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STAR GAZER  作者: 恵
7/7

9月20日 春見舞歌

9月20日



 秋休みに3人で旅行に行こうといい始めたのが誰だったのかはわからない。

でも、気が付いたら3人ともすごく楽しみにしていて、これまでにないくらい素早く計画が立っていた。

翼が写真を撮りたいというので、京都にでも行って、二泊三日くらいでまったり観光をしようという小旅行だ。

こんなに自由だなんて、高校生になったのだな、と実感して胸がとくとくと高鳴る。

しかし、それには一つ大きな問題があった。




幸菜の成績だ。

先週も一人だけ空き教室に呼び出されて説教を受けていた。

その日の帰りにドーナツを食べているときに、秋休みの間に指導のための特別授業があるらしいと翼が二人に言ったのだ。

なんで翼がそんなこと知ってるの、と聞いたら、二人を待っている間に駄弁っていた男子に聞いたんだ、と事もなげに言われた。

恐るべしコミュ力お化け。

秋休みの特別授業を回避するためには、先々週にあった前期期末考査の追試で合格しないといけないらしく、幸菜は見事に全教科で追試を食らっていた。

学年順位がちょうど半分くらいの舞歌は手助けできることは少ないだろうが、なんせここには学年4位の翼がいる。

ということで、追試までの数日間、放課後や休日、ファミレスやカフェで3人で集まって、時には幸菜の彼氏の石井琉伊も交えて勉強をすることになった。

幸菜の成績を見た時の翼の反応が、今でも舞歌は忘れられない。

当然かのように並ぶ学年下位から5位以内の順位と、ほぼ0に近い偏差値。

ティラミスを一口分より少し多く乗せた翼のフォークが、口に届くより先に床に落ちた。

顔を上げた翼は完全にスイッチが入っていて、それから幸菜は泣きそうになりながら必死にシャーペンを動かす日々が始まった。





 横でスイーツを食べながら舞歌も翼の解説を聞いているけれど、翼は教え方がうまい。

幸菜も、始めの頃のように文句を言うことも現実逃避することもなくなった。

今日も、3人でドーナツ屋に入るとすぐに幸菜が隅のテーブルについて勉強道具を広げ始め、その向かいに翼が座って、舞歌が全員分の注文をした。

舞歌の抹茶ドーナツ、幸菜のアイスティーはストレート、翼にはエンゼルクリームとブラックコーヒー。

二人の好みはすっかり覚えたし、向こうも舞歌の好きなものは何でも分かるようになっていた。



 舞歌が楽しいと思うのは、そんな三人の「好きなもの」を共有しあえることだ。

嫌いなものやマイナスの感情を共有したら人の距離はぐっと縮まるというけれど、そうやって築いた関係ってあんまりハッピーじゃない。

例えば、極端に言えば苛めとか、そういうことで仲良くなった相手なんて、本当の友達じゃない。

それをわからず苛めを繰り返している同級生たちのことを、幸菜は軽蔑していて、翼は可哀そうだとあざけっていた。

舞歌は、ほかの二人のように強くない、自分がいじめにあったらと思うと、二人のように割り切った態度はとれない。

でも、少なくとも二人にだけはいじめに合ってなんかほしくない。

まぁ、この二人はそんなことされないだろうし、もしされてもなんとも思わなそうだけど。




そんなことを思っているうちに、店員さんがトレーに乗せたドーナツを運んできてくれた。

舞歌が受け取ると、翼のエンゼルクリームからはみ出していたクリームが手についた。


「幸菜、ナプキンとって」


ノートをのぞき込んでいた二人が、同時に顔を上げた。

舞歌の、クリームが付いた人差し指を見て翼が悪戯な笑みを浮かべる。


「舐めちゃえばいいじゃん」


指を舐めるなんてはしたないこと、これまでの舞歌には絶対できなかった。

周囲が持っている舞歌のイメージ。

≪清楚で真面目なお嬢様»

そんなもの、壊してしまえ。

自分を、他人が作った殻に押し込めるなんて楽しくない。



舞歌は、不敵な笑顔でペロリと指を舐めた。


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