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マオと不思議なスライムの賑やかなアトリエ  作者: 小日向 ななつ
第2章 一途な漢ガリウスは恋に胸を焼く
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第17話 乙女の心を喰らう亡霊のブーケ

 マオはニマニマと微笑んでいた。リリシアが抱くガリウスに対しての淡い想いを知ってしまったためである。


「そんなにおかしいですか?」


 リリシアは不機嫌そうに言葉を突き刺した。

 しかし、マオの笑顔は変わることがない。それどころか、さらに眩しく輝いているようだった。


「全然そんなことありませんよ。むしろ気持ちがわかってとってもよかったです!」

「だから、そんなんじゃあないですって!」

「もぉー、恥ずかしがり屋なんですから。素直に〈好き〉って認めてくださいよ」

「そ、そそそ、そんな訳ないですから! かかか、からかわないでください!」


 あからさまに動揺するリリシア。

 マオは改めて、ガリウスの努力が無駄ではなかったんだなって感じた。


「ところでリリシアさん」

「なんですか?」

「どういうところが好きになったんですか?」

「だから違いますって!」

「誰にも言いませんから。だからお願いしますっ!」


 リリシアは「むぅー」と唸りながらマオをジトッとした目で見つめる。

 しかしマオは引き下がらない。むしろ、両手を合わせてリリシアの言葉を待っている状態だった。


「言っておきますが、好きじゃありませんからね。その、ちょっと気になる程度ですから」

「わかりましたから。だからだから!」

「もぉー! マオちゃんなんて嫌いです!」


 迫るマオに、本当に困りながら渋るリリシア。

 もはや勝負のことなんてそっちのけで恋バナに花を咲かせている始末である。

 このままではリリシアが望まない結末になってしまうのだが、マオはそんなこと考えることもなく核心へと迫った。


「じゃあ、ガリウスさんを意識するようになったのはどんな時だったんですか?」


 リリシアは再びジトッとした視線を送る。

 しかしマオは絶対に引き下がらない。ニマニマと笑いながら、ずっとリリシアがガリウスを意識したその時のことが語られるのを待っていた。


「わかりましたよ……」


 リリシアは負けたかのようにため息を吐く。

 途端にマオは目を輝かせた。ついつい「きゃあぁー」と叫ぶと、リリシアはうんざりとした表情を浮かべた。


「絶対に言わないでくださいね」

「言いません言いません! だから早く早く!」

「もぉー」


 マオの粘りに負けたリリシアは、ついに重たい口を開く。

 リリシアの口から何が語られるのか。マオはわくわくして耳を傾けていた。

 だが、魔の手というものは突然訪れる。


「ハロォー、マオ!」


 マオは思わず目を鋭くさせた。

 リリシアもまた、声に反応して振り返る。

 しかしその瞬間、リリシアの頭に何かが覆った。


「きゃあ!」

「リリシアさん!」


 ゆらりと揺れるそれは、まるでブーケのようにリリシアの頭を包み込む。

 慌ててマオが「イフリート」と叫んだ。イフリートはマオの呼びかけに応え、リリシアの頭を覆ったブーケを取り外しにかかった。

 だが、触れようとした瞬間にイフリートは弾き飛ばされてしまった。


『――――』


 声なき悲鳴がイフリートから放たれる。

 マオはその姿を見て、思わずイフリートへ駆け寄ってしまった。


「おやおやぁ、どうしたのですかね? イフリートは力自慢のはずですが。ああ、そうか。力だけじゃあこいつは外れないんでしたね!」


 ニッヒッヒッ、と笑っているピエロ魔人をマオは睨みつけた。

 なぜ、どうして、こんなタイミングで現れたのか。

 マオが思わず問いかけようとした瞬間、ピエロ魔人が先に口を開いた。


