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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第2章 一途な漢ガリウスは恋に胸を焼く
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第18話 燃え上がれガリウス

 マオは息を切らしながら走った。

 イフリートはそんなマオを心配げに見つめながら追いかける。

 腕の中にいるリリシアが少し苦しげに唸った。マオは思わず足を止め、息を切らしながらイフリートにリリシアの容態が見やすくなるように「屈んで」とお願いした。


「リリシアさん……」


 マオは頭を覆っているブーケを取ろうとする。

 だがイフリートが手首を掴み、首を振ってマオの行動を止めた。

 マオはイフリートの行動を見て、右手を引っ込める。

 イフリートが止めなければならないほど、このブーケは危険なのだ。


「何かできないのかな?」


 具体的な要因はわからないが、リリシアは確実に弱っている。

 おそらくこのブーケがリリシアの力を奪っているのだが、根本的な解決方法が思いつかなかった。


「考えている暇はないかも」


 マオはイフリートを見る。

 イフリートもマオと同じ考えなのか、小さく頷いていた。

 このままではリリシアは確実に死ぬ。それをどうにかするためにも、別行動をしているみんなと合流しなければならない。


「行こう」


 目指すはスタート地点。そこならルルクが確実にいる。

 マオはイフリートと共に、三つ先にあるスタート地点へ駆けていった。



◆◇◆◇◆◇◆



「ねぇ、先生。まだ鍵を開けられないの?」

「少し静かにしろ! 集中できん!」


 ルルクはとても苦笑いをしていた。

 リリシアが瞬間的に駆けていったことで判明したトラップ。

 それにかかったガリウスは、ミーシャと一緒に閉じ込めてくれた檻の鍵を解錠しようとしていた。

 しかし、寒さもあってかガリウスは一つも解錠できていない。さらにミーシャが茶々を入れるので、作業が一向に進んでいなかった。


「このままじゃあ負けちゃうよぉー?」

「黙れと言っているだろ! 解錠できんわ!」

「さっきから一つも解錠できてないじゃん!」


 苛ついているのか、ガリウスもミーシャもいがみ合っていた。

 そんな中、冷たい風が吹き抜ける。途端にガリウス達は「へくちっ」とくしゃみをしてしまった。


「寒っ! もぉー、最悪だよぉー」

「こっちのセリフだわ! にしても、寒いな」

「マオちゃん帰ってこないかな。またぎゅーっとしたい」

「いいな。今度は俺もやろう」

「先生はダメです。ホントに犯罪者になっちゃう」


 ガリウスは途端に黙り込んだ。

 どこかショックを受けているようにも見えたが、ミーシャは気にしていない様子だった。

 ルルクは何気なくガリウスの顔に目を向ける。するとちょっとだけ目から涙を流していた。


「みんなぁー」


 ルルクがどうしようもないダメダメコンビを眺めている時だった。

 声が聞こえて振り返ると、そこにはマオの姿があった。その近くには妙な格好で浮いているリリシアの姿もある。

 ルルクはガリウス達に目を向けた。だがトラップ解除に夢中なのか、気づいていない様子である。


「ったく、いいのか悪いのか」


 ルルクはガリウス達に何も告げず、マオの元へと駆けていく。

 一体どうして精霊を使っているのか気になりつつも、ルルクは声をかける。


「どうしたんだよ?」


 マオはルルクと合流すると同時に、膝に手をつけた。

 ずっと走りっぱなしだったのか、呼吸が整う気配がない。


「その、リリシア、さんが――」

「落ち着いてからでいいよ。ほら、ゆっくり深呼吸して」

「そんな、暇ない、から。早く、しないと――」


 マオの言葉にルルクは顔を強張らせた。

 視線を浮いているリリシアへ向ける。するとその頭には奇妙なブーケがあった。

 まるで顔を隠すように覆われている。ルルクが思わずそのブーケを取ろうとした瞬間、何かに腕を掴まれた。


「ごめん、イフリートがダメだって」

「イフリート? もしかして、四大精霊のイフリート?」

「よくわからないけど、とにかくダメだって」


 ルルクはマオの言葉を聞き、改めて強い決意をした顔をする。

 リリシアに何が起きたかわからない。しかし、このブーケが根本的な原因だと気づいた。


「マオ、このブーケに触らせてくれ」

「でも――」

「構造解析をかじったことがある。もしかしたら、リリシアさんを助けることができるかもしれない」


 マオは一度不安そうな顔をした。

 だがルルクの勇ましい表情を見て、信じる決意を固める。

 マオはイフリートへ顔を向ける。するとその顔を見たイフリートは、ルルクの右手をゆっくりと離した。

 感触がなくなったことを確認したルルクは、一度だけ小さく息を吸った。

 ゆっくりと、ガラス細工を取り扱うようにリリシアの頭を覆うブーケに手を伸ばす。


「よしっ」


 静かに目を瞑り、意識をブーケへと集中させる。

