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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第2章 一途な漢ガリウスは恋に胸を焼く
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第19話 時を司る神〈クロス・クロノス〉

 ダンジョン〈ササララ寒冷帯〉。

 そのスタート地点で、マオ達は空から見下ろしているリリシアを見上げていた。

 同じように勇ましく見つめるガリウス。どっしりした先が丸いハンマーを担ぎながら、ガリウスはリリシアの背中にいる〈混濁した黒い何か〉を睨んでいた。


「さぁて、カッコいいところを見せなきゃな」


 ガリウスは力強く笑う。その瞬間に、リリシアは剣を振り上げた。

 その切っ先はガリウスに向く。ガリウスはその仕草を見た瞬間、目を鋭くさせた。


『シシシシシシ、シねッッッ!』


 刃が振り下ろされる。

 直後、風を斬り裂いて斬撃が飛ぶと、瞬くにガリウスへと迫っていった。

 しかし、その一撃は届かない。

 ガリウスは持っていたハンマーを振り、その斬撃を弾き飛ばした。


「きゃあっ」


 軌道が逸れた斬撃はマオとミーシャの横を通り過ぎていく。

 そのまま雪が積もった山を斬撃が抉り取る。途端に雪が粉のように舞った。


「ちょっと先生、危ないじゃないっ」


 ミーシャが堪らず文句を言い放つ。

 するとガリウスは「ガッハッハッ」と笑った。


「すまんすまん。相手が相手なものだからな、細かいコントロールができん。

 悪いが、もうちょっと離れててくれないか?」


 ガリウスの言葉は最もだった。

 相手は操られているとはいえ、学園が創立されて以来の天才と呼ばれる少女だ。

 その秘めたる能力も、持ち合わせている能力も最高の逸材。そんな存在を相手にしているガリウスが、手加減をできる訳がなかった。


「でも先生――」

「なぁに、心配はいらん。愛を囁いて正気に戻してやるさ」


 ミーシャの心配をよそに、ガリウスは笑った。

 それは今まで見てきたカッコ悪い笑顔ではない。どこか頼りになる力強いものだった。


【ダメだ】


 だが、その瞬間に何か声が聞こえた。

 マオは思わず声が聞こえた方向へ目を向ける。するとそこには、リリシアを支配している〈混濁した黒い何か〉がいた。

 マオは思わず怪訝な顔をする。するとその声は、助けを求めるように叫んだ。


【彼を一人にしてはいけない。絶対に、絶対にだ】


 言葉の意味がわからなかった。

 なぜ、敵対しているはずの存在がそんなことを言うのか。あまりにも不可思議で奇妙なことで、そのためにマオは頭を傾げてしまった。

 だが、イフリートは違った。ゆっくりとマオの隣に立ち、一緒に敵対している存在を見つめていた。


【選択がやってくる。正しい選択をしなければ、全てが終わる。もうあなたを悲しませたくない。だから間違えないでくれ――】


 言葉が消える。

 途端に〈混濁した黒い何か〉は雄叫びを上げた。

 ガリウスは自然と、ハンマーを握る力を強めた。

 直後、〈混濁した黒い何か〉の背中に大きな円陣が広がった。


「あれは――」

「先生、逃げろ! あいつ、時間を止めてくる!」


 ガリウスの顔が強ばる。

 同時に、ルルクが慌てたように叫んだ。


「時間?」

「たぶんだけど、あいつは時間を操る。あれだけの規模になれば、たぶん止めてくる!」


 時を司る者。

 ガリウスはその存在が何者なのか覚えがあった。


「まさか、〈クロス・クロノス〉か」


 より一層、顔が強ばる。

 だが同時に、高揚したかのような笑顔を浮かべていた。


「選択って、もしかして――」


 そう、声が示していた選択はこの場面だ。

 これから〈混濁した黒い何か〉、いや〈クロス・クロノス〉がガリウスへ何かを仕掛ける。

 それが防ぐことができなければ、マオは自身が望まない結末を迎えることになるのだ。


「マオちゃん!」


 ミーシャがマオの手を掴む。

 直感的に危険だと感じたのだろう。

 しかし、ここで逃げてしまえば望まない〈結末〉を選ぶことになる。


「ごめん、ミーシャ」


 声がくれたヒント。それを無駄にする訳にはいかなかった。

 だからマオは、ミーシャの手を振り払って戦う選択をした。


