第11話 永遠に溶けない愛! フロストブルー・ローズ
リリシア・レベナント。学園きっての才女と呼ばれるエルフである。
入学時から主席を担い、冒険家で行われている全ての科目でトップクラスの成績を収めている人物。
将来は王国を守護する聖ネネシア騎士団の入団を希望しているが、その麗しき見た目から王子と噂があるやら、未だに独身の騎士団長とお付き合いがあるやらと、学生達の間でゴシップが飛び交っているほど人気の少女でもある。
ドワーフであるガリウスは、そんな年下のエルフ少女に恋をしたのだ。
「やめたほうがいいですっ」
ミーシャが大きな声で叫んだ。しかしガリウスは、「俺は止まらん!」と胸を張る。
「この恋は、燃え上がる炎は、熱い熱い情熱は、どんなことがあっても消えることはない!」
「先生はドワーフなんでしょう!? エルフとの仲を考えてくださいよっ」
ミーシャの言葉に、若干だがガリウスはたじろいだ。
ドワーフとエルフは、とても仲が悪い。以前ドワーフが統治している国が、エルフが統治する国にケンカを売ってメディアを騒がせたことがある。
その時は幸いなことに戦争まで発展しなかったが、一年間ほど一触即発のムードが漂っていたのだ。
多種族国家ネネシブ王国でもその影響を受け、エルフとドワーフの間でちょっとした小競り合いが起きた。そしてそれは、現在も続いている。
「ふ、ふふふふふっ」
ガリウスは不敵に笑い始めた。ミーシャが思わず怪訝な表情を浮かべると、唐突に「ガッハッハッハッ」と豪快な笑い声を出した。
「ならば、俺とリリシア嬢でその険悪ムードをなくせばいい! そう、これは俺達に課せられた〈愛の試練〉だ!」
ミーシャは言葉を失った。
そんな姿を見て、マオとアイザックは抱いている気持ちを理解していた。
「ちょっと、人の話を聞いていたの!? そもそもアンタに――」
「素晴らしい!」
ミーシャがさらに怒ってガリウスに説教をしようとした時だった。
ルルクがとんでもない言葉を言い放ったのだ。思わずミーシャは「ハァ!?」と声を荒げてしまう。
しかし、ルルクは気にすることなく言葉を口にした。
「種族の間にある問題。それを取り払うのは、とんでもなく難しい。ですが、あなたはそれを物ともせず手を取り合おうとしている。これを素晴らしいと言わずなんと言う!?」
「バカとしか言えないと思うけど?」
「ガリウス先生、僕はあなたに感銘した! 是非、協力させてください!」
思いもしない展開。
ミーシャは呆れたように息を吐き、マオは戸惑ったように笑う中でルルクはガリウスの手を握った。
ガリウスはガリウスで気をよくしたのか、ルルクに「ありがとう、我が友よ!」と叫んで力強く抱きしめる始末だった。
「しかし、俺がどんなにアタックしてもリリシア嬢は振り向いてくれなかった。これ以上一体どうすればいいんだ?」
「ただ口説くだけじゃダメですよ。こういう時は、プレゼントを贈りましょう」
ルルクの目が輝く。ありえないほど真剣な眼差しで、ガリウスの顔を見つめる。
ガリウスも同じようにルルクの言葉を、真剣な顔をしながら聞き入れていた。
「なるほど、女はプレゼントに弱いっていうからな」
「そうです。女性は素敵なプレゼントを贈ればイチコロですよ」
「あのね、それ私達の前で交わす会話?」
「ミーシャがいい例です。この前、美味しいパンケーキを食べさせたら機嫌がたちまち良くなりましたから」
「ちょ、ルルク! 何言っているのよ、アンタッ!」
ミーシャが思わず叫び飛びかかろうとする。しかしルルクは、その突撃をひらりと躱してしまう。
そのまま頭に手を回し、ガッチリとヘッドロックをミーシャにかけるのだった。
「アダダダダッッッ」
「このように、プレゼントは効果的です。もしかすると相手から懐に飛び込んできてくれるかもしれません」
「いいないいな! よし、プレゼント大作戦と行こう!」
ノリノリのルルクに、乗ってしまったガリウス。
悲鳴を上げているミーシャにちょっと苦笑いしつつ、マオは浮かんだ素朴な疑問をぶつけた。
「ところで、どんなプレゼントするんですか?」
訊ねられた二人は途端に腕を組み、「うーん」と考え始めた。
どうやらプレゼントの内容までは考えていなかったらしい。
「おい、ルルクとやら。何かいい案はあるか?」
「あったら考えていないですよ。先生は?」
「あったらお前に聞いてないだろ」
マオは思わず顔を引きつらせた。ひとまず笑顔を浮かべているが、あまりの考えなしに困り果ててしまう。
そんなマオ達を見て、アイザックが疲れたようにため息を吐いた。
そして嫌々ながらも仕方なく口を挟んだ。
「花を送ってみてはどうだ?」
「花?」
「ああ。こういう愛を伝える時は、花でもいいんじゃないか? 相手はお前と違って、気品あふれるエルフだ。花言葉ぐらいわかるだろ?」
「それいいですね! 素敵じゃないですか!」
ルルクが喜んだように同調する。直後、ミーシャがルルクのヘッドロックから抜け出した。
ちょっとだけ痛そうにしながら頭を抑えるミーシャ。マオが思わず「大丈夫?」と声を掛けると、ミーシャはマオの身体に抱きついた。
「わっ! ど、どうしたの?」
「いじめられた。ルルクにいじめられたのぉー!」
「え、う、うん。そうだね」
「だから私を慰めてぇー!」
ワンワンと泣くミーシャ。マオはとっても困った顔をしながら、よしよしと頭を撫でた。
「しかし、どんな花を贈ればいいんだ?」
「さすがに調べないといけませんし」
「ただの花だと味気ないだろ? どうせならここにいる錬金術師に頼れ」
一瞬、アイザックの言葉が理解できなかった。
そんな二人を見たアイザックは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「おい、マオ」
アイザックに呼ばれ、顔を向ける。
目に入ってきたのは、何かを企んでいる顔をしたアイザックの姿だった。
「お前に課題を与える。〈フロストブルー・ローズ〉を作れ」
それは、思いもしない試練の始まりでもあった。
2019/05/15
エピソード展開の変更をして書き直しました