 途端にルルクの精神を何かが襲った。

 それはあまりにも濁った黒い〈何か〉だ。

 チクタク、チクタクと音が響く。一体何の音なのかわからず、ルルクはさらに奥へ足を踏み入れた。


『来るな』


 拒絶するような声が響く。しかし、ルルクは一歩ずつ踏み出した。

 どんどんと奥へ進んでいく。

 そこでルルクは、二つの存在を目にした。


『見たなっ!』


 両手を縛られ、吊るされているリリシア。そのリリシアの身体を絡め取るように抱きしめている〈混濁した黒い何か〉がいた。


『出ていけ!』


 ルルクに対して、〈混濁した黒い何か〉が声を荒げた。

 途端にルルクの意識が途切れる。

 直後、ルルクとマオ、そしてイフリートがリリシアから弾き飛ばされてしまった。


「うわっ」

「きゃあっ」


 それぞれが倒れる中、リリシアの身体が宙に浮き始める。

 ゆっくりと、見下ろすように、マオ達を眺めていた。


「うぅ、痛い」


 マオは涙を目に浮かべながら起き上がる。

 ルルクも同時に身体を起こし、リリシアへ目を向けた。

 するとその背中には、先ほど見た〈混濁した黒い何か〉がいた。

 まるで霧がかったように身体が揺らめいている。


『俺の、モノっ』


 それは主張するかのように何かを叫んだ。

 途端にリリシアの手に、黒い霧が集まってくる。

 それは剣へと変わっていき、完全に形が作られると同時に一つのシンボルが輝き弾けた。


「時計?」


 ルルクは思わず顔を強張らせる。

 途端に、リリシアの背中を覆うように現れた〈混濁した黒い何か〉が雄叫びを上げた。


『奪うウバうウバウッッッ! ジャマするナ!』


 リリシアは声に呼応するかのように剣を振り上げる。

 狙いをマオに定め、そのまま力の限り振り下ろした。

 途端に斬撃が空を切り裂いて飛ぶ。

 反射的にルルクが「マオッ」と叫んだ。

 イフリートもまたマオを守ろうと間に割って入る。

 だが、斬撃はイフリートの腕を斬り飛ばした。


「イフリート!」


 身を挺した守ったおかげか、斬撃は軌道を変えてどこかへと飛んでいった。

 だがイフリートのダメージが大きい。苦悶の表情で、斬り落とされた右腕を抑えている。

 マオが思わず駆け寄ろうとした。

 だがその瞬間にリリシアは、もう一度剣を高々に掲げた。


「くそっ」


 ルルクは咄嗟に持っていた魔術書を開く。

 その瞬間、〈混濁した黒い何か〉の目が輝いた。

 途端にルルクの動きが鈍くなった。

 おかしなことに、魔術の発動も遅くなる。


「まさか、これは――」


 ルルクは敵が何者なのかに気づく。

 その瞬間、リリシアは再びマオを攻撃した。

 飛ばされた斬撃。それは圧倒的なスピードで駆け抜けようとしているのに、ルルクの目にはなぜかスローモーションとなって映っていた。

 このままではマオが危ない。

 しかし、ルルクにかけられた状態異常が邪魔をする。


「マオォォォォォ!」


 ルルクは走った。

 少しでもマオを助ける可能性を掴むために、必死に足を動かした。

 だが、どんなに身体を動かしてもマオの元へ辿り着かない。

 迫る斬撃。それがマオの身体を真っ二つにしようとしていた。

 もうダメだ、と思ったその瞬間にルルクの隣を何かが駆け抜けていった。


「マオちゃん!」


 斬撃がマオの身体を斬り裂こうとした寸前、ミーシャが身体を押し倒した。

 ルルクが思わず「ミーシャ」と名前を叫ぶと、ミーシャはすぐに身体を起こす。

 その姿に胸を撫で下ろすルルク。しかし、まだ安心はできない。


『ジャマ邪魔じゃま、すすすスルナ!』


 リリシアがまるで関節部分が錆びついてしまったかのように、ぎこちなく身体を動かす。

 リリシアを操る〈混濁した黒い何か〉もまた、壊れたかのように言葉を吐き出していた。


『おれ俺オレ、これこれオレののの、モノノノッッッ』


 まるで怒り狂っているかのように、〈混濁した黒い何か〉は叫んでいた。

 だが、それを真っ向から否定する者が現れる。


「オレのもの? バカ言うな。その子は、お前のものじゃない」


 ゆっくりと、勇ましい目つきで、そのドワーフは見上げる。

 支配されたリリシアを助けるために、どこから取り出したかわからないハンマーを担いでいた。


「その子は、俺のもの。俺の、将来のお嫁さんだ!」


 ガリウスは勇ましく大声を放つ。

 勇敢な笑みを浮かべ、リリシアを支配する〈混濁した黒い何か〉を見つめていた。

 その顔つきは、身にまとっている雰囲気は、放たれる言葉は――

 いやその全てが、今まで見せていたガリウスのものとは違った。


「ガリウスさん」


 マオが思わず名前を呼んでしまう。

 するとガリウスは、安心させるようにニッと笑顔を浮かべた。


「下がっててくれ、マオちゃん。ちょっと派手に暴れちゃうからよ」


 それは、とても頼もしい言葉だった。

 始まろうとする激突。支配されたリリシアを助けるために、ガリウスが立ち上がる。



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