第10話 漢の中の漢!? ガリウスさんの恋
ダンジョン〈悪魔の宝物庫〉の問題を解決し、そのお礼として〈最高品質の特上薬草〉を手に入れたマオ。
アイザック、ルルク、ミーシャと一緒にダンジョンとそこに住む魔物達と別れを告げ、トトリカ魔術学園へと戻ってきたのだった。
「大変だったねぇー」
「ホント、お掃除はしばらくいいかなぁー」
「ハハハッ、みんなお疲れ様」
マオ達はのほほんと談笑を交わしていた。
そんな最中、アイザックは何かに気づき顔を上げる。するとそこには、ちょっと困った顔をしているウンディーネの姿があった。
「どうした?」
ウンディーネはジェスチャーを交え、必死にアイザックに何かを告げる。しかし、アイザックは何を伝えようとしているのか全くわからなかった。
「マオちゃーん!」
疑問符を浮かべていると、野太い声が響いた。
アイザックはその声を聞いた瞬間、まさかと顔を青ざめさせた。
「ガリウスさん?」
「うぉおおぉぉぉぉぉッッッ! 待っていたよォォ!」
フサフサのヒゲに、武骨といえる顔。これでもか、と言っているかのように隆起した筋肉が全身を覆っている。
上半身がタンクトップのためか、ムキムキ加減がさらに強調されていた。
そんなドワーフが、泣き叫びながらマオに飛び込んでくる。
あまりにも唐突なことに、マオはそのままドワーフに抱きつかれてしまった。
「ちょ、ちょっとガリウスさん!?」
「聞いてくれよ、マオちゃん! あの方が、振り向いてくれないんだよォォ!」
大きな声で泣きながらマオの胸に顔を埋めるドワーフ。マオはとても困った顔をして笑っていた。
「ねぇ、これ何?」
「熱烈なおかえりムード、ではなさそうだね」
ポカンとするミーシャとルルク。マオが助けを求めるように顔を向けるが、ルルク達はどうすればいいか全くわからなかった。
「おいおい、ガリウス。マオが困っているだろ」
「うるせぇ、真っ黒スライム! お前に俺の気持ちがわかるもんか!!」
「わかりたくはないわ! 少なくとも、学生に泣きつく教師なんざ知らんわ!」
アイザックといがみ合い始めるガリウス。ルルクとミーシャはさらにポカンと見つめていると、ウンディーネが大きなため息を吐き出していた。
「えっと、すみません。話が全く見えないんですが」
ルルクが思わず声をかけて、なぜ泣いているのか訊ねる。
すると途端にガリウスはゴホンと咳払いをし、いろいろと整えてから質問に答え始めた。
「すまない、取り乱してしまった。俺の名前はガリウス。職人科に所属する教師であり、ギルド〈職人連盟〉のギルドマスターを務めている者だ」
突然キリッとした目で自己紹介を始めるガリウス。ルルク達は若干戸惑いながら、自分の名前をガリウスに告げた。
「なるほど、ルルクとミーシャか。君達は見た限り、冒険科に所属しているな」
「ま、まあそうですが」
「どうしてわかったの?」
「何、一目見ればわかるさ。ガーハッハッハッ!」
「襟につけているバッジを見ればわかるだろうが。そこ誤魔化すな」
ガリウスに茶々を入れるアイザック。ガリウスは途端に「黙ってやがれ、スライム」とドスの利いた声を放った。
しかし、アイザックはその言葉を聞いてなかったふりをして話を進めた。
「それで、まだ追いかけているのか?」
「当たり前だ! 彼女は俺にとって天使、いや女神だ! 振り向いてもらうまで、諦める気は毛頭ない!」
「いい加減、ストーカーはやめろ。自治警察に捕まっても知らんぞ」
「ストーカーではない! 愛の追跡だ!」
アイザックはため息を吐いた。同時にルルク達は、ガリウスが何をしているのか知る。
「関わらないほうがいいかも」
「そうではあるんだけど……」
ルルクは思わずマオに顔を向ける。するとマオは本当に困ったような顔をして笑っていた。
そんな顔を見たルルクは、堪らずため息を吐く。自分の人のよさに呆れつつ、仕方なくガリウスが抱えている問題について踏み込んだ。
「それで、一体誰を追いかけているんですか?」
「よくぞ聞いてくれた! この燃え上がる恋を、消えぬ愛を注いでいるお方がいる。その方の名は、リリシア・レベナント嬢だ!」
ガリウスから放たれた名前を聞き、ルルクとミーシャは驚愕して「えー!」と大声を出してしまった。
リリシア・レベナント。それはトトリカ魔術学園きっての天才と呼ばれているエルフ少女であった。