「イフリート、行ける?」


 イフリートは頷く。

 それを見たマオは、すぐに一つのお願いをした。


「あれ、壊せる?」


 イフリートは少し難しい顔をした。

 右腕を失い、体力も減っている。万全ならまだしも、傷ついた状態では完全破壊は難しかった。

 それを感じ取ったマオは、次なるお願いをする。


「じゃあ、発動を遅らせることができる?」


 その言葉に、イフリートは力強く頷いた。

 マオは考える。発動時間に猶予ができれば、まだ最悪な結末を回避する可能性はある。

 だが、マオとイフリートだけでは完全に回避することはできない。


「ルルク君、攻撃魔術を使える?」


 マオは叫ぶ。

 思いもしない言葉に、ルルクは思わず戸惑った顔をした。

 しかし、マオは躊躇いなく指示を飛ばす。


「リリシアさんじゃない! 後ろにいるあれを攻撃するのっ」

「でも、あいつに攻撃なんて――」

「ああいうのは、基本的に魔術攻撃しか効かない。でも逆を言えば、魔術攻撃ができれば決定打になるの!」


 その言葉は、とても腑に落ちるものだった。

 ルルクはすぐさま持っていた魔術書を開く。そして本の内容を読み込み始めた。


「ミーシャちゃん、魔術使える!?」


 呆然としているミーシャに、マオは大きな声で訊ねる。

 するとミーシャも戸惑った顔をして質問に答えた。


「う、ううん。攻撃に使える魔術は一つも――」

「じゃあ、先生の傍にいて。合図を送ったら、一斉攻撃だよ!」


 ミーシャはマオの言葉に従い、ガリウスの元へと駆けていく。

 それを見たマオは、待機していたイフリートへお願いをした。


『――――』


 イフリートは力強く雄叫びを上げる。

 そしてマオのお願いに答えるかのように、〈混濁した黒い何か〉に飛びかかった。

 リリシアがイフリートの攻撃を止めようと剣を振るう。

 イフリートは咄嗟に左の拳を突き出した。

 しかし攻撃虚しく、刃はイフリートの胸を貫いてしまった。

 だが、その瞬間にイフリートは笑った。


『――――』


 突き出された刃。その刀身が、煙を上げていた。

 目を向けると、あるはずの刀身がない。

 ドロドロに溶けており、それはもう剣として機能していなかった。

 リリシアの攻撃の手が緩むと同時に、イフリートは〈混濁した黒い何か〉へ突撃した。

 すると慌てたのか、クロス・クロノスは迎撃態勢を取った。


『奴を撃ち落とせ!』


 一瞬の注意の移り。

 ルルクはその一瞬を見逃さなかった。

 発動した魔術は、光の矢となって飛んだ。

 それは風を置いていく速さで飛び、〈クロス・クロノス〉の頭を撃ち抜いた。


『オォオオオォォォォッッッ』


 思いもしないことに〈クロス・クロノス〉は叫んだ。

 反射的にルルクを睨みつけると、その瞬間にイフリートが割って入った。

 そして、固く握られた左の拳を頭へと振り落とされる。

 力強く叩き込まれた拳を受けた〈クロス・クロノス〉。勢いのまま雪が積もった地面へ叩きつけられると、〈クロス・クロノス〉は痛そうな顔をして起き上がった。

 その身体からは〈黒い何か〉は消えており、揺らめいていた身体もハッキリと現れていた。

 マオはそれを見て、待機していたガリウス達に叫ぶ。


「ミーシャちゃん、ガリウスさん。今だよ!」


 ガリウスとミーシャが駆ける。

 直後に、〈クロス・クロノス〉は二人を迎撃しようと身構えた。


「させない!」


 マオはその瞬間に、余っていた〈フロストスノーボム〉を投げた。

 それは見事に命中し、〈クロス・クロノス〉の身体を凍てつかせていく。

 動きが鈍ると共に、ミーシャが木剣を顎に叩き込んだ。

 身体が浮かび上がると共に、ガリウスが脳天を叩き割るようにハンマーを振った。

 まるでぶち抜くように、力強く振り切られる。

 その威力はすさまじく、〈クロス・クロノス〉はあっという間にぶっ飛ばされていった。


「イフリート!」


 イフリートは空から突撃する。

 発動させようとしていた〈魔法〉と止めるために。

 マオ達を助けるために。

 その拳を固く握って、神である〈クロス・クロノス〉の腹部へ突き出した。

 途端に大きな火柱が立ち昇る。

 それはあまりにも美しく、あまりにも力強い真っ赤な炎だった。



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