1-9
「ゲイル!」
合図を出すと、ヘルムに集中し風をためる。ゲイルも準備が終わり、目の前を炎で埋め尽くした。それに貯めていた風を大きく吹き込み、地龍へ送る。輝くように全身が炎に包まれている。光は広場の奥まで影を払い、地面に刺さっている槌まで届いていた。
「無駄だ!」
地龍はそう叫び、細長い尻尾をムチのように飛ばしてきた。ダルシムが前にでて淡く緑に光る両刃の大剣を上に振りかぶった。勢いよく振り下ろし、尻尾を刃で迎えうつ。
ダルシムの鎧がオレンジ色に光り、ダンッと音を立てて尻尾を切断する。2mほどの尻尾の切れ端が岩の破片と共に後ろに飛んで行った。
地龍は赤熱しながらも、こちらを注意深く見つめている。あまり熱は効いていないようだ。
「目を狙う」
そう二人に告げ、動き出すより先にあちらに動きがあった。息を大きく吸い、口から燈色に輝くブレスを放った。
「寄れ!」
ゲイルは言い放つと体から白い光が滲む。すぐに2人も同じように発光に徐々にそれは強くなる。地龍の光の波をそのまま身構えて受けた。
(思ったより強力なブレスだ。これは何度も持たないな…)
光の渦に包まれながら、体を覆う奇跡を見る。これ程の濃い守りは数えるほどしか見たことがない。ゲイルほどの使い手といっても、あと2回が限界だろう。そう思考していると振動が微かに響いた。慌てて、近くにいるダルシムに叫ぶ。
「来る!受けるぞ!」
そういうとダルシムが鎧を光らせ、瞬時に横に付いた。光が晴れる前に地龍の太い右足が鋭い爪を赤く光らせながら、飛んできた。ダルシムは後ろゲイルを守るように大剣を力強く切り上げる。自らもマントに隠していた大きな左腕を同時に叩きつけた。
マントから初めて晒した左腕は黒く角ばっており、甲殻類の節のような関節がいくつもついている。その表面には斑模様がオレンジ色に淡く輝いていた。それは地龍の後ろにある大槌と似通っていた。
((ゴガンッ!!!))
衝撃が空気を揺らした。そのまま受け止めた赤く光る爪を二人で勢いよく弾く。
「クソ!無理言ってでももっといいやつを持ってくれば良かったぜ」
横を見ると憎々しい顔をしたゲイルが折れた刃がついた柄を握りしめていた。
(不味いな)
有効打になりえる攻撃が減ることは、戦闘の長期化を意味した。しかしブレスを何度も防ぐ術はない。
(短期でケリをつける。)
持っているサーベルを見た後、ダルシムに視線を飛ばす。目があった後、左腕を覆う手甲をコンコンと叩いた。
「……!」
気づいたようだ。あとは注意を引けばいい。合図を交わしていると光はすっかり晴れていた。
地龍は険しい表情でこちらを睨んでいた。先ほどの攻撃を返されたのが応えているのだろうか。こちらの出方を伺っている。
「いくぞ!」
声を張り上げ三人がそれぞれ動き出した。ゲイルを除く2人が走り出すと、後ろから炎を巻き上がる。それに最初と同じように風を送り、地龍を炎の渦で包み込む。
すぐ脇を地龍の尻尾が抜ける。ゲイルに向かっているが、当てずっぽうの攻撃など何とかするだろう。そう思い、風を背に受け、炎の中へ飛んだ。
視界が悪いが、頭の位置は大体事前に検討を付けてきた。サーベルをオレンジに強く光らせ、視界に急に入ってきた地龍の頭に勢いのまま深く突き刺す。
(手応えあった!)
そう感じ、急いで剣を引き抜き、飛びのく。そのあとに赤い爪が飛んできた。
地面を跳ね、距離を取る。一応確認したが、後ろのゲイルも無事だ。剣には少量の血と、多量の半透明なジェル状のものがこびり着いていた。
炎が晴れ、片目がつぶれた地龍の姿が明らかになった。
「おのれ、小細工を!!」
そう叫び、怒りを宿した片目でこちらを見る。
(もう少し…)
サーベルを振りもう片方の目を狙う。ついでに付着していたものが払われた。斬撃は軽くいなされてしまったが、作戦通りに行ったと確信した。
地龍も流石に1人の姿が見えないことに気づいた。隠れている女のことではない。
「どこに行った…。まさかっ!」
地龍は後ろを振り返ると、戦槌の柄に手をかけようとしているダルシムの姿があった。