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桃太郎とロッキンチェア  作者: オポッサム
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おじいさんとロッキンチェア

昔々、あるところにおじいさんと、おばあさんが住んでいました。

おじいさんと、おばあさんは千葉県の佐倉という町で暮らしていました。

本当は、神奈川県の鎌倉に住みたかったのですが、

自動車整備をしているおじいさんの収入では、

佐倉に古民家という名の中古住宅を買うのが限界だったのです。


そんなある日、おじいさんは山に柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に行きました。


柴刈り?なんだそりゃ?と思った事はないでしょうか。

柴刈りとは、薪木用の小枝を探しに行く事なのです。

田舎にはそういう謎の言葉があります。

東北で魚を釣りに行くと「お、雑魚釣りか?」と言われます。

僕の釣る魚は、ザコなんかじゃないやい!という気持ちになりますが、

田舎者に悪気はないのです。

例え発音が「ザッコ釣り」という、馬鹿にしているようなイントネーションだったとしても、

素直に魚と言えばいいのに…などと思ってはいけません。


おじいさんはドンドン山を登っていきます。

昔は体育会系で鳴らした、というか体育会系の世界しか知らないおじいさんは、

後輩に水割りを作らせるのと同じくらい、体を動かすのが好きでした。

その時です!


「砂漠っ!」


おじいさんが急に叫びました。

誰がこの言葉の意味を予想できるでしょう。

この「砂漠っ!」は、目上の人間のグラスが空になっている事を、

後輩に知らせるための、謎体育会系ワードなのです!


「ついつい、昔の事を思い出しながら歩いていたら、砂漠コールをしてしまった…」


驚いた事に、特に意味の無いタイミングでの「砂漠っ!」コールだったのです。

体に染み込んだ謎ルール。何人の後輩達を泣かした事でしょう。


それからも時々おじいさんは、謎の独り言を発しながら、山をグイグイ登りました。

「本当はホグワーツに行きたかった…」

「ハーマイオニーとハーオイナニーしたかった…」

おじいさんにとって山は、現代人にとってのバスルームのようなもので、

とりとめの無い思考が頭をよぎるようです。


グイグイグイグイ、おじいさんは山を登ります。

真実を語るなら、佐倉には高い山などなく、ほとんど丘のようなものなので、

おじいさんは同じ場所を何度も往復していました。


おじいさんは、この生活に膿んでしまっていたのです。

決しておじいさんの生活は、不幸ではありませんでした。

生きていくには何とかなる稼ぎはあり、

低いレベルではあるものの、安定した暮らしがありました。


おばあさんの事も嫌いじゃありません。

というか、長年連れ添うと、好きとか嫌いなどでは計れないものも、生まれるのです。

二十歳から四十年連れ添ったおばあさんは、容姿がどうとか、性格がどうとかいう前に、

今や自分の人生の一部なのです。


夕暮れ時の丘の頂上から見る夕日は、佐倉のちっぽけな街を真横になぎ払い、

オレンジと黒の線を世界に引きました。


「…美しい、だけどワシの冒険は終わってしまっている。」


夕飯を作る匂いが、町中に満ちています。幸せの匂いです。

町の中には、実は不幸な人や、咎人もいるかもしれません。

しかし、今だけは全員が同じ色に染まります。


「ロッキングチェアで揺れるような毎日。学生時代よりも退廃的で」

消えたくなるような気持ち。

言葉の続きを、おじいさんは紡げませんでした。


おばあさん、おばあさんは今日、川で何をしていたのでしょうか。

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