「困るんですよ、私の計画通りに動いてくれないと。まあ、あなたがもう〈特異点〉ですから言っても仕方ないんですがね」

「特異点?」

「おっといけない。余計なことを言ってしまいましたね。まあ、いいでしょう」


 ピエロ魔人はニンマリと笑い、指をパチンと鳴らした。

 途端にリリシアが腰に添えていた細剣を抜く。

 マオが思わず身構えると、ピエロ魔人は笑った。


「本来ならばこいつはここで死んでしまう〈運命〉です。ですが、あなたのおかげでメチャクチャだ。ならば始末しなければならない。

 その前に、あなたには死んでもらいましょう。そしてこいつには、大きな罪の意識を持って死んでもらいますよ」


 ピエロ魔人はとても醜く笑った。

 それはマオが今まで見てきた笑顔の中で、一番怒りを覚える笑顔だった。


「さあ、リリシアよ。そこにいる生意気な小娘を殺しちゃいなさい!」


 リリシアはピエロ魔人の命令に従い、刃をむき出しにして駆けた。

 マオは思わず防御姿勢を取ろうとする。

 それよりも早く刃が胸に迫った。

 だが寸前のところで、イフリートが間に割って入った。


「イフリート!」

「おやぁ? また邪魔をするのですか?」


 イフリートはマオに一度だけ振り返る。

 そして何かを訴えるかのように、視線を送った。

 マオはその視線を受け、途端に背を向けて走る。

 イフリートはそれを見て、ニッと笑みを浮かべた。


「おやおや、ご主人様がお逃げですか。まあ、それはそれでいいでしょう」


 ピエロ魔人はイフリートとリリシアを見下ろす。

 このまま戦ってくれれば、ピエロ魔人が望むシナリオになる。

 しかし、ピエロ魔人は忘れていた。

 マオは、精霊が見える錬金術師であるということを。


「よし、できた!」


 集めていた〈フロストベリー〉とそこら中に積もっている雪。

 それらを使って簡易的にだが、強力な攻撃アイテムをマオは生み出した、

 名付けて〈フロストスノーボム〉である。


「リリシアさんを離せぇー!」


 ただフロストベリーを雪玉の中に入れただけの攻撃アイテム。

 ピエロ魔人は不覚にも、フロストスノーボムをまともに受けてしまった。

 途端に雪玉は割れ、ピエロ魔人を飲み込むかのように氷が発生する。


「うおぉっ!?」


 思いもしない氷結効果にピエロ魔人は驚いていた。

 途端にリリシアの動きが鈍る。

 イフリートはその瞬間、リリシアを押し倒した。

 顔をピエロ魔人に向け、自由な右手を突き出す。

 直後、強烈な豪炎がピエロ魔人を飲み込んだ。


「よし! イフリート、リリシアさんを連れて逃げるよ!」


 マオはすぐにイフリートへ指示を飛ばす。

 イフリートはその言葉に頷き、リリシアを抱えて駆けた。

 このままでは勝てない。しかもリリシアが危ない状態である。

 だからマオは、別行動しているガリウス達の元へと向かった。


「やられましたねぇ」


 ピエロ魔人は困ったように呟く。

 やれやれ、と頭を振りながらまとわりついた炎を振り払う。

 そのまま憂鬱そうに頬杖をついて、ため息を吐き出していた。


「ホント、私の望まないシナリオ通りに動いてくれますね。このままじゃあハッピーエンドじゃないですか」


 困ったように唸るピエロ魔人。

 だが、すぐにその顔は歪んだ微笑みに包まれた。


「そうですね、どうせなら一番胸クソ悪いエンディングにしてあげましょう」


 ピエロ魔人は「ヒィーッヒッヒッヒッ」と笑い声を上げた。

 マオが進んだシナリオには、一つの分岐点がある。

 そこでマオに望む選択を取らせればいい。

 そう考えたピエロ魔人は、マオに間違いを起こさせるために動き出した。


「さーて、進んでもらいましょうか。あなたが死にたくなるエンディングを、迎えるために」


 耳障りな笑い声が雪山に響き渡る。

 それはマオ達に届くことはない。



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