9月13日 木ノ原幸菜
9月13日
あー、あっつい。
何でこの部屋クーラーついてないわけ?
南側の校舎の最上階にあんのに、クーラーないとかマジで鬼畜。
ていうか、この学校でクーラーついてないのって、この部屋だけでしょ。
わざわざそんな部屋でお説教しようとか、この先生ドМか。
別にさ、授業真面目に受けてないわけじゃないじゃん。
毎日出席して授業も参加して、課題は提出しないし赤点とるけど、それ以外は真面目だよ?
よっぽど翼とかの方が、しょっちゅう男と一緒に学校さぼるし、授業は全部寝てるし。
成績はいいけど、普通に考えたら不良じゃん。
放課後になった瞬間髪ほどいて色付きリップとマニキュア塗るし。
別に、舞歌みたいに優等生優等生してるのがいいとは思わないけど、翼は生徒指導受けないのに私だけ説教されるのがおかしいでしょ、って言いたい。
頭悪いのは遺伝なんだって、たぶん。
だから先生、そんなにユデダコみたいに真っ赤になりながら怒っても仕方ないんだってば。
母親・・・は頭いいから、じゃあ、どこの誰とも知れない私の父親ってことになってる男のせいだよ。
きっと、そいつが馬鹿だったんだって。
会ったことないけど。
母親ですら誰との子なのかわかってないけど。
DNAには逆らえないんでしょ、舞歌の言葉借りたら。
あぁもう、この先生うるさいな。
何も心に入ってこない。
そんなに必死に語ったところでさ、結局赤の他人なんだって。
人間ってのは、分かり合えるわけがないの。
誰も、私のことなんてわかんないんだって、結局は。
そんなことも理解せずに教師になろうとか、この人どんだけハッピーな脳みそしてんのよ。
ハッピーリーフ、って名前の私より幸せそうだな。
それ言ったら、舞歌と翼はそれがわかってる。
他人のことは理解しきれないことを理解したうえで付き合ってるから楽なんだよね。
ほかの女子はさ、「なんで私のことわかってくれないの」って大声で喚くことで周りに人集めて慰めあってんじゃん。
それって結局、本当の意味での人との付き合いじゃないし、そうやって寄ってきた人が自分のことわかってくれるわけじゃない。
そういう女子たちって、「私は一人だ」って泣いたフリしてるだけで本当は一人じゃないの。
自分は一人だ、って言えるのは、私みたいに本当に一人で、泣くことすらできない人間なんだって。
これくらい、学年ビリの私でもわかるのにああいう女子たちって本当阿呆。
きっと、そういう阿呆な女子たちにはこのユデダコ先生の言葉も響いて、それで泣いたりするんでしょ?
で、そういう女子たちがなぜかモテる。
まぁ、翼みたいなのが結局はいちばんモテるんだけどね。
でも、なんであいつって闇あるんだろう?
私は父親いなくて、舞歌は体悪くて、っていうわかりやすい理由があるけど、翼ってパット見完全に満たされてるのに。
男にも女にも勉強にも趣味にも不自由したことないはずなのにな。
・・・たく、考え直したら翼って本当にパーフェクトガールじゃん。
うらやましいな・・・。
たぶんあいつは、私みたいに「誰にも理解されない」ってことで悩んだりしないんだろうな。
心の奥でどうなのかは分かんないけど、表向きにはそんなガキっぽいことで悩むとかないタイプだもんね。
そんな時間がもったいないー、楽しもうぜー、みたいな。
あぁ、自分で言ってて悲しくなったわ。
私ってほんとガキ。
でもさ、それで悩んでる間はそれはその人にとっては一番大事なことなんだって。
大人から見たら笑っちゃうようなことでも、今のうちらにとっては何よりも重大な悩みなの。
・・・って、これも翼が言ってたことだけど。
お、話終わった感じか?
あぁ、長かったぁ。
やっと帰れるわ。
今日は二人と一緒にでドーナツ食べに行く日だ。
もう三週間前から楽しみにしてたんだよ。
せっかく三人でデートの日なのにまったくこのユデダコは・・・。
「ゆきなー、長かったね」
おぉ、舞歌。
表で待っててくれたんだ。
まじそれな、ほんと話長かった。
やー、やっと解放されたわー。じゃ、行こっか。
教室に男といるであろう翼迎えに行こ?
そんなつまんない男より、ずっと素敵な女二人が来ましたよ、ってね。