過去編:自分の無力さ
皆様に悲しいお知らせです。
次回でこの作品完結となります。
「嘘です」
ですが、もう一話書いたら長期のおやすみをさせていただきます。
本当にすいません!、しばらくの間療養生活を送ろうと思います。
ついでに小説のお勉強もしてきますね。
文字通りの『鬼ごっこ』は途中からいかに俺が他の生徒にあてず、デスジャッカルに弾を当てるかという競技に変わっていた。
結果俺は引き金を一度も引くことなくデスジャッカルを屋上へ追い込むことが出来た。
上手く行き過ぎていると、なんの疑いもせずに。
「ここがお前の終点だな」
「忘れてないかい、こっちには人質がいるのを」
「忘れてなんかないさ。ただ、時を操れるのは何もお前だけじゃない」
「残念だ、それはもう対策したよ」
意味がわからなかった。だが、その疑問は口に出す前に結果だけが体に伝わった。
「君の体から味覚と視覚を奪わせてもらった、まあ、情けで戦いに必要ないのは残してあげたけど。逃げ回っていたのはこのため」
ブラックアウトした視界で俺の不安を煽るように、デスジャッカルは淡々と喋っている。
「彼女が死んでいくところをその目に焼き付けておくといい。あ、でも目は見えないんだったか。あはははは」
煽って怒らせたいのだろうか、こいつは俺が殺してやりたいこいつ自身が望まずとも、すぐに地獄を見せてやる。
「聴覚を残したのは、失敗だな」
若干だが、耳が聞こえればわずかな風からでも地形を記憶していれば。
後方に一人デスジャッカルの声が聞こえた方向だからさっきの場所からは確実に移動しているはずと仮定して、後ろにいても違和感はない。
もう一つわかりにくいが、風に乗ってかすかに結愛のにおいが二時の方向からする。
たとえ目が見えなかろうと、そこにいるなら俺は間違えない。
「君の鼻が嗅ぎつけたのは本当に彼女かい?」
「なんだと」
「自分の勘を信じるのもいいけど。傷つくのは君じゃなくて、君の身勝手な判断に巻き込まれた彼女だ」
判断を鈍らせる作戦か、俺にその手は食わない。
「なら、いま最善の方法をとらせてもらう」
俺の悔いの残らない選択を。
デスジャッカル気配がする方へ迷わず、走り込む。
「なっ、目が見えていないのに。こいつ正気なのか!」
「俺の正義はなぁ!、俺自身の自己犠牲があって初めて成立するもんなんだよぉ!」
「馬鹿だ」
いや、俺の正義はかわいいだけど。
タックルを決め押し倒したデスジャッカルの頭へコルトパイソンを突き付けた。
「俺の勝ちだな」
「見えてないだろうけど」
デスジャッカルが右手に何かを持ったのが分かった、だがその手の動きが見えなかった俺には止めることが出来なかった。
デスジャッカルが右手に持っていたのは奴自身の愛銃だった、引き金が引かれた音と共に無情に銃声がなり放たれた弾丸は、結愛の体を撃ち抜いた。
「結局君はなにも守れない、自分自身も大切な人も」
「黙れよ、地獄で苦しめ」
「その引き金を引けば君から奪った感覚は二度と戻らないよ」
「言っただろ、俺の正義は俺自身自己犠牲があってこそ成立するもんだって」
コルトパイソンの引き金を引いた、勢いよく飛び散った血が俺の額を滑り落ちた、悲しみの涙のように。
三日後。
結愛の葬式に最後の顔合わせのために来ていた、なにを言われようと覚悟はしていた。
焼香をあげ、帰ろうとしたとき一人の男に止められた。
「お前何者なんだ」
その男は結愛の彼氏昭人だった。
「俺はお前をつるし上げればいいのか? お前がいなきゃ結愛は今も笑顔で笑ってるんだって、全部お前のせいにして」
「そうおもったならそうじゃないのか」
「お前、何者なんだ」
「ただの殺し屋だ」
そう発した瞬間当然の反応だが周囲がざわざわと、騒ぎ始めた。
「殺し屋? じゃあお前歳は」
「偽造だ俺は今年で十四だ」
「その年でなんで殺し屋なんか」
「運命ってやつだろうな、実際問題俺が初めて人を殺したのは小学生の時実の両親をだ」
「お前今回の奴に心当たりはあるのか」
「サイファーだったか、身に覚えはないな」
「俺に手伝わせろ、結愛の敵討ちがしたい」
「甘い世界じゃないぞ」
「大切なもん奪われてなにもしない奴が、いざというとき別の大切なもんを守れるわけないだろう。俺はその為の力が欲しい」
「それは同感なんだが」
「覚悟は出来てる」
その時、俺と昭人は握手をした。
その感触と感情を俺は今でも覚えている、味覚と視覚をなくした俺と。
愛する人を奪われた昭人の、サイファーへの復讐はここから始まったのだった。
「思い出すだけでも嘔吐が出るな、サイファーの野郎死んでも許さねぇあのクソ兄貴も」
「ミストラルをお前が越えられるとは思えないな」
「いいんだよ、俺の残りの残機全部使ったってあのクソ兄貴は地獄へ送ってやる」
「お前が千人居ても不可能だ。しかも、勘違いしているのかもしれないがあと二回死ねばもうこの世界には居られないぞ」
「 は、あと四回あるだろ」
「残念じゃがな、あと二回じゃ」
「はは、それはそれはさっさと兄貴と決着着けないとかよ」
詰んだ、いやこれ絶対詰んだ。




