第12話 偶然・必然・突然!? 思いもしない出会い
それは、あまりにも突然だった。
「え、えぇー!」
「何を驚いている? 錬金術で作ることができる代物だぞ。材料は学園で手に入るうえ、今のお前なら作り出せる代物だ」
「そ、そうなんですか? でも、確か〈フロストブルー・ローズ〉って――」
「とにかく、さっさと作れ! お前なら大丈夫だと俺は踏んでいる」
マオは何か言いくるめられた気がしながらも、渋々「はい」と返事した。
そんなマオを見て、ルルクが目を輝かせながら手を握る。
「ありがとうマオ! これで種族間の問題が一歩進むよ!」
「そうかなぁ?」
「そうだよ! よし、そうと決まれば早速材料を集めよう!」
ルルクはやる気満々なのか、マオの手を引っ張ってどこかへと駆けていく。
ミーシャはそんなルルク達を「ちょっと待ってよ」と叫びながら追いかけていった。
嵐のように騒ぎながらどこかへと去っていったマオ達。アイザックはそんなマオ達の背中を見て、やれやれと呟きながら頭を振っていた。
「懐かしいな」
アイザックはその言葉を聞き、顔を上げる。
目に入ってきたのは、どこか懐かしむような顔をして微笑んでいるガリウスの姿だった。
「ロリコンにでも目覚めたか?」
「お前ほどじゃないさ。まあ、前も俺達はあんな姿を見ていたな」
「だからどうした? 俺は腐るほどあの光景を眺めてきたさ」
「嘘つけ。お前はあの時からずっと、止まったままだっただろ」
ガリウスの言葉に、アイザックの顔が歪んだ。
そんなアイザックを見て、ガリウスは「ガッハッハッハッ!」と豪快に笑う。
アイザックはさらにヘソを曲げたのか、思わず「ケッ」と言葉を吐き捨てるのだった。
「昔からお花畑の頭だな、お前は」
「昔から頭でっかちだっただろ、お前は」
「うるせぇな! 少しは黙れ!」
「黙らんさ。それに、あの子はお前がスライムになってまで守る価値があった子なんだろう? なら口を出さんとな」
「冗談が言えるようになったか、脳筋が」
「ガッハッハッハッ! 脳筋だからこそできることはあるさ」
アイザックはガリウスから離れる。これ以上会話すると、バカが移りそうだった。
だがガリウスは、どこかへ行こうとするアイザックを呼び止めた。
「アイザック。今度はちゃんと導いてやれよ」
アイザックは振り返らない。代わりの返事として「ふん」と鼻を鳴らした。
腐れ縁と呼べる旧知の仲。だからこそガリウスは、再び何かが動き出したアイザックの背中を押した。
◆◇◆◇◆◇◆
トトリカ魔術学園の玄関口と言える場所に、マオ達はいた。
「ねぇ、マオ。〈フロストブルー・ローズ〉ってどういう材料があればいいの?」
「えっと、確か――」
ルルクに材料を訊ねられ、マオはレシピを思い出す。
そんなことをしているとすぐ近くで「わぁー」といった黄色い声が響いた。
「あれ? なんか騒がしいな」
「ちょっと見てくる」
ミーシャが野次馬根性を出して、妙な騒ぎが起きている集まりへ顔を突っ込んでいく。
マオとルルクは、ミーシャを見送った後に売店で〈フロストブルー・ローズ〉を作るのに必要なアイテムの購入を始めた。
「こんにちは、マライカさん。えっと、〈フロストベリー〉と〈純白ローズ〉、あと〈ブルージェム〉をください」
「あら、マオちゃんじゃない。今日はボーイフレンドと一緒かい?」
「え? そ、そんな関係じゃないですよっ! ルルクはさっき知り合ったばかりの友達です!」
「あらあら、そうなのぉ。私があなたぐらいの時はボーイフレンドがいっぱいいたものよ」
さらりとすごいことを言い出す売店のおばちゃんことマライカ。マオはちょっと困ったように笑いながら「ルルクは友達です!」と強調した。
そんなマオの言葉を受け、ルルクは苦笑いを浮かべる。確かに知り合ったばかりだが、ここまで否定されるとどう反応すればいいか困ってしまう。
