日常の始まり
目覚めると午前五時、ベッドの横には当たり前のように千聖ちゃんが眠っている。
動きやすいジャージに着替えてゆっくりと階段を降りていく、久しぶりに日課だったものをこなしてみよう。
脆葉月を手に取り、庭で鞘に入れたまま素振りをする、今度からは魔法が使えなくなる、自身の技術面を鍛えないといけないと思う。
「それにしても、こんなに重かったかこの刀」
一時間ほどたっだろうか、物音が外からし近づいてみると、一匹の柴犬がそこにはいた。
見てみるとまだ子犬、捨てられたのだろうか、近づくと人懐っこく、手を舐めてきた。
「おかしいな、この辺民家はないはずなんだけどな」
首輪すらつけていない、飼い犬じゃないことだけは確かだろう。
「お前うちに来るか!、名犬に育ててやろう」
「ワン!」
家に戻り犬にミルクをあげ、素振りの続きをしていると庭に繋がる家の窓が開いた。
「おはよう」
「おはよう優奈さん、起こしちゃった?」
「違うわ、いつもこの時間に起きてるの」
「ならよかった」
「彼方はなにをしていたの?」
「日課、みたいなものかな」
「そう」
「あ、コーヒーでも入れるよ、紅茶がいい?」
「紅茶がいいわ、苦い物は苦手なの」
「同感だ、いま入れるよ」
脆葉月を置き、キッチンへと向かう。
紅茶を入れて、テーブルに座る、いつも一人だったことを考えるとやはり、賑やかになったのだろう。
「さてと、俺は着替えてくるかな、汗臭いし」
立ち上がりシャワーを浴びて戻ってくるとリサちゃんがリビングにいた。
「おはようございます大輝さん」
「おはようリサちゃん、リサちゃんも朝早いんだね」
「私達学校までが遠かったからね」
「そうだよねぇ、普通なら一番遠いはずの千聖ちゃんが一番早く起きてないと、だめなんだよねぇ」
「そうだね」
リサちゃんの分の紅茶を入れていると、二階から千聖ちゃんとのんちゃんが降りてきた。
「おはようございます皆さん」
「おはよう、のんちゃん千聖ちゃん」
「おはよう」
少なからずまだ眠そうな千聖ちゃんだが、朝ご飯を食べればなんとかなるだろう。
漬け物と、焼き魚、煮物と味噌汁、それにご飯、ほとんど手抜きだが、朝ならこれぐらいがちょうどいいだろう。
「そういえばさっきから気になってはいたんだけど」
「ん?」
「外にいるあの犬は?」
「あー、あれはね、さっき拾った野良犬」
「なるほど」
黙々と食事を済ませ、仕事着に着替え使ってなかったエボのエンジンを掛ける。
GT-Rは現在行方不明、ではなく会社の車庫に止まってる、ライムが現場まで取りに行ってくれたらしい。
本当なら、ルイが自動運転で持ち帰ってくれるのが一番なのだが。
(注:ルイは世界に一つの方向音痴AI、メイドインジャパンです)
「四人とも狭くていいなら送ってくけど、どうする?」
そもそも歩いて数キロなのだから、俺は歩いて行く予定なのだが。
「送ってかなくていいなら俺も歩いて行くんだけど」
たまに車もエンジン掛けたり走らせたりしないと、動かなくなったりバッテリー上がったりと、色々大変なんだよね。
「私達も一緒に歩いて行くよ、そんなに時間が掛かるようなものでもないし」
ちなみに、この家から学校まではバスすらありません。
「了解」
車のエンジンを切り、外に出て犬に首輪をつけてリードで繋ぐと、四人が家から出て来た。
「時間はまだ早いけどもう行く?」
「私は部活が」
「私は課題が終わってないので、学校で終わらせちゃおうかと」
部活のあるリサちゃんと、いまだに課題の終わっていないのんちゃん、優奈さんと千聖ちゃんはついでだろう。
「俺も早めに行かないと行けないんだよな、今日初日だし」
時刻は七時ちょうど、歩いて三十分くらいだから、着いたらちょうどいい時間になっているだろうから、いいか。
「じゃあ、一緒に行こうよ!」
「ああ、そうするよ」
※
学校に着くなり思った、敷地がデカい。
三校をミックスしたんだから当たり前、と言われればそれまでだが、いいな、俺もこんな校舎で窓ガラス割りながら回りたかったな。
問題なく学校が終わり帰ろうとすると、後ろから声を掛けられた。
「もう帰るの?」
振り返ると後ろにいたのは千聖ちゃんだった。
「うん千聖ちゃん、もう帰るけど?」
「それなら私も一緒に帰るわ」
「え、俺は家に直行するつもりないんだけど」
「どこかいくのかしら」
「車取りに行こうかなと」
「ならついていくわ」
「ええ」
「なにかやましいことでも?」
「ないです、ごめんなさいゆるしてください」
逆らわないようにしよう、女ってやっぱ怖い。
会社の車庫まで歩いて行くと、GT-Rが置いてあったのだが、なにせここまで来るのに千聖ちゃんに合わせて歩いていたら、二時間も掛かってしまった。
