたら協力できるかも。だから、教えて!」
マオはちょっとだけ迷った。
だが、ミーシャのまっすぐな目を見て決意する。
「えっとね――」
霊薬〈フェニクル〉を作り出すために必要な残りのアイテム。
それを言葉にして、ミーシャに伝える。
その全てを聞いたミーシャは、希望を紡ぐ一つの言葉を口にした。
「もしかしたらすぐに手に入るかも」
「えっ?」
思いもしない言葉に、マオは目を大きくする。
そんなマオの反応を見て、ミーシャはあるチラシを取り出した。
覗き込むとそこには、〈女装コンテスト〉なる文字が記載されていた。
「これは?」
「ギルド〈企画襲撃〉が明日やる女装コンテスト。これで優秀賞を獲れば、マオちゃんが欲しいアイテム全部手に入るよ」
魅力的な言葉だった。しかし、一つだけどうすることもできない問題がある。
「でも、これって男子限定のコンテストだよ? 私達じゃあ参加できないよ」
「フッフッフッ。大丈夫、その辺は抜かりないから」
ミーシャが不敵に笑う。
それは何を意味しているのか、マオには全く理解していなかった。
「私達には最高の逸材がいるじゃない」
「最高の逸材?」
「そっ、ルルクっていう男子がね!」
マオはミーシャが不敵に笑った意味をやっと理解する。
かくして、ルルクを巻き込んだマオ達の戦いが始まるのだった。