「あらそうなの? 残念ねぇ」
「とにかく、友達なんです!」
「仕方ないわね。そういうことにしておいて上げるわ」
マライカが朗らかに笑う。絶対に信じていない笑顔だが、マオは流すことにした。
「えっと、〈フロストベリー〉と〈純白ローズ〉、あとは〈ブルージェム〉だったかしら? ちょっと待っててね」
ママロアはルンルンと、鼻歌を交じらせながら注文されたアイテムを探しに行く。
ルルクはそんなマライカを見て、「楽しそうだなぁー」と感想を溢した。
「変な噂が立たなきゃいいんだけど……」
「変な噂? どんなの?」
ルルクは何気なく訊ねた。するとマオは途端に機嫌を悪くさせ、「何でもない」と言い返したのだった。
ふと、すぐ近くにあった妙な集まりから「わー!」と歓声が上がった。
マオとルルクは思わず目を向けると、そこにはさらに人が集まっているように見えた。
「何をやっているんだろう?」
「ミーシャから後で聞かなきゃな」
マオとルルクは気になって仕方がない。そんな中、アイテムを探しに行っていたマライカが「ごめーん」と叫びながら戻ってきた。
どうしたんだろう、と思いながら振り返ると困った顔をしたマライカの姿がそこにあった。
「ブルージェムはあるんだけど、それ以外は切らしちゃってたみたいなの」
「えー!?」
「仕入れはいつ頃になるんですか?」
「そうねぇ、いつも通りなら一週間後かしら」
一週間後。さすがにそんなに待てない。
マオはどうするべきか考え始める。するとそんな姿を見たママロアが、あることを口にした。
「もしすぐに欲しいなら、〈ササララ冷寒帯〉に行けばどっちも手に入るわよ」
「ササララ冷寒帯?」
「そこってたしか、雪山がダンジョンになっている場所でしたよね?」
「ええ。モンスターは凶暴だし、できれば行かせたくはないんだけど――」
マライカはとても苦い顔をする。
だがそれでも、マオは行かなくてはならない。アイザックから課せられた試練を乗り越えるためにも、ガリウスの恋を成就させるためにも。
「もし行くなら、強い人に声をかけたほうがいいわ。あと準備もしっかりしてね」
「はーい」
返事をするマオ。だが困ったことが一つあった。
それはマオの知り合いで、強い人がいないからだ。試しにルルクへ顔を向けるが、どこか困ったように考え事をしている。
「あら、この子達がミーシャさんのお友達かしら?」
ルルクと一緒に頭を抱えて悩んでいると、澄んだ声が耳に入ってきた。
二人で一緒に声の主へ目を向ける。するとそこには、思いもしない綺麗なエルフが立っていた。
「こんにちは」
ニコッとエルフ少女が笑った瞬間、マオの頬がほのかに赤く染まった。
ルルクはというと、効果が絶大だったのか鼻血を噴き出して倒れてしまう始末だ。
「ルルク君!」
「あら、大変。大丈夫?」
揺れる金色に輝く長い髪。透き通るような白い肌。吸い込まれてしまいそうになるほど綺麗で深い青い瞳。
どれもこれもが、刺激的だ。
だからなのか、ルルクはさらに鼻から血を噴き出してしまう。
「ちょっとちょっと、何興奮しているのよ」
そんなルルクに白い目を向けるミーシャ。しかし、ルルクは気を失っているのか反応を示さない。
その顔はどこか幸せそうでもあったが、マオは敢えて見なかったことにした。
「ミーシャちゃん、その人は?」
「ふっふーん! 聞いて驚け。この方は、トトリカ魔術学園で一番有名なエルフ〈リリシア・レベナント〉さんよ!」
「えぇ!? リリシアさん!!?」
マオは思わず目を白黒させる。
だがリリシアは、気にする様子もなく朗らかに微笑んでいた。
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