千聖ちゃんが歩き疲れてしまった事もあり、鍵を開け中に座らせて置き会社の中へ入った、はっきり言って一緒じゃない方が都合がよかった。
部屋に入ると中にはいつも通り、ライムとルカがいた。
「頼んだ物は出来てるか?」
「出来てるよ、いままで世界になかったと言っても、基本的なのはコンピューターと変わりないからな、もう一個の方も完成してる大変だったよ探すのが」
「魔法が使えなくなってなかったら、自分でやったんだけどな」
「自分でやった方が早いか?」
「もち、自分でやれば一時間しか掛からないよ」
「だろうな」
「もう一個の頼んでたロボットの方も頼んだぞ」
「おう、任せろ」
車に戻ると千聖ちゃんが眠っていた、本当に自由なんだから、でもその寝顔もかわいいから憎めないよなぁ。
「ルイ、エンジン掛けろ」
〔マスター、そのお方は一体〕
「あれ、お前この前の時いなかったっけ?」
(注:三十四話の話)
〔いましたが、寝てました〕
「そうだよな、車乗ってるときはいらないもんな」
〔イエス〕
「婚約者の千聖ちゃん」
〔マスター、とうとう身を固めようと?〕
「誰が婚約者なのかしら?」
アクセルを踏み発進しようとした最中、千聖ちゃんが目覚めた。
「やばっ、聞かれてたか」
「私は告白もされてなければ、あなたの気持ちなんて一切聞いてないわよ」
「その物言いだとまんざらでもないって感じ?」
「どうかしらね」
「ま、話の続きは家に帰ってからゆっくりとね、シートベルトして、車が動かないから」
「そうね、あとでゆっくりと」
そう言って千聖ちゃんは、大人しくシートベルトをしていた、なんだかんだ転がされてる気もしなくはないが、しぶしぶ車を発進させた。
※
家に着くと、午後六時、家には全員が帰ってきていた。
犬にミルクをあげてルカから預かった荷物を運び。
戻って来ると犬がミルクを飲み終わっていた。
「お前も名前つけないとな」
「ワン」
「その前に風呂だな」
朝から放置していたが、そこら中泥だらけなんだよな。
「リサちゃんに晩ご飯作ってもらって、俺はこいつを綺麗にすることにしよう」
犬を持ち上げて家の中に入る、うちに居る女性陣で唯一の料理ができるリサちゃんに料理を任せよう。
「リサちゃーん、今日の晩ご飯頼んだ」
「私でいいんですか?」
「他の三人が料理できるとでも?」
「失礼な!、私はできますよ」
もっともな事を言っていると、のんちゃんから批判が飛んできた。
よくよく考えると、のんちゃんは一人暮らししてたんですよね。
「んじゃ、二人に頼んだ、千聖ちゃんと優奈さんには絶対やらせるなよ」
二人の記憶を探っただけで料理が出来ないのは、もうしってる。
(注:魔法は使えなくても、魔法のような事ができます色々と)
「なら私は、あなたの手伝いをするわ」
「いいよ千聖ちゃん、この汚いの洗うだけだから」
「ワンッ」
手伝うわよ、と言って千聖ちゃんが犬を俺の手から取って風呂場へ向かっていった。
「取られた」
「大輝さんも一緒に行ってきたらいいじゃないですか」
「そうするか」
腕をまくって風呂場へ向かうと犬っころの処刑(お風呂)が始まっていた。
「千聖さん、どうしたらこんなに泡だらけになるんですかね」
この短時間でなにがあったのかは知らないが、風呂場が泡だらけになっている。
「普通にシャンプーで洗っただけよ?」
「千聖ちゃんストーップ、死んじゃうから流して!」
「若いうちはちょっとくらい無理したって大丈夫よ」
いや、犬がジタバタしてめっちゃ暴れてるんだけど、大丈夫じゃないと思うんですけど。
「だめー早く流せー!」
「大丈夫よ」
「だめ!さっさとシャワー返せ!」
揉み合っていると千聖ちゃんが倒れて、お決まりの状態になってしまった。
「どいてくれるかしら」
「どくよ!犬が死ぬから!!」
ジャーっと犬を洗いバタバタしていると、なんだか、外から声が聞こえた。
「二人とも仲がいいですね」
「そうだねぇ」
※
「うっげぇ疲れた」
「まったく、人を手間の掛かる 子供みたいにいうんだから」
「子供だよ!、少なからず俺からしたら、完全に子供だよ!?」
(注:同い年です)
「お前の名前どうするか」
「ベタにポチとかでいいんじゃないかしら」
「そうだなポチでいいか」
そう言うと犬がわかりやすく、口をがんぐり開け呆然としていた。
「今日からお前はポチだ、小屋作ってやるから落ちこむな」
「ウ~」
「ちょうどご飯できたからみんなでたべよー」
「その前に俺は着替えてくるわ、どっかの誰かさんのせいで服がびっしょりだから」
「私も着替えてくるわ」
「二人とも仲が良いね」
「どこがだよ」




